◇1億以上の神経細胞が自ら判断する
前回は腸と乳酸菌の話をしましたけれども、今回は腸そのものについて話を広げていきます。人間、元気でいられるのも健康な腸あってのものだと思うからです。
人間の器官で脳に次いで賢いのは何だと思いますか。ハートだから心臓だろうですって?いえいえ、心臓は単純明快、愚直な働き者であって、こういっては失礼ですが、「賢い」というほどの根拠は見当たりません。
正解は、腸なのです。腸は脳からの指示で動くだけでなく、自らの判断によって反応、活動するための1億以上もの神経細胞があります。この膨大な数の神経細胞で、いろいろな判断を自らするところは、まさに知恵にあふれた臓器です。
満腹になれば腸から脳へ情報が伝わって食欲が抑制されるわけですが(小腹は別として)、腸自体が判断する例としては、十二指腸に送られた食物が異物である場合、嘔吐を引き起こすのは腸の神経細胞の自衛行動です。
あるいはストレスやうつなど神経系の病状がひどいと便秘になったり逆に下痢したりするのは、腸が自分で判断して行動に出ているのです。あるいは良い便が出た後に気分が良くなるのは、腸が「快哉」を叫んでいるのでしょう(たぶん)。
腸固有の免疫機能も多く、そのためにさまざまな難しい疾病を引き起こしたりもします。
いずれにしても腸の状態と精神状態が直接かつ密接につながっていることは確かで、腸の神経細胞は自立して考え、反応を示してくれていると考えることができます。いずれ、「考える腸」という本を書いてみたいと思っているくらいなのですが・・・。
要するに、腸は賢い、腸はだませない、腸の発しているシグナルは馬鹿にしてはいけない、ということだろうと思います。おなかの調子のよしあしに私たちはもっと気をつける必要があるし、いつも良い調子であるように食物や精神状態に気をつけたいものです。
◇食物繊維など腸に良い食事を
おなかの調子が悪いからといって胃腸薬を常用して対症療法するのは最悪です。きれいな腸、元気な腸、規則的な排便、健康な便、等々をめざして良い食事を心掛けていきましょう。
腸に良い食事とは、結局、健康を維持するための食事と重なります。特に腸にとって重要な点を挙げれば、(1)食物繊維が十分であるか、(2)乳酸菌の多い食物を食べているか、(3)健康な皮膚に不可欠なビタミンやミネラルが不足していないか、の3点でしょう。
(1)は便秘を防ぐこと、腸内で悪い働きをする悪玉菌や重金属、化学物質を巻き込んで排出してくれること、の2点が重要です。特にぬるぬる系の食物繊維(納豆、海草、果物)を多めに摂るようにすると効果的です。
(2)は前回、述べましたので多言はしませんが、植物性の乳酸菌は特に重要です。これは昔から日本人が豊富に摂ってきた味噌、醤油、漬物、納豆などにたくさん含まれています。
(3)は、腸壁とは実は内側を向いた皮膚であり、皮膚に良い食事が大事です。便秘したり腸の状態が悪くて顔や手足に吹き出物が出た経験はありませんか。ですから野菜、穀類、海草、果物、きのこ、貝類によってビタミン、微少ミネラルをしっかり摂ることを心掛けたいものです。
腸にいちばん良い食事の1つで、かつ簡単に摂れると思って私が大事にしているものに味噌汁があります。
◇栄養・休養・快適な気分で「考える腸」に
わが家の味噌汁には野菜、海草、きのこ(椎茸)がたっぷり入っています。実だくさんの味噌汁の効能としては、第1に善玉菌を増やし腸内環境を改善すること、第2に悪玉コレステロールを抑えて血糖値を改善し糖尿病を抑制すること、第3にガンを抑制する効果があることが挙げられます。
これらは味噌そのもののもつ力が大きいのですが、同時に野菜、海草など多様な具の効果も無視できません。味噌汁は塩分摂りすぎにつながる、高血圧を引き起こす、といって敬遠する人もいますが、味噌汁の塩分は常識的には心配ないことがわかってきました。
食塩だけを大量に摂ると血圧は確かに上がりますが、味噌の塩分にはむしろ血圧上昇を抑える働きがあるという動物実験の結果さえあります。
ですからヨーグルトも貴重ですが、味噌汁はそれ以上に大事な健康食です。ご飯のとき以外でも味噌汁を食する習慣をつければ、腸の健康に大いにプラスするでしょう。
「便秘は万病の元」と昔から言いますが、腸は規則的な排便で定期的にスカッと空けるとともに、腸自身が気持ちよく喜んでくれるよう心掛けたいものです。頭に良い気分、良い知識情報、良い栄養(血流)が届くことが大事なように、「考える腸」には栄養、休養、快適な気分が大事なのです。
経済倶楽部理事長