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食肉流通フロンティア ―全国食肉学校OBの現在

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第14回 日々研鑽し美味しいものを提供し続けていきたい

後々まで役立った学校での勉強
昔ながらのドイツ式製造技術にこだわって

松阪ハム(株)は、昭和38年に創業したハム・ソーセージの製造会社だが、ドイツの伝統的な生ハム製造技術にこだわり、マイスターを招聘したり、ドイツに直接社員を派遣して製造技術の確立に努めた結果、3年に1度開催される国際食肉産業見本市(IFFA)で、平成4年(1992年)から4回連続金賞を受賞するなど、いままでに金賞16品目、銀賞5品目を受賞し、その高い製造技術が国内ばかりでなく世界的に評価されている会社だ。製造技術重視の方針は社員教育にも反映され、全国食肉学校が創設された当時、若い社員を順番に学校に派遣し食肉の基本を学ばせていた。

◆後々まで役立った学校での勉強

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森井孝課長

 松阪ハム(株)は、昭和38年に創業したハム・ソーセージの製造会社だが、ドイツの伝統的な生ハム製造技術にこだわり、マイスターを招聘したり、ドイツに直接社員を派遣して製造技術の確立に努めた結果、3年に1度開催される国際食肉産業見本市(IFFA)で、平成4年(1992年)から4回連続金賞を受賞するなど、いままでに金賞16品目、銀賞5品目を受賞し、その高い製造技術が国内ばかりでなく世界的に評価されている会社だ。製造技術重視の方針は社員教育にも反映され、全国食肉学校が創設された当時、若い社員を順番に学校に派遣し食肉の基本を学ばせていた。
 森井孝さんは昭和49年に同社に入社したが、3年目の昭和52年に会社から学校に派遣され、半年間(当時は前後期に分かれ半年間だった)食肉の基本を学んだ。
 当時の全国食肉学校は、畜産センターなどから派遣される人が多く、「ハム屋からは自分一人でしたし、自分の仕事はハム・ソーなのでちょっと違うのではないか」と森井さんは思っていたが、「学校で食肉の基本であるカット技術を学んだ」ことが、その後大いに役立ったと振り返る。ハムの製造でも枝肉を購入しそれを処理する工程があるが、カットなどの技術は先輩の仕事を見て「見よう見まねで覚えていく」ことが多く、なかなか基本から学ぶ機会がないからだ。
 また、食肉技能士の資格を取るために「勉強したことも、ものすごく役立っています」と森井さんはいう。

◆変わる消費者のニーズに応えて

 全国食肉学校を卒業して職場に戻り、ハム・ソーの製造に携わるが、3年ほど営業も経験した。その時代はいまとは違い「とにかく置いたら売れる時代」で、「特にハムは高級品、贈答品というイメージが強かった」。しかし、消費者が核家族化、個食化した今は、小さくカットし1回で食べきれる量が望まれるように変化してきている。
 松阪ハムでもそうした消費者のニーズに応えた商品づくりを行っている。需要のピークは中元と歳暮だが、最近は「おせち料理の需要が多く、11月から12月がピーク」だという。ここ数年、デパートでも食品スーパーでも年末の目玉商品は、おせち料理の詰め合わせだ。価格も手頃なものから高級感のある高額なものまで品揃えされている。そうしたなかに松阪ハムの製品が使われている。
 松阪ハムではおせち料理の材料としても、「本場ドイツの製法を基本としながら、ドイツに追いつけ・追い越せを理念に」、安全・安心で美味しいハム・ソーを数多く製造している。そのなかでも「もっともこだわりの商品」がIFFAで金賞を受賞した「自慢の肩ロース生ハム」だ。

◆昔ながらのドイツ式製造技術にこだわって

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生ハムをスモークする森井さん

 生ハムづくりの基本は、まず「鮮度の良い肉を選ぶこと」だと森井さんは何度も強調する。味付けは天然原型香辛料、ローレル、シナモン、ナツメグ、クローヴス、胡椒をブレンドして煮込んで抽出したオリジナル調味液を使い、日本の多くのメーカーのように辛味を抑えるために甘味成分を使わないのが特徴だ。
 「辛い」といわれることもあるけれど「それがうちの生ハムの特徴」だと森井さんはいう。「塩分は水分活性を抑え、微生物の繁殖を抑える」効果があることも強調する。
 この調味液に、肉の大きさによって、10日間〜40日間漬け込んだ後、時間をかけて乾燥させてから、自家製の直火式スモーク室に入れ20℃以下で48時間じっくり燻煙(冷燻)し、松阪ハム製生ハムの独特の味と香りを引き出す。
 こうした「昔ながらの作り方をしているのが松阪ハムの特徴で、これがドイツ式」なのだという。

◆基本ができたうえに積んだ経験こそが活きる

 「肉は生き物だから、手間暇をかけないと生ハムの“でき”が季節によって違ってしまう」。だから、暑い夏や寒い冬の「手間暇のかけ方で味が決まる」のだが、どう手間暇をかければ良いかは「経験を積まないと分からない」。しかし、その経験に裏付けたされた知識は「基本ができたうえで経験するから出来上がるもの」だ。「だから全国食肉学校で学ぶことに大きな意味がある」と森井さんはいう。
 後輩へのメッセージは「基礎をしっかり学ぶこと」。
 森井さん自身の目標については「ハムづくりは奥深い仕事です。経験も要るし、今後もいろいろなことを勉強しなければいけませんが、美味しいものを提供し続けていきたい」と語ってくれた。全国食肉学校を卒業して30余年が経ったいまも、学校で勉強したことを基礎にしてさらに日々研鑽している姿勢が素晴らしい。

【著者】森井孝(本科第5期生 昭和52年度)
           松阪ハム(株)畜産食品事業部生産課長

(2008.12.03)