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視線「日本農業の活性化と食の安全・安心を目指して」

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(6) 腐植と微生物活用で農産物生産を支援

情熱を失う時に精神はしぼむ
腐植と微生物活用で農産物生産を支援

 伏線がある。戦前のことだが、創業者らは農林省(当時)と泥炭を利用した肥料の研究開発に取組んでいた。リン鉱石やカリ鉱石などの肥料資源に乏しいわが国の状況から、いかにしたら肥料成分の利用効率を最大化できるかが課題との認識から、試行錯誤のうえ着目したのが天然腐植(木質泥炭)だった。

◆天然腐植へ着目

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はせがわ・きいち
昭和22年8月17日生まれ。61歳。京都府亀岡市出身。昭和45年玉川大学工学部経営工学科卒・日産エンジニアリング(株)入社、49年日産化学工業(株)入社、平成15年取締役化学品事業本部基礎化学品事業部長、20年6月日本肥糧(株)代表取締役社長就任

 ――昭和24年、固形肥料の製造・販売会社としてスタートした。そして、企業理念は。
 「伏線がある。戦前のことだが、創業者らは農林省(当時)と泥炭を利用した肥料の研究開発に取組んでいた。リン鉱石やカリ鉱石などの肥料資源に乏しいわが国の状況から、いかにしたら肥料成分の利用効率を最大化できるかが課題との認識から、試行錯誤のうえ着目したのが天然腐植(木質泥炭)だった」
 「戦後の昭和24年になって製品化にメドがついたことから森山静記を中心に日本肥糧を立ち上げ、東京工場(東京都小松川・昭和41年に群馬県藤岡市に移転・現「新町工場」)、半田工場(愛知県半田市)を完備させ本格的な製造・販売に入った。以来、画期的な、農家に受け入れられる肥料として食料増産に大きく貢献していくことになる」
 「敢えて、企業の進むべき方向性かつ企業理念としては、肥料成分の利用効率の向上を果たしたことを礎としながら、農産物の生産コスト低減と環境保全に貢献し、さらに腐植と微生物の最大活用により安全・安心な農産物の安定生産に寄与していくことを掲げている。この意味でも木質泥炭との出会いは、今日の当社の源泉となった。大切にしたい」

◆誇りと自信をもって

 ――米作日本一も生まれている。具体的に、どのような特長をもつ肥料なのか。
 「肥料を保持する力というか、天然腐植の優れた保肥力を限りなく生かし、肥料成分の作物への吸収利用率を上げることで窒素、カリの地下水への流亡を極力少なくし、かつリン酸においては土壌に固定されにくくなっていることから、一般的な、いわゆる化成肥料とは趣を異にする。この趣の違いから水稲、桑、園芸作物を中心に全国展開を果たし今日に至っている」
 「さらに、近年では有用微生物の働きに注目し、トリコデルマ菌やバチルス菌の機能を付加した高機能製品として有用菌入り肥料や土壌改良材を市場投入し、好評を得ている。地味な分野かも知れないが、自分たちが誇りと自信をもったアクセスをしない限り、生産農家の信頼を得ることはできない。そして、彼らと顔の見える世界を広げ、膝とひざを突き合わせていくことが当社の素朴な姿勢だ」
 「米作日本一の輩出に、当社製品(固形肥料)がかげながら貢献することができたことを自負したいと思う。昭和40年代に入って間もなくのことで、日本一は秋田の佐藤吉雄さん、青森の佐藤一二郎さんと続いた。そのことを知って感激しただけではない。ぬか喜びをしたわけではなく、逆に米(生きている農産物)と会話することの大切さを2人に教えられた。大きな財産であり、足を向けて眠ることができないのは自明の理だが、大切なことは彼らの米、日本の食料に対する思いをどれだけ享受するかにある」

◆総合防除を提案

 ――組織体制と製品の開発コンセプトは。
 「農資材メーカーとして肥料、土壌改良材、園芸培土などを2工場体制で、全国4支店を拠点としてのぞんでいる。研究開発は、あくまでも農家の視点に立った品質・収量の安定向上、微生物関連においては総合防除を提案し新製品開発に取組んでいる。農家の声を、少しでも多く研究開発に反映させたい」
 「開発コンセプトは腐植・微生物の有効活用、農産物の安全・安心、環境保全などにおいている。天然腐植入り肥料シリーズ、および天然腐植を活用した土壌改良材・培土シリーズが基軸にあり、実際に農産物を口にする消費者ニーズを掴むことを大切にしたい」

◆都会の憂鬱、農村の憂鬱

 ――肥料産業を通じて、どう日本農業の活性化と食糧生産に挑んでいくのか。
 「多くの日本農業を取り巻く問題の中で、もっとも懸念されるのが農業従事者数と耕作面積の減少で、そこで後継者の確保をどうするかだと思う。だったら、お前が農村に来て農業をやってみろ、との意見があるかも知れない。都会の憂鬱、農村の憂鬱は我が儘な人間だから消えないとも思えるが、この憂鬱を咀嚼し整合性をもたせることができるのはJAグループだと期待している。しかしながらJAグループのみならず、自らの責務があるとも考える」
 「最近、特に食の安全・安心に対する消費者の関心が高まっている。関心の高まりは、いろんな経緯があるのかも知れないが、朝昼晩に食する、直接口にする食べ物に信頼がもてなくなったからだ。最後の砦が崩されたとの印象で、戦後生まれの1人として非常に残念だ。食品の生産、流通に魂を入れて欲しい」
 「では、自分たちに何ができるのか。通り一遍かも知れないが、安全・安心な農産物の安定生産を維持、向上させることが当社の使命だと考えている。心のこもった提案に、血液の静脈と動脈の双方の機能を送り込みながら取組む。そのためにも、天然腐植と微生物の優れた機能を最大限活用し、生産力を維持する健全な土づくりと環境負荷の小さい肥料の提供を通じて、健康な作物生産に貢献していきたい」

 《記者の目》
 青春は人生のある期間ではなく、心の様相をいう。逞しい意志、優れた創造力、炎えるような情熱、怯懦(きょうだ)を却ける勇猛心、安易を振り捨てる冒険心の様相であり、理想を失う時に初めて老いがくる。歳月は皮膚のしわを増殖させるが、情熱を失った時に精神は必ずといってしぼむ。
 腐植と微生物の活用により安全・安心な農産物の安定生産を支援している日本肥糧(株)の陣頭指揮を執る長谷川は、青春の真っ直中にいる。農業はお先真っ暗ではなく、明日に対して胸躍らせる情熱をもつことが大切と、自らにも関係者全てにもエールを贈る。
           長谷川起一 日本肥糧(株)代表取締役社長

(2009.03.12)