◆民主党農政の問題点
“民主党は、政権交代後、マニュフェストに掲げた無駄の削減などによる財源の調達ができなかった。このため、民主党農政は、政権交代前に2.5兆円を超えていた農業予算総額を、平成24年度予算額2.1兆円まで急激かつ大幅に削減したうえで、その少ない予算総額の中で無理やりマニュフェストに掲げた農業者戸別所得補償制度の実現を図ったため、農業基盤整備など死活的に重要な予算を7割カットするなどわが国の農業の発展に致命的な打撃を与えつつある。”
これは、自民党の「力強い日本農業への道筋を考えるPT」が取りまとめ、このほど(3月23日)同党農林部会が“了承”した「自民党の農政ビジョンに基づく平成24年度予算の組み替えの考え方」の説明資料の、「民主党農政」に×をつけた欄に出てくる文章である。民主党農政の問題点を端的に示していると評価していいだろう。
組み替え案は、この認識から当然導き出される大幅に削減された“死活的に重要な予算”の復活、農業農村基盤整備事業予算の大幅増を一つの柱にしている。もう一つは自民党がすでに国会に法案を提出している多面的機能直接支払い法案と担い手総合支援法案の成立を前提にしての、それら二法案に盛り込んだ施策実現のための予算案である。水田・畑の区別や何を作るかを問わず、“農地を農地として維持すること”の意義を評価して直接支払いを行う多面的機能直接支払い法案は、すでに実施されている中山間地域直接支払制度や農地・水保全管理支払などを取り込んでつくられているし、担い手総合支援法案でやろうとしている農業の担い手を新規就農から経営委譲まで一貫して応援する事業も、来年度予算には新規就農総合支援事業として新規に組まれている。これら事業の大幅拡充がもう一つの柱になっているわけだが、組替案を一表にしておくと次のようになる。
表示した項目以外に、農畜産業振興機構の“保有資金の拡大”“畜特資金の大幅拡充”“リース支援事業の大幅拡充”などが畜産・酪農に関して取り上げられていることを付け加えておこう。
◆自民対策の問題点
表示した各費目の増で、政府予算案に対し6876億円の増額組替案になっている。増額の52%は農業農村基盤整備事業であり、16%が多面的機能直接支払いとなる。農業農村基盤整備事業組替要求額5772億円は09年度当初予算と同じであり、自民党の組替要求予算額としてはごく自然の要求額になるのだろう。
農業水利施設の“老朽化”進行、事故発生件数の増加傾向は、去年の農業白書も大きく問題として取り上げていた。“死活的に重要な予算”の復活は多くの人の支持が得られるのではないか。
多面的機能直接支払いや農地・水保全管理支払い、環境保全型農業直接支払いなどを統合・強化することは私も賛成だ。が、農業者戸別所得補償制度として行われている米固定払いも統合するというのは如何なものか。
米の固定払いも麦・大豆の所得補償交付金も、それぞれの“標準的な生産費と標準的な販売価格の差額分”として交付金単価を算定することに原則はなっている。(実際は米については“米の生産を抑制し、…転作を進める観点から、標準的な生産費を「経営費+家族労働費の8割」”としている。その問題性については「日本農業年報」第57集所載の拙稿を見てほしい)。
多面的機能直接支払いでの支払い単価の算定方法は明示されていないが、田畑の区別も、何を作るかも問うことなく“農地を農地として維持することに対しての直接支払い”では、作目による単価のちがいはむろんあり得ないということだろう。数量払いと面積払いに分けられてはいるが、“標準的な生産費と標準的な販売価格の差額分”としての麦・大豆の所得補償を一方では容認していながら、同じ原則で算定している米固定払いだけを切り離して全く性格のちがう直接払いにするというのは、論理的整合性を欠くのではないか。
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戸別所得補償制度の見直しをめぐる民主、自民、公明3党の協議再開の調整が始まったらしい。“戸別”と冠することに自民党は猛反対らしいが、所得政策強化を意図したいい予算組替案を作ったところでもある。論理的整合性の欠けている点などを修正して協議をまとめ、所得補償制度を法制化してもらいたい。
【著者】梶井 功東京農工大学名誉教授