◆季節に合わせて体調を調整する働きも
春は植物が芽吹き生命の大事さ、ありがたさをいちばん実感する時期ですが、それだけに季節について改めて感じさせられる時期でもあります。 今回、食との関係でお話ししたいのは旬の重要さについてです。昨今はハウス栽培が一般化し、魚介類も養殖が増えて旬という言葉も死語になりつつあるかのようです。 しかし昔から旬は大事な言葉でした。昔の人のほうが自然に対する畏敬の念が強かったせいか、季節感を大事にしていたように感じられます。 国語辞典によると「旬」とは「野菜・果物・魚介類の出盛りで最も味の良い時期」のことですが、いただく側からすると「安くておいしい」からこそ旬を大事にしてきたのでしょう。石油や電気を大量に使うハウス栽培よりは、太陽の恵みを活用する露地栽培のほうが環境にやさしいという一面もあります。 旬の野菜や果物は季節に合わせて体調をコントロールする働きがあります。かつて冬の食べ物は概して体を温めるものが多かったように思えます。ゴボウ、大根、にんじん、山芋などの根菜類、あるいはリンゴやミカンなどの果物、そしてビタミンが不足しがちな冬場に日干しした大根や干し柿など。 逆に暑い夏は体温を下げる働きをするトマト、キュウリ、ナスを多食し、スイカやメロン、冷たい飲料や氷、あるいはところてんで暑さをしのいできました。瓜といえば夏の季語です。
◆夏でも体を温める食を
体を極力温めるように心がけるという健康法がありますが、私も昔から体を冷やすことの弊害には気をつけてきました。冬のみならず夏でも体が冷えすぎると抵抗力が落ち、病気にかかりやすくなります。 端的な例は咳が出始めたら、喉を暖かくするという即席治療法です。静かな集まりなどで咳が出そうになったら喉を手のひらかタオルで保温すると不思議なように止まります。家で咳が出始めて風邪かなと思ったときには早めにドライヤーで熱めの風を喉に当ててやります。これもごく簡単な温熱療法でしょう。お試しください。 食の話からちょっとそれてしまいましたが、冬だけでなく、夏でも体調が気になるときは体を温める食をとりましょう。体を温める食物(陽性の食物といいます)は根菜類、肉や魚介類、熱をよく通した料理です。 真夏でも冷房に当たりっぱなしで、冷たい飲み物を大量に飲み、体を冷やす食物(陰性の食物)を取りすぎるのは良くありません。基本的に熱帯の食物は概して陰性の性質があり、寒帯の食物は陽性のものが多いのです。マクロビオティクスの桜沢如一はナトリウムが多いものが陽性、カリウムの多いものが陰性だと言っています。
◆干したり手を加えることで陽性化する
しかし、陰性の食物もなんらかの手を加えることである程度、陽性化する(体を温める)ことができます。火を通すこともそのひとつです。 代表的な陰性の野菜であるナスにしても、しっかり煮込んだり、よく炒め、あるいは揚げ物にすることでかなり陽性化します。トマトもシチューで煮込めば体を冷やすことはありません。 ちなみに「秋ナスは嫁に食わすな」という格言があります。これはしばしば「秋ナスはあまりにおいしいのでお嫁さんに食べさせたくないというお姑さんの意地悪な言葉」だとされていますが、むしろ、陰性のナスを寒さに向かうなかで食べれば体を冷やしてよくない、特に出産を控えているときなどは禁物だよ、というお嫁さん思いの格言だと私は思っています。 火を通すほかに、日に干すのも効果的です。切り干し大根やニンジン、干ししいたけ、かんぴょう、海苔、昆布、干し柿など、私たちの祖先は太陽の恵みを大いに活用してきました。魚の干物もそうですが、日に干すことは保存性のためだけでなく、味を良くし、陽性化させる一石三鳥の役割があったわけです。 このほか塩分を加えることも、陽性化して体を温める効果があります。塩漬け、塩もみ、醤油味などがそれに当たります。北国の人たちが塩分を多く取ってきたのも、寒さを乗り切るための生活の知恵であったのです。 話がだいぶ広がってしまいましたが、旬の食物には価格と味以外に大事な働きがあります。それは酵素の働きが強いということで、栄養成分表の栄養素含有量の数字だけでは推し測れない健康へのプラスがあります。 ハウス栽培により旬が通年化し消費者の楽しみが増えたという見方にも一理はありますが、旬の野菜や果物には自然の恵みがたっぷり含まれていて、私たちの健康を守ってくれていることも忘れたくないものです。
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