◆ＪＡ運営の基本は営農振興にある

森永利幸氏 （写真提供：(社)家の光協会）

　森永利幸組合長が考えるJAリーダーの使命とは、「地域社会に貢献するJAをつくること」。この信念は、若い頃からの体験によって培われたという。
　昭和21年に宮崎市の農家に生まれた森永氏は、宮崎農業高校を卒業と同時に就農。農業と地域活動を生きがいにする人生がスタートした。
　宮崎県内の青年農業者グループであるSAPへの参加に始まり、農業者の枠を越えて、地域の異業種の青年300人を集めて結成した地域振興会青年部の初代部長に。また、牛肉・オレンジ輸入自由化阻止運動で燃えていた農協青年部のリーダーとしても活躍。土地改良区や農業共済組合などでも、まとめ役を果たしてきた。
　そして、JA宮崎中央の理事を経て、組合長に就任したのは平成14年。当時55歳の森永氏は、県内で一番若い組合長だった。
　「若い時のすべての活動を支えていたのは、自分たちの住む地域をよくしたいという一心だった。その気持ちは今も変わらない」
　宮崎市など1市2町をエリアとするJA宮崎中央管内は、都市部と農村部を抱える混住地帯。JA運営の基本は営農振興であるというのが、森永氏の持論だ。
　気象条件に恵まれ、日照時間の長さは日本一。キュウリ、ピーマンなどの施設園芸や畜産が盛んで、農畜産物の販売高は約230億円。東国原知事の登場で、一躍有名になった完熟マンゴーの産地でもある。
　組合長となった森永氏が、まず着手したのは、組合長直轄の支援室の立ち上げだった。
　営農、金融、生活など、職員がそれぞれの専門知識を生かして地域指導班を組織し、経営不振農家への支援活動を展開。
　さらに、1800人が加入し、自主運営をしている農業経営改善協議会（青色申告会）を支援している。この会では、自分たちでパートを雇い、自分たちで記録・記帳をすすめ、電算システムを効率的に運用している。
　「私はこの組織の自主的な活動を、非常に高く評価している。組合員が自分の経営にしっかり取り組んで、農業所得向上をはかることが、JA事業全体の底上げになる」

◆組合員を待つＪＡから出向くＪＡへの脱皮へ

　森永氏がもっとも重視しているのは、組合員とのふれあいであり、それを実行することである。
　「組合員を待つJAから、組合員のところへ出向くJAに脱皮したい」
　そこで、JBA（総合金融渉外担当）を中心に、毎日、職員の26％に当たる約200人が外回りをしている。月に1度は、管理職が組合員宅を訪問する「ふれあい農家巡回」も実施。
　森永氏自身も、毎朝、組合員のところへ寄ってから出勤し、帰宅前には、部会などの会合に顔を出すことを習慣にしている。組合員が集まる場があれば、5人の会合であれ100人の集会であれ、まめに足を運ぶ。
　「これまで地域活動を優先してきたので、家庭サービスをすっかり怠ってきた」
　と、やや反省気味の森永氏だが、長男は農業後継者となり、青年部で活躍している。親の後姿は、しっかりと見せてきたのだろう。
　森永氏はまた、組合員とだけではなく、役職員とコミュニケーションをはかることも大事にしている。
　ユニークなのは、一般職員との昼食会。多忙な森永氏だが、JAで昼食をとる日は、職員を3人ずつ部屋に呼んで、いっしょに食事をしながら懇談する。熱っぽい口調で、「ともに頑張ろう」と話す森永氏の姿が想像できる。
　会食後に、「やる気が出た」とか「励みになった」という職員の感想を聞いて、森永氏もまた、励まされるのだという。
　「情熱と行動」がモットーの森永氏である。

◆現状に満足せず日常業務の中から改革を

　「農作物や動物を育てる農業が好きなので、自分は情にもろい面がある。だが、JA経営には厳しい面も必要だから、うまくバランスをとることが大事だ」
　と自戒する森永氏。
　JA改革とは、現状に満足せず、日常業務のなかで反省を繰り返しながら改革していくことが基本だとも言う。　
　青年時代から、自分の能力を100％出し切って走り続けてきた。職員にも、持てる能力のすべてを出して、仕事に向かってほしいと期待しているのである。
　一方で、「心のゆとり」も必要。森永氏は、毎朝5時半からのジョギングを欠かさず、少しでも時間があれば読書に勤しんでいる。
　「忙しいからといって、ただ動き回るだけでは、人間としての余力がなくなる。物事を多角的に見たり、洞察力や判断力を養うことができなくなる」
　それにしても、何がこんなに森永組合長を駆り立てるのか。インタビューの冒頭で、「私は本当に農業が好きなんです」と語った言葉が、その答えなのかもしれない。