◆和食を基本にたまに外国の食を楽しむ
日本ほど世界中の料理を生活の中に取り込んでいる国はないでしょう。多国籍化というより無国籍化だと言う人もいます。外食でも中食(店売りの惣菜、なかしょく)でもアジアや欧米の食が溢れ返っています。
しかし日本人は和食を基本にして、たまに外国の食を楽しめばいい、というのが私のかねての主張です。「グローバル」が大好きな学者や評論家からは「なんと時代後れな」と言われそうですが、本当にそうでしょうか。
日本食を外国の食から区別して大事にしていくことは、日本の言語、伝統、風土、文化(食も文化ですが)を大切に守り育てることと同じで、アイデンティティを守ることを意味します。
Identityというのは、辞書には「他者と区別し特徴づける独自性」とあります。言い換えると「日本のアイデンティティ」とは、日本人、あるいは日本(のあらゆること)に独自の自覚をもち、そこに誇り、不安、喜び、愛情等々の感情を抱くことを指しているというのが私流の解釈です。
もちろん外国の良いものはきちんと受け止めなければなりません。排外主義、偏狭なナショナリズムであってはならないでしょう。しかし早い話が事象や事物に「日本」を感じるかどうかです。
◆発酵食品や植物繊維が多いなど優れた特徴
和食もそのようなものであってほしい。先祖から受け継がれてきた和食の力と知恵を軽んじ、果ては一部の若者のようにぼろ切れのごとく捨て去るのは、あまりにもったいない。昔風にいえばバチが当たる話です。
そこで和食の良さですけれども、和食には他国の食にはない、6つの優れた特徴があります。
第1は低脂肪であることです。霜降り牛のすき焼きやロースカツなど動物の脂身も和食メニューにはありますが、魚と野菜を中心に調理してきたうえに、生、煮物、焼き物、蒸し物など、油の使い方もごく少ないのが和食の最大の特徴です。
第2は発酵食品が多いことで、味噌、醤油、漬物、麹、酢、酒や味醂、納豆、クサヤなど、これほど発酵が盛んな国はありません。発酵学では日本は世界1です。
ヨーグルトなど発酵食品が健康に良いことはよく知られていますが、和食は発酵食品の宝庫で、長寿とのかかわりも今後さらに解明されていくでしょう(ちなみに発酵を題材にした長編マンガ「もやしもん」はとても面白く読めます)。
第3は食物繊維の多さです。肉料理主体の国では野菜サラダを山盛り食べますが、生野菜のサラダは見た目ほど食物繊維の量は多くありません。それに比べると穀類、葉物、根菜、豆類、キノコ、海草をさまざまに調理した料理は食物繊維を多量に含んでいます。
このため腸の掃除ができて便秘を防ぐに大いに役立ってきました。食物繊維の摂取量が多かった昭和30年頃まで日本人に大腸がんが少なく、食の欧米化で肉が増え食物繊維が減るようになってから腸疾患が増え始めています。ここには深い相関があると考えられます。「おなかの砂おろし」と呼ばれて快便の良薬とされてきたこんにゃくなど、食卓にぜひ生かしたいものです。
◆低カロリーでミネラル豊富な和食
第4は低カロリーであること。肉料理が少なく、野菜、海草、キノコが多ければ必然的にカロリーは少なくなります。揚げ物のウェイトが低いことも寄与しています。
マヨネーズやドレッシング、洋菓子はカロリー過多に陥りやすい。和食は低カロリーであるという点でも、これから糖尿病など成人病に苦しむ世界の人々から歓迎されていくはずです。
第5はビタミンやミネラルが多いこと。これは和食の素材に葉物、根菜類、キノコ、海草が多いことによります。ビタミンとミネラルをしっかり取ることは健康法の基本だけに、和食ほど優れた食はないと思います。
海に囲まれ海の幸を比較的安く手に入れてきた日本人には、普通なら足りない微少ミネラルが魚介類や海草から潤沢に摂取できていて、世界的な長寿につながっているのでしょう。
第6はおコメです。コメは胚芽米ならなおさらですが、世界屈指の主食であって、ある意味では完全食に近いのです。改めてコメの力が認識される必要があります。
和食の、もうひとつ忘れてならない要素に、出しがあります。昆布、椎茸、かつお節、煮干、味噌、醤油、酒、味醂。これらのハーモニーは料理に絶妙な味わいを作り出すだけでなく、出しそのものが健康に良いものばかりです。
最後に和食は、味も盛り付けも食器類も、すべてにおいて味わいが深く上品(時に素朴)で見た目も美しい。これは食を楽しむ大事な要素なのです。でも、だからなんだ?と言われる方には今回あえてこれ以上言わないことにしておきましょう。
経済倶楽部理事長