◆生産現場への理解促進と普及
ー日本微生物防除剤協議会は今年8月に設立から3年。改めて協議会の役割と使命を。
「化学農薬ではない微生物を使った剤と防除体系を日本農業に普及させていきたいという強い意欲が協議会加盟の各社にある。
もちろん化学農薬は問題なく使われているが、耐菌性が出現しどうしても強い薬剤になっていく傾向もある。微生物農薬に防除体系はそうした耐性などを起こさない仕組みだ。毒性も非常に少ないという意味で、農業者の安全、それから残留もないことから食の安全にもつながる技術と考えている」
「日本の国土条件では農地の隣接地が住宅地などということも多い。かといって無農薬栽培は現実的なのか、それで経営が成り立つのかという問題もある。そうした今、農業で課題となっていることに対するひとつの『ポジティブな解』が微生物防除剤だとわれわれは考えている。そこを強くアピールし実際に農業者に理解していただくことが協議会の役割。その理解のもとに普及を推進していことが使命だ」
◆IPMと微生物防除体系
ーー現場の関心や理解に対する手応えは?
「3月に開いた2回めのシンポジウムは大盛況だった。北海道から沖縄まで関係者が参加し熱心にディスカッションに加わったのが非常に印象的でこの分野に関する関心の高さに手応えを感じた。やはり潜在的にはこの種の剤の必要性とニーズはあると思う」
「ただ、微生物という天然物のため化学合成物のように目的に合わせて開発するというわけにはいかない。自然界から効き目のあるものを何段階ものスクリーニングを経て製品にするわけで、品揃えの点では時間がかかる。その点で生産者の要望に満遍なく応えるところまではいっていない」
ーーこれからの日本農業にとってこの技術の位置づけは。
「これからどういう形の農業をめざすのか、生産者の方の考えに大きく
関連すると思う。
今後、人口減と高齢化で農産物に限らず大量生産、大量消費はニーズの中心ではなくなってくるだろう。しかし、一方でコストの安い中国などからの農産物輸入もあるわけで、
それに対して安全で品質のいいものを提供するのが日本の農業のあり方ではないか。ただし、コストや手間の問題、さらに生産性を考えたときに、1つのやり方としてわれわれが提案している微生物防除があるということ。微生物農薬は使用農薬としてカウントされないため省農薬という体系に組み入れることが可能だ。
それから総合的病害虫防除の考え方にも合う。つまり、必ずしも環境、安全面ということではなく現在の化学農薬で応えきれない部分を担うという面もある。
そういう意味でもっと剤の種類や、対象作物、対象病害を増やしていく、レパートリーを増やしていくことがメーカーサイドには求められている」
◆販売戦略と結びつける
ーJAの関係者へのメッセージを。
「多くの営農指導員の方にはご協力をいただいているが、点から面に広げていってほしい。それには各県、あるいは各JAごとに自分たちの農作物の生産、販売戦略と結びつけていただくことではないかと思う。
安全性、食味といったそれぞれに掲げる販売戦略があると思うが、それとこの技術がシナジー効果を持つような発想で普及する。単に防除方法のひとつに微生物農薬があるのではなく、自分たちがめざしている農業の方向性と合致するということを認識していただればと思う。作った農産物だけではなく、作り方自体にも付加価値を持たせるという戦略のなかにこの剤を位置づける視点も大切だと思う」
「ニーズというのは作りあげる、掘り起こすということが大事だ。そのためには志の高さがなければならないと思っている」
(記者の目)
本格的に梅雨の季節を迎えた。弁当箱の中に、「日の丸」のメニューが新たに加わった。この季節はカビに悩まされる季節でもある。夏の季語にもなっているカビは、微生物の一種で「糸状菌」、「キノコ」、「酵母」からなる。
森は鹿児島県出身。生粋の「一刻者(いっこもん・頑固者)」に映る。神戸大では経済を専攻した。学部は異なるが、同大の先輩には今村義昭(大塚化学)、馬庭義則(BASFアグロ)らがいて活躍。
その森は、営農指導員に対して「微生物農薬を点から面に広げていってほしい」と期待を寄せる。第2ステージを迎えた協議会活動。「いっこもん」を、どれだけ貫き通せるかが鍵に。
【経歴】
(もり・たつや)
昭和26年7月生まれ。鹿児島県出身。49年神戸大学経済学部卒。セントラル硝子(株)入社。平成18年執行役員人事部長、19年から取締役常務執行役員。