◆より実践的な事業展開で信頼される系統メーカーへ
小??根利明 協友アグリ(株)代表取締役社長 おたかね・としあき 昭和27年12月10日生まれ。昭和50年全農入会。平成11年肥料農薬部農薬原体課長、13年同農薬課長、15年同次長、17年同部長・協友アグリ(株)取締役、19年同社代表取締役社長(現在) |
――70有余年の、歴史ある系統農薬メーカーです。
「1938(昭和13)年、ここ川崎の地に、ベンチャー企業的に産声を上げたのが前身の八洲化学工業で、昨年70周年を迎えている。この間、幾度か経営的な危機にも見舞われ、そのためにいろんな傘下に入り、ご指導いただきながらやってきたのが実情。何とか生きながらえているのは、まさに日本農業あってこそとの認識のもと、当社の経営陣を代表してJAグループをはじめとした関係者の皆様方に心から感謝申し上げたい。社員全員がそう思っている」
「赤字で自分の足下もおぼつかないようでは何を言っても誰も本気にしてくれない。この2年間、業界からはちょっと付き合いが悪いのではないかとまで言われてきた。ただ、手前味噌だと受け止められるかも知れないが、この間、企業のトップとしての責任をどう果たすべきかを暗中模索し、かつ経営回復に向けて切磋琢磨してきたつもりでいる」
「幸いにも、今期は4年ぶりに経営回復が見込まれ、漸く准禁治産者の身分から離脱できる(笑)。不義理をお詫びできる多少のゆとりもできたが、かと言って、けっして楽観視はしていない。だからこそ、自分たちのできる事業を通してこれまでお世話になってきた日本農業、農家の方々、株主などに対して、何が恩返しできるかとの思いで事業に取組んでいく」
――改めて、21年度(新年度)はどのような経営方針・態勢で臨まれますか。
「重ねて、昨年は創立70年という節目の年だった。結論から言うと、21年度は再スタートの年だと思っている。自分たちに何ができ、日本農業に貢献出来るかを明確にしていきたい」
「今後の具体的な経営方針として、21年度は当社設立の理念であった“現場に信頼される特徴ある中堅系統農薬メーカー”を目指すべく、原点に立ち戻りたいと思う」
「特に、04年(11月)に協友アグリという新しい枠組みを全農さん、住友化学さんを中心に創っていただいたが、その期待に応えていくためにも感謝の気持ちを忘れることなく、当社として何をなすべきかを模索する中で今後の方向性を明確化し、より実践的な事業展開をはかっていきたい。この実践こそが、取りも直さず日本農業、農家、JAグループ、株主などに対して恩返しとなる」
◆天敵など活用したIPMでは先陣を切っていると自負
――食の安全・安心に対して消費者の関心が高まっています。しかし、両者の意味が正確に捉えられていません。また、その直ぐ側で環境保全型農業の方向性も、にわかに水面上に浮上しつつあるのではないでしょうか。
「安全は、きちんと科学的根拠が示されないと安全とは言えない。一方、安心はお客様、消費者に与えるメッセージだ。基本的には安心の概念で良いと思われるが、要は安心して召し上がっていただける国産農産物を作ることが大事だ。この分野において、安全は単なる残留だけの、エリアが限定された問題であるという側面があるかもしれないが、そうではなく、国民の間できちんと安心感を持って受け入れられる農産物のトータル的な価値が重要となる」
「当社の事業は、国内市場のみ。この背景のもと、現在、食の安全・安心に対する消費者の関心が高まっている。改めて、日本は元気な農業の構築とともに安全・安心な食料の長期安定確保が求められている。この意味からも日本農業、日本の農家、日本の農産物がどのように評価されているのかを把握することが大切だ。そうすると、このニーズに対応していく事業展開をはからなければならないことが自ずから見えてくるのではないか」
「農薬の必要性、有用性の論議は否定すべきものではないが、この論議に終止することなく一歩また一歩と世界を広げ、逆に農家の方が何を求めているのか、その先の消費者の方が何を求めているのかといったことを考える事がもっとも大切だと思う。 日本は高度な経済大国であり、かつ狭い国土で集約的にいろんな工夫を凝らしながら農産物を生産しているわけだから、環境問題は自ずから避けて通れないのではないか。技術面も含めこれに柔軟姿勢で対応していくのが資材メーカーの使命であり、責任だと思う。定着に向けて、地味ながら本音で対応していく」
「確かに、天敵など生物資材を活用したIPM(総合的病害虫・雑草管理)は、注目される技術ではあるが、ビジネスモデルとしていまだ昇華していない面が多い。人手もかかる。しかし、顧客、社会が必要としている技術だと心底思っており、系統メーカーとして、めげずにチャレンジしていく方向性を大切にしたい。この分野は、系統メーカーの中でも先陣を切っているのではないかと自負している」
◆特異なパフォーマンス見せる
基軸の4事業分野を一層拡大
――基軸となっている4事業分野は、どのような展開を見せていますか。
「水稲では、今年から本格的な市場展開に入るピラクロニルを紹介したい。非常に今様で、現代の日本のほ場に一番合っている除草剤原体だと強く感じている。20年以上SU剤が使用され、雑草の草種が変わってきている。昔だったら、ヒエ剤であれば単にヒエを抑えれば良かったが、全国的にもコナギ、オモダカなど問題雑草やSU抵抗性雑草などで困っているのが実情」
