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食肉流通フロンティア ―全国食肉学校OBの現在

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第16回 自らの感覚を大事にモノづくりに終わりはない

取材記者が思わず「うまい」と言った手づくりコンビーフ
手づくり惣菜やランチセットも好評

東京の下町、入谷の表通りから少し入った裏通りに間口は一間半と小さいけれど、とびっきりおいしいハムやソーセージそして惣菜を手づくりしているお店がある。竹内聡さんと彩さんご夫妻が経営する「手作りのハム・ソーセージ・そうざいの店」と看板に掲げた「TAKE‐ZO」だ。
手づくりされるハム・ソーセージは季節によって変わるが25〜30アイテム。なかでも人気は定番のウインナーソーセージと、ほかではお目にかかれない手づくりコンビーフだ。

◆取材記者が思わず「うまい」と言った手づくりコンビーフ

竹内 聡さん
竹内 聡さん

  東京の下町、入谷の表通りから少し入った裏通りに間口は一間半と小さいけれど、とびっきりおいしいハムやソーセージそして惣菜を手づくりしているお店がある。竹内聡さんと彩さんご夫妻が経営する「手作りのハム・ソーセージ・そうざいの店」と看板に掲げた「TAKE‐ZO」だ。
  手づくりされるハム・ソーセージは季節によって変わるが25〜30アイテム。なかでも人気は定番のウインナーソーセージと、ほかではお目にかかれない手づくりコンビーフだ。
  コンビーフといっても缶詰ではなく、直径10cmくらいのハムのような形をしている。これはメスの黒毛和牛のスネ肉でないとだめだという「店主自慢の逸品」だ。試しにF1や和牛の雄でも作ってみたが同じ味にはならなかったという。
  缶詰にされたコンビーフは脂分で固めてあるが、竹内さんのコンビーフは例えれば「煮こごり」という感じで、スライスしたものを口に入れると溶けていくような感触がある。店主が自慢するだけあって、記者は思わず「うまい」と叫んで自宅用に買って帰ることにした。

◆社会経験が豊かな人たちと一緒に充実した学校生活

間口は小さいが「おいしい」と評判のお店
間口は小さいが「おいしい」と
評判のお店

  竹内さんの実家は食肉卸をしている。「肉屋になる気はなかった」が、高校を卒業してアルバイトとしてハム・ソーセージを加工する店で働いているときに、「食肉加工は面白い。自分の一生の仕事にしてもいいかな」と思う。
  今、実家を継いでいるお兄さんは全国食肉学校の卒業生だった。お父さんからも「学校へ入って基礎を勉強してはどうか」と勧められ、全国食肉学校に入学する。
  同期にはいま学校長として全国食肉学校を運営している山中暁さんを年長者の筆頭にして、高校を卒業したての若者までバラエティに富んでいたという。20歳だった竹内さんには「山中さんのように社会経験を積んだ人とか、普段の生活のなかではなかなか会えないような人と一緒に生活し、いろいろなことを話すことができたので、寮生活はとても有意義でした」と振り返る。
  教室で学んだ基本的な勉強に加えて「一番勉強になったのは校外実習」だったという。三重県の松坂ハムや食肉公社などの現場で、さまざまなことを体験できたことが、現在の仕事でも活きているからだ。

◆手づくり惣菜やランチセットも好評

25〜30アイテムのハム・ソーセージが並ぶ
25〜30アイテムのハム・ソーセージが並ぶ

  全国食肉学校を卒業した竹内さんは師匠と仰ぐ人のところで「修行」をしていたが、惣菜の勉強もしてみたいと考えるようになった。その時全国食肉学校の校外実習でお世話になった新宿・高野のハム・ソー工場の3階では惣菜をつくっていたことを思い出す。すぐに惣菜をつくる現場には入れないので、デパートのケーキ売場の工場で半年アルバイトをし、機会をみつけて惣菜工場へ紹介を受け2年間惣菜の勉強をした。
  竹内さんのお店「TAKE‐ZO」のもう一つの看板商品はお惣菜と木曜日・土曜日限定のランチセットだ。
  お惣菜は月曜日から金曜日までの毎日、メインになる惣菜とサラダそれぞれ1品づつを午後4時から販売する。取材した3月24日火曜日は、「豚肉と揚げ豆腐のオイスターソース煮」(1パック357円)と「春雨と野菜の中華サラダ」(100g189円)が並んでいた。

真面目に手を抜かず
真面目に手を抜かず

  ランチセットは、3月26日の木曜日は「ボンゴレビアンコ(あさりのパスタ)とトマトとモッツアレラのサラダ」(450円)だが、28日の土曜日は桜が咲き始めたので、「エビ真丈と山菜の天ぷら+タコのやわらか煮+桜の花と牛しゃぶのおろしポン酢あえ…」(950円)とお花見弁当が用意されていた。
  お惣菜やランチセットは朝11時の開店までにすべて仕込みを終えている。つくるのは全て竹内さんだ。大変だと思うが、ご当人はそれほどとは思ってなく、ハム・ソーセージや惣菜を作っていることが楽しい、嬉しいという感じだ。

◆気持ちを集中し、手を抜かず真面目につくること

奥さんの彩さんと二人三脚で
奥さんの彩さんと二人三脚で

  記者は、竹内さんの「こだわり」は何かと聞いてみた。「たいしたこだわりはない。強いていうなら師匠から教わった仕事を手を抜かず真面目にこなす」ことだとの答えが返ってきた。
  竹内さんはハム・ソーを作るとき、肉の温度を機械で測ることをしない。自分の手で触った感触で温度が適切かどうか判断する。「気持ちが入っていないと判断を間違う」。特に春先、気温が変わりやすい時期は要注意だ。自分の感触・感覚で判断するということは、自分の体調を一定に保っているということでもある。そして、毎日「真面目に、手を抜かずにつくる」ことで、感覚がより鋭敏に研ぎ澄まされていく。
  最近はハム・ソーセージを作りたいと思っている全国の後輩へのメッセージを聞いてみた。
  「一つひとつ仕事ができたからといって、これで最高だとかもういいんだと思わないことです。どうすればもっとおいしくできるか、どうすればもっと良い商品をつくれるのかを自分で考えることが大事だ」というのが竹内さんの答えだ。
  「これでいいと思ったらそれ以上は伸びない」し、「モノづくりに終わりはない」という。
  ご自身の名刺の肩書きに「工場長」と書く、竹内さんの「ハム・ソーセージづくりの職人」としての生き様がこれらの言葉に込められていると感じた。
  「TAKE‐ZO」は今年の秋で開店10年を迎えるがこれからの「夢は」と聞くと、いまの店は工場専門にして「小さくてもいいからもう少しいい場所に店を出したい」という。その場所はと聞くと「一番やってみたいなと思うのは谷中あたりで、人が散歩がてら来るような街」だという。その日が訪れるのはそう遠くはないだろう。

【著者】竹内聡さん(第23期生 昭和62年)
           TAKE-ZO工場長

(2009.04.02)