◆クラスター構築にチャレンジ
坂根國之氏 写真提供:(社)家の光協会 |
現在、JA鳥取中央会の会長を兼務し、県農業界の重鎮でもある坂根組合長のモットーは、「JA事業の基本は、あくまで営農」だ。
「地域農業の永続という長いスパンでとらえ、JAの総力を挙げて、若い農業経営者を育てなければならない」
そこで、JA鳥取中央では、本所内に営農技術センターを開設。鳥取大学や県の試験場との連携を強化し、定年退職した営農指導員などによる支援態勢を組み、農家への営農技術指導や経営指導の充実をはかっている。
また、このセンターでは、農家経営や集落経営体の指導ができ、市場開拓の情報収集もできる職員の育成に努めている。
さらに、JAでは、チャレンジ精神旺盛な坂根組合長を先頭に、地域農業振興のためのさまざまな試みも盛んだ。
たとえば、地元企業などと連携して、ナシやブドウを、ワインやジュース、ゼリー、菓子などに商品化するクラスター事業を積極的に展開している。
また、青ナシのイメージが定着している『二十世紀』ナシの本来の旬は黄色に色づく頃。そこで、この完熟ナシをPRするため、東京、大阪、京都などで、流通関係者や消費者を集めて研修会を開催するなど、マーケティング活動をすすめている。
「研修会参加者のなかで、若い人たちが真剣で熱心なのには驚いた。本物の味を求める消費者のニーズは高いと痛感した」
さらに、JAでは、早くから消費者との交流を重視し、地産地消に取り組んできた。
「人間が生活するなかで、もっとも心安まるのは食卓ではなかろうか。生産者と消費者が同じ価値観をもって、信頼で結ばれた食卓をつくることが、地産地消運動だ」
と考える坂根氏は、生産者として、自信と誇りのもてる農産物を作りたいと言う。
地産地消運動の中心的担い手は女性である。坂根氏は、女性パワーを重視し、女性の力なくして、現在の地域農業は維持できないと強調する。
「兼業化とは、言い換えるなら、農業の女性化ということになる。営農面だけでなく、JA事業の運営面でも、女性の能力を最大限に生かしていきたい」
◆女性パワーに活躍の場
JA鳥取中央の子会社「ジャコム中央」は、Aコープやコンビニを運営する会社だが、13人の取締役のうち、9人は女性だ。Aコープ各店舗の運営委員会のメンバーはすべて女性会の会員で、そのなかの1人が取締役となり、店舗運営を仕切っているのである。
さらに、JA直営の7ヵ所の農産物直売所の店長も、すべて女性である。
「直売所の店長の役割とは、どれだけたくさんの仲間を集められるか、それによって、どれだけたくさんの品物を集められるか、ということに尽きる。人間を組織して、品揃えのできる人が適任者だ」
そう考えた坂根氏が、最初に白羽の矢を立てたのは、長年、女性部の事務局を担当してきたベテラン女性職員だった。
「店長」を命じられた彼女は、自信がないので、初めは断ろうと思ったが、夫から、
「組合長に、そこまで言われたら、やりますと答えるのが人の道ではないか」
と励まされ、決心した。
坂根氏の狙いは的中した。顔が広く、地域のことなら隅から隅まで知り尽くし、豊富な人脈を駆使できる女性店長の活躍で、売り上げは右肩上がりで伸びている。女性店長のいる他の店舗も同様である。
「農協に入って、こんなに楽しく仕事をさせてもらったことはない」
と、その女性店長は喜んでいるという。
このほか、地域への貢献活動として、坂根氏は、相互扶助の精神に基づく高齢者福祉事業を大事にしている。
子供達に農業体験をさせ、食について教育する「あぐりキッズスクール」などの食農教育も、大切なJAの活動だ。
「終戦直後、農家の子供達には、食糧生産に携わっているという誇りがあった。今の子供達も、地域やふるさとに愛着と自信をもった人間として育てたい」
将来、そのような子供達が成長して、JAに結集する日を、坂根氏は夢見ている。
春風以接人
秋霜以自律
人には春風のように優しく接し、自分を秋霜のように厳しく律する――。坂根氏が40代半ばに、近くの寺の住職から教わり、爾来、座右の銘として、大切にしてきた名句である。
この言葉は、コンプライアンスを徹底しながら、柔らかな感性で時代の変化に対応し、組合員に奉仕していく農協人としての坂根組合長の生き方をも表している。そんな解釈もできるのではなかろうか。
(「JAリーダーの肖像―協同の力を信じて」は今回で終わります)
【著者】(文) 山崎 誠