シリーズ

「食は医力」

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第27回 理想的な食スタイルは調味料から

・調味料の華“本醸造酢”
・かつお節・シイタケ・昆布
・即席化が招く「食の崩壊」

 どんな名調理人でも調味料なしではお手上げでしょう。ほんのわずかな調味料が微妙な味を左右して、食欲をそそりもし、失わせもします。というわけで今回は食の決め手である調味料について考えてみたいと思います。

◆調味料の華“本醸造酢”

 どんな名調理人でも調味料なしではお手上げでしょう。ほんのわずかな調味料が微妙な味を左右して、食欲をそそりもし、失わせもします。というわけで今回は食の決め手である調味料について考えてみたいと思います。
 ピーマン、ニンジン、オクラ。野菜嫌いは子供から大人まで結構います。しかし、調味料の工夫で食べられるようになった友人の例もあります。この野菜は家族が食べないなどと言わず、調味料を活かしてみましょう。
 『広辞苑』では「調味料」は「調味に用いる材料。味噌・醤油・塩・酢など」とあります。ほかにも胡椒、唐辛子など多彩な香辛料が使われています。スパイス(香辛料)抜きの洋食など、到底ありえない話でしょう。
 調味の華といえば酢。寿司の出来など酢次第とも言え、高級寿司と回転寿司の違いの一つに酢の質の違いがあるとか。
 家庭でも、安い合成酢や半醸造酢から奮発して発酵を重ねた本醸造酢にすると、料理の味わいが深まるでしょう。ちなみにビンのラベルの原材料欄に米とか玄米としか書いてないのが本醸造酢です。

◆かつお節・シイタケ・昆布

 ところで『広辞苑』の先ほどの定義は大事なものが抜け落ちています。日本に固有のすばらしい調味料があるのをどうして忘れたのか。
 かつお節(または煮干)、シイタケ、昆布のトリオがそれで、ここから生まれるグルタミン酸やイノシン酸の旨みは、和食でのみ味わえる世界に冠たるものです。
 かつお節、シイタケ、昆布はおいしさを作り出すだけでなく、素材そのものが健康的食品なので積極的に使いたいものですが、手間がかかるので、と敬遠する若い人が増えているのは残念です。
 味噌汁でさえ、天然調味料のトリオを煮立ててとことこ作るよりも、グルタミン酸ナトリウムやイノシン酸ソーダなど手軽で安い合成化学調味料を使ってしまいたい誘惑にかられてしまう。
 それどころか、パックを開けてお湯を注ぐだけで味噌汁の香りが・・・(合成香料も効いているかも)。そういう時代なのかもしれませんが、これでは味や栄養面が物足りないだけでなく、何かが欠けています。
 つまり、手をかけて料理をつくるところには愛情や思いがこもっていて、食べる人が意識、無意識を問わず、おいしく感じたり感謝したりする心の通い合いが生まれます。
 これは家族に限らず、給食や外食であっても、お互いが顔の見える関係であれば生じることではないでしょうか。

◆即席化が招く「食の崩壊」

 もう一つ大事なのは、調味料の即席化による味の変化です。手間を省き低コストを志向する外食では、しばしば合成調味料を多用することで、そのような「もどき」味が舌に定着してしまった若者や中年が増えています。
 そうなるとせっかくの家庭料理を、味がおかしいとか言って喜ばなくなる。外食が正統で家庭料理が邪険にされるというのは、世界的に見ても「食の崩壊」以外の何ものでもありません。
 その主たる原因は調味料の変化にあると私は思っています。幼少の頃から伝統的調味料を大事にすることで、常に母港に帰ってくる船のように家庭の食事を「お袋の味」として受け止める若者。これこそ理想的な食のスタイルでしょう。
 英語ではseason(調味する)にingがつくと調味料になります。季節の最高の味、旬の味に近づけるという意味から生まれたと勝手に解釈していますが、どうでしょうか。
 ところで手元の英和辞典を引くと「塩、胡椒、ニンニク、スパイス、ハーブなどで、砂糖は含まない」とありました。『広辞苑』も砂糖は見当たりません。
 砂糖で甘辛く煮るのが得意な主婦には解せない話です。老舗すき焼き店でも砂糖を入れるのに、なぜ調味料ではないのか、考えてみるのも面白そうですね。

【著者】浅野純次
           経済倶楽部理事長

(2011.05.25)