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JAリーダーの肖像 ―協同の力を信じて

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「JAファン」を増やすことがJAの事業活動発展の道 (下)

JA筑紫(福岡県)代表理事組合長 綾部哲具氏

◆JA直営店の開設で納入生産者数は5倍に 綾部哲具氏写真提供:(社)家の光協会 ...

◆JA直営店の開設で納入生産者数は5倍に

綾部哲具氏
写真提供:(社)家の光協会

 平成5年に、31年間勤務した福岡県購販連を退職した綾部氏は、JA筑紫の監事や理事を経て、平成9年に組合長に就任した。
 福岡市の近郊にあるJA筑紫は、准組合員が約7割を占めている。地域農業振興とともに、「地域に親しまれるJA」であることが、JAとしての大きな使命である。
 JA筑紫本店の裏手には広い敷地があり、ここで毎年11月に「JA筑紫ふるさとまつり」が開かれる。青空市場、焼肉コーナーなどさまざまな催しが行われ、約6000人の地域住民が集う盛大なイベントである。
 「管内の人口は約42万。消費は足元にある。米も野菜もがんばれば、まだまだ売れる」
 と、綾部氏は職員を励ます。
 近年、成長著しいのが、農産物直売所の地産地消活動である。現在、JA直営店は「ゆめ畑那珂川店・ゆめ畑太宰府店」2店舗。ここだけで約6億1000万円の売り上げがある。
 このほかに、女性部と青年部が運営する店が1店舗ずつ、朝市も20か所ある。
 JA直営の1号店は、平成14年に、新幹線博多南駅近くに開設した。以前、この場所で、朝市を開いたことがあるが、客が集まらず、撤退したことがあった。そのため、反対意見も多かったが、綾部氏は断行した。
 新幹線の駅もできたし、消費者の意識が変わってきたとの調査結果も出ていた。店舗はJAの遊休資産である農業倉庫を改造した。
 オープンしてみて、客の多さに驚いた。消費者の新鮮・安全・安心への関心の高さは想像以上だった。農産物を納入する生産者の数は、数年で5倍に増えた。

◆地域を支える女性パワーが地域振興の発火点に

 「高齢者の存在感が増し、地域の活性化に大きく貢献している。医者に行くより、畑に行ったほうが健康によいという人たちも多い」
 リピーター客も増えて、朝早くから行列のできる店になった。
 2号店には、女性部が運営する農産物加工所が併設されている。だが、最初の計画に加工所はなかった。
 しかし、女性部の役員たちが何度も組合長室を訪れ、綾部氏に要請したのだった。
  「組合長、あなたは、いつも21世紀は女性の時代だと言っているし、女性は、もっと勉強して、集落の会合で積極的に発言すべきだと言っているのだから、わたしたち女性の意見をしっかり聞いてください」
 そう言って、加工所建設を迫ったのである。
 女性パワーに押されて、設計図に加工所が描かれた。さらに、女性部の代表者は大宰府市長を訪ね、市の助成を約束させたのだった。
 「地域を支えている女性の力が、地域農業振興の発火点になる。それを点から面に広げなければならない」
 現在、3号店の建設も検討中。非農家や定年を迎えた団塊の世代を対象にした栽培講習会の開催にも力を入れている。
 「これからは、イベントやレストランの併設などのアイデアを取り入れることが必要になる。JAファンを増やすよい機会にもなる」
 地域住民と交流を深める場づくりとして、綾部組合長は、これまで食農教育にも積極的に取り組んできた。地域社会の次世代対策は、JAとしても重要な活動の一つなのである。

◆常に組合員の視点にたった組合員中心の農協へ

 JA筑紫では、子供たちの農業体験や、夏休み一泊バスツアー、親子料理教室などさまざまな活動を展開している。昨年8月には、1000人が参加する食農教育のイベント「ちゃぐりんフェスタ2007」を開催した。
 「このイベントは、子供たちの思い出になるだけではない。親も一緒に参加するところに意味がある。若い父母がJAに関わる第一歩になるからだ」
 また、JA筑紫では、高齢者福祉事業にも地道に取り組んできた。
 「経営的にみれば、福祉事業は簡単に黒字を見込めない。しかし、地域社会への貢献はJAの使命と考えている」
 地域に開かれた存在として、一人でも多くのJAファンを増やしていくことが、JAの事業活動を発展させる道であるというのが、綾部氏の基本的スタンスである。
 昔、地元の農協で営農指導を担当していた若き日の綾部氏は、村のなかを一日中歩き回っていた。やがて、革靴を脱ぎ、ゴム草履に履き替えて農家を訪ねるようになった。
 「田んぼに入らなければ、稲の本当の状態はわからない」
 ということを農家から学んだからだった。
 それ以来、綾部氏は、農協人として、「常に組合員の視点にたった、組合員中心の農協でなければならない」をモットーにしてきた。
 「立派な理屈で説得するのではなく、組合員のなかに入って、話を聞くこと。心と心がつながれば、お前がすすめるのなら、共済に入ってやろうということになる」
 組合員の営農・生活面での悩みに対し、的確に応えられる相談機能を充実すること。それが、この時代を生き抜くために、JAがやるべきことだと、綾部組合長は思うのである。

【著者】(文) 山崎 誠

(2008.06.10)