シリーズ

「農協改革の課題と方向―将来展望を切り拓くために」

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第6回 農協事業改革の基本的課題をどう考えるか

・営農指導事業の抜本改革を
・基本は地域農業計画づくり
・期待される連合会の役割は何か
・現場農協の事業革新を支える連合会機能の発揮を

 前回は、「事業改革の革新的課題」と題して、筆者の3つの思いを提起した。1つは、"他律的改革"でない"自律的改革"とは何かということ、2つは、事業改革は組織運営改革と経営管理改革との有機的連動なしにはうまくゆかないこと、3つは、総合事業兼営の意義とメリットの徹底追求である。
 今回も、事業改革問題を取り扱いたい。検討したいのは、1つは各事業分野別の改革の基本課題は何かということであり、もう1つは、益々重要性を増してきている連合会の役割発揮のあり方について、である。

 前回は、「事業改革の革新的課題」と題して、筆者の3つの思いを提起した。1つは、“他律的改革”でない“自律的改革”とは何かということ、2つは、事業改革は組織運営改革と経営管理改革との有機的連動なしにはうまくゆかないこと、3つは、総合事業兼営の意義とメリットの徹底追求である。
 今回も、事業改革問題を取り扱いたい。検討したいのは、1つは各事業分野別の改革の基本課題は何かということであり、もう1つは、益々重要性を増してきている連合会の役割発揮のあり方について、である。

◆営農指導事業の抜本改革を

 はじめに前者について考えてみたい。
 まず、農協の最も重要な事業分野であると言ってよい営農面事業活動改革の課題は何か。
 筆者は、その基本課題は、営農指導事業の“機能の陳腐化”の抜本的克服だ、と考えている。農業情勢が厳しさを増す中で、農協が組合員の農業経営を守り、支える役割をしっかり果たしてほしいという組合員の期待・要求は大きな高まりを見せている。しかし、多くの農協の営農指導事業の現状は、残念ながらありきたりの技術指導と経営相談の域を出ていない。
 今や営農指導事業には、組合員の総意を踏まえた“地域農業の司令塔”機能の発揮が求められている、と言っても過言ではない。さらに、販売事業改革も生産資材購買事業改革も重要な課題となって来ているが、農協の地域農業対応姿勢への信頼と評価抜きに、これら経済事業への組合員の利用結集はあり得ない、と考えるべきであろう。殊に販売事業に関しては、農協の産地づくり機能と商品づくり機能の発揮が大前提になることは多言を要しないであろう。

◆基本は地域農業計画づくり

 ところで周知のように全農は、平成20年4月からTACシステムを立ち上げ、その拡大・支援に取り組んでいる。TACとは「地域農業の担い手に出向くJA担当者」のことで、その役割は“担い手の声・要望の収集”と“担い手に役立つ各種情報のお届け”にあるとされており、システム立ち上げの狙いは、農協が捕らえ切れていない“重点顧客(大口生産者)への課題解決型営業”の展開にある、とされている。
 全農がこのようなシステムを立ち上げたことには、唐突の感を禁じ得ないが、農協の地域農業対応の重要性を事業システム構築という形で明確にしたことは評価されて然るべきであろう。ただし、このような取り組みだけで営農指導機能の強化・高度化ができるとは思われない。やはり基本は地域農業の保全・再生・振興(地域によって方向づけは異なるはず)に向けての対応戦略の検討・確立(地域農業計画づくり)であり、その前提となる“営農企画機能”の強化・高度化に向けての専門家の育成・確保であろう。
 次は、「JA綱領」の制定によって著しく重要性を増した“住みよい地域社会づくり”に向けての農協の機能革新の課題である。その焦点は必要不可欠な生活インフラの整備、高齢者福祉活動の充実、生活文化活動の多彩な展開であろう。生活指導員の確保と女性組織の活性化がその鍵を握ると思われる。
 第3は、信用事業と共済事業改革の基本課題である。
 前者は、農協への親しみと信頼感と利便性とを徹底的に活かした、組合員にとってのメインバンク化の推進であろうし、後者は、LA中心の事業推進体制の確立と、共済商品の魅力を活かした効果的な事業推進による組合員の保障の高位平準化の実現であろう。両者ともに大前提となるのは、地域住民の准組合員化の着実な取り組みであろう。

◆期待される連合会の役割は何か

 農協運動の本舞台は言うまでもなく人間(組合員)の協同組織である現場農協である。連合会は現場農協という法人の二次的協同組織であり、農協運動の基本組織ではない。農協運動が力を発揮するかどうかは、あくまでも現場農協が強くなるかどうかに懸かっている。
 とは言え、農協の各事業をめぐる諸情勢の変化は、現場農協の対応力の強化・高度化だけでは、多くの面で間に合わなくなって来ていることは間違いない。連合会の役割が農協運動の成否の鍵を握る時代が到来したと言うこともできる。
 しかし、連合会はあくまでも農協運動の本舞台である現場農協の各事業の機能を支え、強化できる補完機能、それも“絶対的な補完機能”(A)の開発・発揮に徹するべきだ。連合会は現場農協が合併等によって体制を整え、努力すればなし得る“相対的補完機能”(B)の発揮程度に止まってはならない。求められるのは、あくまで(A)の高度な機能発揮である
 まず全農に関して期待される(A)機能は、生産資材の有利仕入れと効率的配送機能、調整販売機能の発揮、市場の卸売業者や量販店等実需者への取引力の発揮、消費宣伝活動への取り組み、であろう。挑戦すべき課題は多様である。
 次に農林中金に関しては、JAバンクシステムの安全管理機能と農協グループの余裕金の効率運用機能の発揮であろう。また全共連に関しては、JA共済事業システムの安全管理機能と農業・農村・農家固有の危険に対応できる共済商品をはじめ独自性の高い商品開発機能の発揮であろう。

◆現場農協の事業革新を支える連合会機能の発揮を

 さらに、連合会に共通する補完機能として重視してほしいのは、1つは、現場農協の各事業に有用な業務ノウハウ(ビジネス・モデル)の開発・提供とそれをベースとする現場農協の業務への取り組みに関する助言・指導機能であり、2つは、各事業分野別の現場農協役職員に対する専門教育機能の発揮であろう。
 農協運動の成否の鍵を握るのは、あくまでも現場農協の各事業の機能革新である。その面で連合会の果たす支援・助成機能と“絶対的補完機能”の発揮には、筆者も大きな期待を寄せているが、連合会が現場農協の事業改革に過剰介入することは、農協の責任意識と主体的取り組み意欲を喪失させることにつながり、百害あって一利なし、である。
 ところが、今組織討議が進められている「全国大会議案」の中に、「事業にかかる勘定やリスクをJAから連合会に移転し、JAは事業の受託者として窓口機能、顧客対面機能を発揮する」等大変なことが書かれているのが目に止まった。いずれ検討してみたい。

【著者】藤谷築次
           京都大学名誉教授

(2009.06.19)