いしぐろ・いさお 昭和27年6月9日生まれ。愛知県田原市出身。東京薬科大学(昭和50年)・名古屋市立大学大学院(同52年)卒業。平成3年(株)石黒製薬所・イシグロ農材(株)代表取締役社長、20年(株)石黒製薬所・イシグロ農材(株)・(株)イシグローイングなどの代表取締役社長就任 |
――「創業」はいつ。そして、企業・経営理念は。
「1909(明治42)年のことで、愛知県田原市に開設した石黒薬局に端を発し、今年100周年を迎える。母体である石黒製薬所の開設は大正6年のことで、田原町神戸(当時)で主に無機化学薬品を扱っていた。農薬の技術指導販売は大正の終わり頃から。昭和25年に石黒製薬所を発足、45年にイシグロ農材を創設し、今日の姿の輪郭が出来上がった」
「“成せばなる成さねば成らぬ、何事も 成らぬは人の成さぬなりけり”、が創業者の思い、理念だった。大本は、上杉鷹山ですか。簡単なようだが、こんな難しいことは世の中に2つとない。これを基軸に、明日の循環型社会の実現に向け、顧客第一主義の実践と全員参加の経営で一歩ずつ歩みたい」
――事業の幅を広げる転機があったとするならば、それはいつで、何が作用したのか。
「今日、渥美半島は施設園芸が盛んで、日本の先進農業地域としてリードしている。かつてはイモ(サツマイモ)と落花生の産地だったが、昭和43年の豊川用水の全面通水にともない大発展期に向かうことになる」
「当グループは農薬取扱い業者として出発したが、この豊川用水の完成に合わせてハウス施設をはじめとした総合農業資材の供給業者に転換し、渥美半島の農業の発展と表裏一体の関係で歩んできた。全ての源泉は水にあり、一滴の水もおろそかに出来ない」
「21世紀の日本の主要産業は、農業と環境だと確信している。日本のように水の豊かな国は、その豊富な水資源を利用して作物を作り、自給率を上げることが真の国際貢献と言えるのではないか」
――改めて、事業の構成は。
「農薬はもとより、農業用温室・ハウス、栽培システム、資材、栽培支援、プランタシステムなど、多岐にわたるが、あくまでも総合農業資材の供給業者の立場でありたく、かつ、そのことを誇りに思いたい」
「真の農業生産システムの提供を通じて、生活者が求める、安全性が高く、滋養豊で品質の良い農産物の生産をサポートしている。日本農業が抱えるさまざまな問題に、農業経営者の皆さまとともに取り組み、夢の持てる永続的なアグリビジネス“未来派農業”を実現したい。いわば“未来派農業のトータルサポート”で、それが我々の本来の仕事だと思っている」
――トヨタショックをどう見ているか。
「愛知県の渥美半島に広がる田原市の人口は、6万6000人。今日、最高級車レクサスを製造するなどトヨタの力は計り知れなく、同社の昨日・今日・明日を見習いたい。泣いても、笑っても、トヨタの功績は物心両面で大きく、英知が愛知県、日本、世界にまたがっている」
「この背景のもと、田原市には約700人の中国人研修生がいるが、彼らの勤め先はレクサス工場ではなく、農家だ。ビジネスでは、中国人研修生が地域の農業の規模拡大に貢献している」
「敢えて、仕事が無くなって仕方なく農業に飛び込んでいくのではなく、農業に大きな志、哲学を持って飛び込むことが大切だ」
――農業大学院構想もあったが。
「いま農業に必要なことは、食の安全・安心志向の高まりの中で消費者のニーズを機敏に感じ取る経営感覚を備え、新しいことに挑戦していける人材を育てることだ。栽培はもとより、経営感覚、農産物販売のためのマーケティングなどが重要になってくる」
「これを具現化するため、06年により実践的な農業経営を考えていく専門職大学院大学を創る構想を打ち出した。田原市の積極的な支援で、キャンパスの用地確保などスムーズに行っていたが、ここに来て思わぬ壁が立ちはだかった」
「当社の想定は、農業の現場を知る実務派中心の先生を集めるところにあったが、開学に向けてのハードルは高く、当初の予定通りには進んでいない」
――1月末にTV出演。
「久々に緊張した。大学院構想を断念したというのではないが、当社では、今後の農業の発展には“持続可能な農業”の実現が重要だと考えている。環境に負荷を与えず、かつ農業者の経営が永続的に成り立たさなければ農業とは言えない」
「新たな構想は『次世代農業経営者研修システム』で、昨春から始めた。まもなく一人の研修生を世に送り出すが、TVは新しい農業経営・感覚を報道したものだった。春先にも、施設によるトマト栽培農家が新たに誕生することになり、裾野の広がりを期待する」
「IターンやUターンの人たちが対象で、本格的な農業経営を望んでいる方、長期研修が可能な方の経営者育成コース、農業参入を考えている法人のフィールドマネージャー、農業法人へ就職を考えている方の短期研修コースの2つのコースがある」
――今後のイシグログループは。
「顧客第一主義で事業展開していくことに変わりはない。よりいっそう川下戦略を強化していくが、農家に対して上から行くのではなく、目線を同じくして対等でありたい」
「農業場面に農業者、後継者を再び呼び戻し、農業、農家の経営者に育てるのが夢。今更ながらかも知れないが、農業は農の生業(なりわい)だから、将来にわたって夢のもてる産業でなくてはならない。この意味で、農業分野からもイチローのような人物が出てきても良いのではないか。1億円プレーヤーが何人も出るような農業を提案したい」
――ありがとうございました。