◇長い海岸線が豊かな恵みをもたらす
今日は海産物の話ですが、まず質問です。日本の海岸線の長さは世界何位でしょうか。国土の広さでは世界60位と小振りな島国ですが、たくさんの小島があり、海岸が入り組んでいるために日本の海岸線はびっくりするほど長いのです。
もったいぶらずに答をいうと、世界6位でほぼ3万kmです。これはオーストラリアやアメリカよりも長く、北海道北端から九州南端まで直線で約2000kmに対し、その15倍もあるのですから日本がいかに海に近い国かわかります。
まさに海洋国家であり、運送、漁業、観光が海と密接に結びついてきた歴史があります。しかも海とつながる河川を上り下りすることで内陸とも深くつながってきました。海との近さを判断する数値として、海岸線の長さを国の面積で割ってみると、日本はフィリピン、ギリシャに次いで世界3位です。
海岸線が長いと、海の幸は当然、多くなります。近海魚が回遊するほか、浅瀬には貝類も豊富に生息します。入り江では牡蠣や海苔などの養殖も活発に行われます。
海岸線が長いだけでなく、落葉樹林帯を抜けて注ぎ込む日本の河川は、落ち葉により大量のプランクトンを供給することで魚介類の最高の栄養源となります。
コバルトブルーのエーゲ海やアドリア海はとても魅力的ですが、経済倶楽部で安田喜憲・国際日本文化研究センター教授が講演されたところでは、あの青色は死の海を表しているのだそうです。
岩山だらけのギリシャや旧ユーゴ沿岸は、落葉のプランクトンが流れ込まないせいで青いのだとか。その話を聞いて、クロアチアやイタリアもいいけれど、魚介料理では日本がやはり一番という思いが強まりました。
◇健康にプラスに働く青魚の脂
さて海産物がなぜ健康に良いのか。何よりも海の偉大さの影響を海産物が受けているからです。生命の起源は海だったし、地球を構成する貴重な元素がたっぷり溶け込んでいることも海の偉大さを物語っています。
海の語源としては大水(おほみ)から来ていると『大言海』にあります。でも「海」は「産み」だという人もいて、これはこれで面白いと思っているのですが、羊水は酸性・アルカリを示すpH(ペーハー)が海水と同じだとか。自然の不思議さには驚かされます。
以下に海産物の優れた点を挙げてみましょう。
まず強調しておきたいのは、魚の脂と肉の脂はまるで違うことです。魚の脂には食べすぎの弊害はほとんどありません。特に青魚の脂にはDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が含まれていて、健康に大いにプラスの働きをします。
これらは血栓、動脈硬化の防止などに重要な役割を果たしているほか、頭脳の働きにも大いに関係があるようなので、私も女房もできるだけサンマやアジ、イワシ、カツオなどを食べるように心掛けています。
友人から「その割に大したことないな」とからかわれますが、食べてなければもっと老化が進んでいるだろうと、勝手に納得しています。ボケ防止にDHAを投与する療法も行われていることを付記しておきましょう。
海水の成分をたくさん取り込んでいるのは貝類と海草で、これがたいへん重要なのです。貝では特に牡蠣がすごくて、鉄分、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、銅など多彩かつ豊富に微少ミネラルを含んでいます。
微少ミネラルは体調をうまく保つさまざまな働きがあり、情緒、精神の安定にも欠かせません。不定愁訴などは微少ミネラルの不足が原因のことが多いようです。
◇適量な“良い塩”は健康の友
海草もコンブ、ワカメ、トロロコンブ、ひじき、モズクなどどれも微少ミネラルの宝庫です。日本の誇る海苔も忘れるわけにいきませんね。とにかく日本は海草大国で、これだけ海草を食べる民族は世界にありません。これが長寿国民の一因だろうと想像しています。
海草は栄養的に優れるだけでなく、池田菊苗が見つけたグルタミン酸ナトリウムという旨み成分として料理には不可欠です。コンブに鰹節に乾し椎茸の3点セットにはどんなブイヨンも敵わない。というのが私の独断で、おいしくて健康に良い調味料という点では世界屈指ではないかと。
おっと危なく忘れるところでしたが、海の成分という点では塩はそのものずばりです。塩には微少ミネラルが牡蠣以上に多く含まれています。適量の良い塩は健康の友である。これが私のモットーで、「良い塩」とは海水を蒸発させて作った昔ながらの塩のことです。
海はあまりに大きいので私たちはつい海の汚染を軽く考えがちですが、水銀などの有害な金属や化学物質による汚染で魚介類も安全とは言えなくなっています。
特に食物連鎖は深刻でマグロなど大型魚は気が許せません。孫子の代まで海の偉大さのおかげを享受し続けられるよう、陸だけでなく海も環境を守り抜きたいものです。
経済倶楽部理事長