農地の維持、国際貢献など飼料用米生産に多様な意義
◆現状では採算ぎりぎりの飼料用米生産
佐藤秀彰氏 |
――大きくいえば今までは国産米は主食用に限定しMA米を加工用、飼料用に向けてきたわけですね。こういうなかで補助金が体系づけられているため、ある意味で転作政策とは減産政策といえるわけです。現行のWTOの枠組みにそったものだということなのでしょうが、この枠組みを変えないと増産に向かわないということが今、政策的に問われているのではないかと思います。
この先、政策的な枠組みを変えることを展望しながら、ここでは米を飼料に活用する新たな取り組みに焦点を当てて米の生産調整を考え、どうすれば現場の努力が生きるのかお話いただければと思います。
その場合、飼料用米については(1)生産、(2)流通・加工、さらに(3)消費地、つまり畜産農家の実情や意向という3つが、それぞれうまく噛み合ってはじめて安定的な循環ができるということになりますから、そこを念頭に議論を深められればと思います。最初に庄内地方の飼料用米の取り組みについてお話いただけますか。
佐藤 われわれのJAでは、先輩たちがいかに米を販売するかという流通開拓の努力を続けてきたという経過があります。具体的には生活クラブ生協との提携ですが、そのなかで畜産分野との連携として第1期の飼料用米生産が始まり、一時は220haほどまで作付けが増えたんですが、政策的に転作作物は大豆、麦に力が入れられましたから飼料用米の作付けが減ってしまった。
しかし、日本が金まかせで世界中から食料を買える状況は絶対に続かないということを生活クラブ生協との連携のなかで強調し、とにかく実験的に取り組んでみようと平成16年から新たに取り組みを始めたわけです。
どのくらいの価格であれば農家が取り組めるのか、畜産農家がどれだけコストを圧縮できるか、そして消費者は結果的に価格が上がっても買ってくれるか、という3つを実験として進めてきたということです。
そこでいろいろな試験をしてみると、米を飼料にすると豚肉自体がおいしいということも分かってきて、それならと最初の飼料用米価格はトン3万円でしたが、今はトン4万6000円まで上げてもらっています。また、今回は遊佐町も取り組みのなかに入り、町が事務局を担っているほか、できる範囲内ですが、産地づくり交付金、町独自の補助金などの支援をしていただきました。
作付け面積がなぜ増えたかという理由ですが、それには2つあると思います。
ひとつは、やはり農家は田んぼに稲を植えるのが好きだということ。先日も農家と話したんですが持っている田んぼ全部に稲を植えたのは初めてだということでした。もうひとつが転作で取り組んでいる大豆に、やはり連作障害が出てきたということがあります。それをなんとかしようとしたときに飼料用米の話が出てきた。
われわれとしては今年150haを目標にして種を準備していました。カントリーエレベーターの受け入れ上限がありますし、面積が増えると今の制度では産地づくり交付金単価が下がるということも提示しながら進めていたわけですが、それでも作付け希望は190haとなり、何とか説得して170haに抑えました。たぶん、今ぐらいの条件であればまだ作付け面積を増やすことができるんじゃないかと思っています。
――飼料用米生産の採算はどうですか。
佐藤 現在は減価償却費と労賃をまったくみないで若干プラスという程度、だから純粋には赤字です。したがってもう少し条件整備をしていかないと、どの地域でも取り組めるというものではないと思いますね。
われわれの場合は、飼料用米を作っている方々のほとんどが生活クラブ生協に主食用米を販売していますから、若干、米を高く買ってもらっている。だからなんとかやっていけるということです。それでも米の価格が下がっていけばやはりできないでしょうね。
◆保管・物流まで低コスト化 実現が全国展開のポイント
築地原優二氏 |
――全国的には飼料用米の取り組みはどんな状況でしょうか。
平位 全農では昨年3月に畜産総合対策部が中心となって飼料用米のプロジェクトを部門横断的に立ち上げましたが、発想は飼料用原料の価格高騰を背景に、基本的には国内生産で配合飼料原料の代替ができないかということです。
ですから先ほど佐藤課長が話されたような地域全体がひとつのまとまりをつくって取り組む、つまり作り手と受け手がきちんとした価値を共有して取り組むという仕組みのほかに、われわれとしてはオープンマーケットで国産の飼料原料を調達する事業をつくろうというのが基本的な考え方です。
今年度は試験栽培で約35haお願いし、種子の増殖で約5haほどお願いしています。種子増殖は多収穫米栽培をお願いしていて、21年産の作付けベースでは約750ha程度の種子を確保する見込みです。
