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時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(64) 青年就農給付金事業への期待と課題

・予算の拡充は当然
・給付要件はどう見直すべきか?

 青年就農給付金事業への給付申請者として都道府県が要望した数は、農水省が予定した人数の1・88倍、1万5453人になった。研修中の者を含む準備型が1・63倍の3597人、06〜11年度に開始している人も含む経営開始型が1・98倍の1万1856人の計1万5453人である(6・27農水省発表)。

◆予算の拡充は当然

 青年就農給付金事業への給付申請者として都道府県が要望した数は、農水省が予定した人数の1・88倍、1万5453人になった。研修中の者を含む準備型が1・63倍の3597人、06〜11年度に開始している人も含む経営開始型が1・98倍の1万1856人の計1万5453人である(6・27農水省発表)。
 当然ながら予算の倍増を考えなければならないところだが、農水省は、“要望数が予算を大幅に上回ったことを受けて、都道府県向けに給付金の優先度の指針を策定。優先する対象として経営開始型、準備型ともに「妻子を抱えるなど、自ら生計を確保しなければならない人」、経営開始型は「高齢化が進み、新規就農者が必要な地域に就農する人」などを挙げた”という。
 “優先度”を示すということは、予算枠を重視して申請した人すべてを給付対象とはせず、しぼることを都道府県に求める、ということなのだろう。それでいいのだろうか。
 このことを報じた7・28付日本農業新聞は、この問題を取り上げた民主党戸別所得補償制度検討ワーキングチーム(WT)での“直接給付金を重視する民主党農政の典型例だ。給付希望者を門前払いにしてはならない”という篠原孝元農水副大臣の発言も紹介していた。
 “門前払いにしてはならない”というこの意見は、WTメンバー多数の同意するところとなり、8月2日WTは“青年就農給付金”について予算の拡充を求める提言をまとめたことを、8・2付日本農業新聞が報じている。“12年度補正予算の編成から予備費での拡充を求める”という。この提言が実現することを期待したい。

◆給付要件はどう見直すべきか?

 予備費ばかりでなく、“同WTの議論では要件の見直しも焦点になっている。農地では給付対象者が所有しているか、3親等以外からの貸借としている点などの緩和を求める意見が出ている。新規就農者が定着するよう、技術取得や販路開拓を支援する体制の整備も課題に上っている”という。
 “要件の見直し”が必要だ、ということについては、この新規就農支援策が予算に計上された時点で、本欄(2・10掲載の(58))でも指摘しておいた。“参考”にしたはずの“フランスにおける若者の就農支援策”とはだいぶ違っていることなどについては再読をお願いするとして、“農地では…緩和を求める意見が出ている”ということでもあるので、その点に関わって(58)で指摘しておいたことの再録をお許しいただきたい。“緩和”策立案の参考にしてほしいからである。(58)の終わり方だが、

 “この新規就農確保事業が対象とする”青年は、“原則40〜45歳未満”となっている。40〜45歳の“親元”新規就農者なら“5年以内”の“経営継承”も大いにあり得ることであろう。が、20代30代の場合はどうだろうか。まだまだ両親が健在で営農の中心になっている場合が多いだろうから“5年以内”の“経営継承”条件は家庭内不和の種をまくことになるのではないか。
 “独立・自営就農”には、“○自ら農地の所有権もしくは利用権…を有している。○主要な機械・施設を自ら所有・貸借している。○本人名義の通帳があり、売上や経営の支出などの経営収支を自らの通帳・帳簿で管理している”といったことが、“具体的”な“要件”として示されている。“親元就農”者でも事業対象者になり得るとされている条件の“親の経営から独立した部門経営”にも、この“具体的”な“要件”が要求されるのかどうか不明だが、少なくとも農地や主要な機械・施設についてつけられた“要件”は不要とすべきだろう。

◆地域条件に合わせ特例の検討も

 “5年以内”の“経営継承”要件については、“「5年は短い。親がまだ現役の場合もあり、運用を見直すべきだ」(北海道)との指摘がある”ことを7・2付日本農業新聞も報道していた。“新規就農の4割は農家子弟、親元就農への支援を柔軟に(北海道)”というのが現場からの要望なのである。これに応えるべきだろう。
 地域特例として“東京電力福島第一原子力発電所事故によって他地域での営農を余儀なくされた福島県の農家は、給付要件の「就農から5年以内」を超えていても、一定の要件を満たせば給付対象にすることにした”(7・29付日本農業新聞)という。
 福島の農業復興には、いうまでもなく、特例の措置が講じられなければならない。が、それは復興特例事業として組まれるべきであり、青年就農給付事業の特例措置などでお茶を濁させてはならないのではないか。
 地域特例をつくるなら、山岳地域では平地地域の倍も交付することになっているフランスのやり方を“参考”に、平均農業就業人口年齢が全国平均65・8歳を超えるような諸県を特例として手厚くすることを考えるべきだ。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2012.08.08)