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時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(63) 今こそ、JAが発言すべき ―消費増税・社会保障、そして地域農業―

・消費増税にもっと声を
・「一体改革」の意図とは何か?
・農政課題も待ったなし

 新世紀JA研究会が、6月14、15日鳥取県でもった第12回セミナーを終わるに当たって、"日本をあらゆる形で米国化するTPPに断固反対"などとともに、"生活必需品、とりわけ農産物の生産・販売にかかわる消費税はゼロ税率とすべき"ことを大会アピールとして満場一致で可決、7月13日には政府及びJA全国連に要望書を提出するという。

◆消費増税にもっと声を

 新世紀JA研究会が、6月14、15日鳥取県でもった第12回セミナーを終わるに当たって、“日本をあらゆる形で米国化するTPPに断固反対”などとともに、“生活必需品、とりわけ農産物の生産・販売にかかわる消費税はゼロ税率とすべき”ことを大会アピールとして満場一致で可決、7月13日には政府及びJA全国連に要望書を提出するという。
 消費税問題についてのJA全中の方針について、6月12日付日本農業新聞は

 “消費税が増税された場合、価格に転嫁できずに農業者の負担が増すことが懸念されるため、生産資材をはじめ仕入れ分にかかる税額を補償する簡易な仕組みの創設を求める”

と報道していた。
 そんなことでは不十分であり、イギリスなどが行っているような食料農産物ゼロ税率適用を主張すべき、というのである。“簡易な仕組み”として全中がどういう仕組みを考えているのかは定かではないが、現行簡易課税制度の実態から考えて、そういい仕組みができるとは思えない。売上げの70%を仕入額と見なし税額を計算するのが現行方式だが、低農産物価格下では仕入額が売上げの70%を超えることになり、余計な税を払わされていることをもっと重視すべきだろう。
 TPPについては、すでにほとんどのJAが反対の意志を表明し、反対運動を活発に展開している。が、消費税問題について、JAから明確な意見表明があったのは、新世紀JA研究会大会アピールが最初ではないか。
 このアピールに続いて、多くのJAがこの問題を検討し、後に続いてほしいものだ。

◆「一体改革」の意図とは何か?

 今回の消費税増税(現行5%を14年8%、15年10%に引き上げ)は、“社会保障と税の一体改革”というふれ込みで行われた。が、10%になれば13・5兆円になる増収の中で、社会保障充実に予定されているのは2兆3000億円でしかない。
 “消費増税 衆院通過”を報じた朝日新聞は、それを報じた同じ一面で総額3兆円超の“新幹線を3区間あす認可”を報じ、三面では、“政府は…13・5兆円のうち7兆円を「財政再建」に役立てる”といっていること、“昨年の東日本大震災の後、防災などの名目で東京外郭環状道路や群馬・八ッ場(やんば)ダム、整備新幹線の3路線認可など大型公共工事が盛り込まれ、「人からコンクリート」に逆行している”ことを報じていた。“一体改革”が何を意図しているのか、明白としていい。
 同紙の七面にあった財政学の権威、神野博士の評を拝借しておこう。

 “結局、今回の消費増税は財政再建のためという目的が前面に出てしまった。だが、これまでに積み上がった国の借金を返すなら、消費増税ではなく、高所得者や資産がある人の税を増やすしかない。格差社会がさらに広がるからだ。
 世界では、高所得者への課税を強めようという流れになっている。”

◆農政課題も待ったなし

 消費税問題は、これから参議院に舞台を移すことになる。が、衆議院議決の際、小沢派を中心に57名の反対者、16名の欠席・棄権者計73名もの反対者が民主党から出、民主党の分裂も言われる中では、参議院での審議がすんなり行く筈もなく、目下のところ、どういうことになるのか予測もつかない。
 政局混迷のなかで、農政には早急に対処してもらわなければならない課題が山積している。東日本大震災の被災地農業の復興はその最たるものだが、被害農畜産物に対する東電の賠償すら岩手では56%、宮城では45%しか進んでいない。内閣改造で農相になって以来郡司農相は、農業者戸別所得補償制度について「来年の作付前の法制化」を繰り返し表明してきているが、この問題についての民主・自民・公明の三党協議も昨年末中断されて以来再開されていないし、論議が深まっているようには見えない。
 農水省が重点事業として今年度から始めた青年就農給付金事業の給付申請者が、8200人という農水省見込みの倍近い1万5400人になっているというが当然予算不足が心配される。農業者の高齢化が心配され続けられていたなかでは久方ぶりの朗報とすべく、農政の確かな対応が望まれているところだ。
 というように、消費税問題などで国会を空転させてもらいたくない、大事な時期なのである。
 消費税増税など、もともとマニュフェストに無かったことをやろうとするのは、国民への信義違反だと小沢元民主党代表は強調しているが、その通りだと私も思う。各JAで地元の民主党の先生方にこの点をどう考えているのか質ねるのも、いい運動になるのではないか。
 新世紀JA研究会の大会アピールにならって、JAとしては今こうしてもらいたいということを地域農業問題、TPP、消費税などについて、各JAも発言すべき時である。JA全中は7月5日に農水大臣に食料品、農産物等のゼロ税率を申し入れた。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2012.07.10)