「ピラクロニルは、このような市場ニーズに全面的にマッチしたものであり、特に問題となっている地域からの期待感は強い。他社有力メーカーからも注目されており、水稲用除草剤市場の勢力地図を塗り替える可能性を秘めている。また、微生物種子消毒剤のタフブロックの展開に注力したい。農薬有効成分数の削減にも貢献し、特別栽培米への展開に期待している。さらに、育苗箱剤もいっそう充実させていく」
「園芸では、殺ダニ剤のバロック、ダニサラバを挙げたい。特にバロックは、上市から12年目に入った。この分野では抵抗性の問題が指摘されることが多いが、特に茶とりんご場面を中心に、現在でも高い評価を得ているものと認識している」
「バロック、ダニサラバという異なった作用を持つ殺ダニ剤を組合せ、効率的な防除を行う体系を社内ではB−D体系と呼んでいる。有力各社がある中で異なった作用の殺ダニ剤2製品を所有しているのは当社だけだと思う。それぞれの持っている効果や防除体系をしっかりと提案し、いっそう定着させたい」
「IPMでは、水稲用種子消毒用微生物農薬のタフブロックが新たなパフォーマンスを見せている。これまで、微生物防除剤は効果の安定性、冷蔵保管などいろんな制約があったが、本製品は中身がしっかりしており、極めて商品性が高いと思っている」
「また、フェロモン剤があるが、特に露地では広い面積での集団設置等が困難で特性を上手く生かし切れないところがある。ただし、ハウスでは将来につながる可能性が広がりつつある。この背景のもと、安全・安心は必ずしも消費者の専売特許ではなく、化学農薬を扱う農家の方々も望んでいること。情報発信を中心に、地道に取組むことを大事にしたい」
「受託防除については、会社を設立し青森、茨城、鳥取の各県で取組んでいる。それぞれの地域で、喜んでいただける取組みを継続したい。いま問われている、担い手対策にも貢献できるものと思っている。受託防除に取組んでいる、系統メーカーとしての役割と使命を痛感している」
◆問題解決型の水稲用除草剤
期待高まるピラクロニル剤
水稲用除草剤市場の 勢力地図をぬりかえる 可能性をもったピラクロニル剤 |
――ピラクロニルが、本格的に市場投入されます。どのような除草剤ですか。
「一言でいえば、顧客問題解決型の水稲用除草剤だと言える。きちんと農家の方々に認められる様な普及活動を行っていく。元々、現バイエル クロップサイエンス社が水稲用除草剤としての適性を発見した新規化合物だが、当社では優れた多くの特性に着目し02年から権利を取得の上、開発を行ってきた」
「ピラゾリルピラゾール環を有する化合物で、作用としては雑草の茎葉部に褐変や乾燥を引き起こし枯死に至らしめる。ヒエだけでなく、広葉雑草、カヤツリグサ科雑草にも幅広い効果を示す。特にコナギ、オモダカに対する活性が極めて高い。また、SU抵抗性雑草に対しても、幅広い効果を示す。敢えて、効果の発現が速いことも大きな魅力であり、環境に対しても優しい」
「前段で述べたように、現在の水田雑草防除における諸々の問題を解決できる水稲用除草剤であり、必ずや農家の方々の期待にお応えできると思う。有力各社との緊密な連携のもとに、本剤の本来持っている特性をアピールしていきたい。問題雑草に対応した、本格派の水稲用除草剤だと自負している」
「単剤とユニークな混合剤、さらに粒剤、フロアブル剤、ジャンボ剤と剤型も揃えた。特別栽培米暦、田植同時処理場面などを中心にJAグループ推奨の除草剤として普及拡大をはかりたい」
◆系統農薬メーカーとして果たすべき
使命を再認識して事業展開
――今日の日本農業、農薬産業をどのように捉えられていますか。
「日本農業自体は、成熟した産業だ。農業は人間が生きていくために必要な生命と健康を維持するための基幹産業であり、この重み、重要性といったものを国民、消費者にきちんと認識して貰らわなければならない」
「昨年はギョウザ事件、穀物の高騰などの現象が見られ、食の安全・安心、食料確保に対する危機感が、改めて身近なものになってきた。これらを受け、食料自給率の向上を求める気運が鮮明となってきており、これを追い風としていきたい。海外からの食料調達が、近未来的に保障されているわけではない。今、日本農業に何が求められているか、これをきちんと捉え対応していかなければならない。農業がある限り、企業としてこの機能を失うことさえなければ生き残れるものだと捉えている」
「当社としてもJAグループの一員として、日本農業の形態に見合った防除体系などを農家の方々に指導し、リードしていきたい。農家に信頼していただくことは、消費者に信頼していただくことでもある。JAグループの事業は限りなく広いが、我々系統メーカーはその一部分である防除手段のところを担っているとの認識を新たにし、より現場に近いところで事業展開をはかっていく」
「企業として、開発と普及を一体化させ、かつ現場力をいっそう定着させていきたい。社員教育も大事だ。これが取りも直さず、協友アグリの評価と企業経営の安定化につながるものだと思う。系統メーカーとして、顧客ニーズにきちんと応え切れたときに、より企業として発展していくものではないかと信じている。体制の整備が進み、製品ラインもグレードを高めつつある。“信頼”の構築や徹底した現場主義といった協友アグリの原点に立ち戻ることが重要であり、新年度はこの再スタートの元年だと思う」
――ありがとうございました。
協友アグリ 略年史 1938年 川崎市二子で果樹用農薬の製造に着手し、合わせてリン酸塩類を主とする化学薬品の製造を開始 |
※小高根氏の「高」の字は、正式には旧字体です。
小高根利明 協友アグリ(株)代表取締役社長