それからほ場の集積への取り組みもしています。結局、米をトウモロコシ代替で使うことを考えても、畜産立地が必ずしも米産地とバランスしていないわけですね。畜産地域は南九州地区、北海道、東北というかたちで偏在している。そのため飼料用米を大量に生産していった場合、米の収穫地と飼料としての消費地が違いますから、畜産産地までの保管・物流までの踏み込んだ検討が必要になります。
ただ、現時点では21年産からは試験的に、南九州であれば南日本くみあい飼料の鹿児島県志布志工場を中心に鹿児島、宮崎で数百haぐらいのほ場が確保できないかということを検討しています。それから東北では石巻に北日本くみあい飼料の工場がありますから、宮城県を中心に数百haのほ場集積ができないかと。
試験栽培では通常の移植方式だけでなく、湛水直播や不耕起直播などのいろいろな試験をやっていきます。そこで実際コストがどう変化するのか、また、低コスト農薬の使用試験も行います。収穫も通常の稲刈り方式だけではなく立ち枯れ方式ですね。水分をほ場で15%近くまで飛ばしてから収穫する方式で乾燥コストがどれだけ削減できるかという試験もします。
つまり、できるだけローコストオペレーションでどこまでコスト低減ができるのかに力点を置く。収穫してからは実際にはカントリーエレベーター等を使うことになるわけですが、それを使わない保管法はないかも検討していきます。たとえば、籾のままでの家畜への給与ですね。
――全国展開するには物流体制の整備など大きな課題があるということですね。
平位 ただ、飼料用米活用のもう一つの視点には付加価値畜産物生産もあります。現在、全農もnonGMOのトウモロコシを米国で確保し一定量を輸入していますが、すでに大豆かすについてはなかなか米国でnonGMOを手当できなくなってきて、これは国内で手当ということになっています。
そういう点でnonGMO代替飼料として米の価値というものはあると思いますし、さらに豚肉、鶏肉、卵などの食味のよさという付加価値をつけられないかということです。そういった観点でも試験も行っていきます。
◆水田のフル活用で自給率向上 国民理解を得る取り組みも
平位修一氏 |
――これまでのお話では、地域で米生産者と畜産生産者、そして消費者の合意ができているところでは、米生産者の収益はプラスにはなっていないものの何とか飼料用米生産と利用が成り立っているということですが、一方、それをもし全国的に展開しようとすると、生産者への支援はもちろん、飼料用米活用のシステムを構築する必要があるし、しかも生産から流通までローコストオペレーションが求められるということですね。
ただ、食料政策としては非常に大きな意味があるということだと思います。今度は政策面での背景と課題を指摘していただけますか。
築地原 ご承知のように世界的な食料事情が緩和基調から構造的なひっ迫基調に変わったことをふまえ、JA全中は、6月に「食料増産・自給率向上対策本部」を立ち上げ食料増産・自給率向上に向けたJAグループの基本戦略を8月上旬に取りまとめることとしています。
そのなかで自給率の低い麦、大豆、飼料用米と米粉用米等を戦略作物として位置づけ、水田を水田としてフルに活用し増産する方向を提起する予定です。
6月12日に決定した畜産・酪農の追加対策の取り組みのなかで主張したのは、国内における飼料原料を安定的に確保するという観点から飼料用米を国家戦略として位置づけ計画的に増産してほしいということです。
飼料用米の取り組みは19年の実績で約300haです。飼料用の輸入トウモロコシが1200万トンですから、この水準では、その代替はとてもできないので思い切った施策が必要ではないかということです。
具体的には多収品種の開発・普及、種子の増殖等のための支援措置、さらに農家が安心して取り組める手取り水準の確保が必要です。
現在も産地づくり交付金や耕畜連携での支援がありますが、まだまだ十分ではないという生産現場の声が強く出されていますので、水田を水田として最大限活用するという観点から、現行の米政策の全体の見直しも求められてくるのではないかと思っています。
そのなかで主食用は当然、需要に応じて計画生産を行い、そして飼料用米、米粉など非主食用米を増産していくということです。水田で米をフルに作れるわけですから生産コストを下げることができるということも含めて消費者の理解も得られるだろうし、国際的にも食料争奪のなかで食料調達が厳しくなってくるわけですから国際貢献にもなるということだと思います。
思い切った政策転換を図っていく必要があり、手取りの確保も含めて現場の方が取り組みやすい環境をどうつくるか。まさに加速した取り組みが求められると思っています。 (「座談会 その2」へ)