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「食は医力」

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第33回 バランス良い食事で体も頭脳も優れたものに

・魚介類は陽性な食べ物
・食事の摂り方で性格が変わる
・「才は表に出、智は隠れる」

 動の人、静の人とよく言います。落ち着きのあるなしとか、才気と愚鈍などで人を評価することもあります。そうした差異はどのようにして生まれるのか。
 多くは遺伝、家庭や学校など環境のせいだろうというだけでそれ以上には進みません。「やっぱりあの人はA型ね」などとなんでも血液型のせいにしてしまう知人もいます。

◆魚介類は陽性な食べ物

 動の人、静の人とよく言います。落ち着きのあるなしとか、才気と愚鈍などで人を評価することもあります。そうした差異はどのようにして生まれるのか。
 多くは遺伝、家庭や学校など環境のせいだろうというだけでそれ以上には進みません。「やっぱりあの人はA型ね」などとなんでも血液型のせいにしてしまう知人もいます。
 地域性も無視できません。長野は頑固だとか、高知は熱血タイプだとか、社会的、地勢的、自然の環境によるところも大きいのでしょう。
 自然でいえば海に近いか否か、寒い地域か否か、などがあり、今日はこの点から食べ物の影響へ入っていきます。
 海に近ければ魚介類を食べる度合いが増えます。昭和30年頃までは特にそうでした。魚介類はナトリウムが多く、陰陽でいえば陽性の食物です。
 その魚介類を多食する漁師は典型的ですが、顔つきは赤く、威勢がよくて、判断も早い。逡巡していては、魚群は去ってしまい仕事にならないのです。
 逆に肉も魚もめったに食べなかった昔の山村の人々は陰性の体質になりがちで、黙々と農耕に従事し、沈思黙考型で時に理屈っぽいなどと言われたものでした。

◆食事の摂り方で性格が変わる

 食の陰陽を最初に説いたのは陸軍軍医だった石塚左玄で、明治29年に『化学的食養長寿論』という本を著しました。彼の食養理論はいわゆるマクロビオティックへと広がっていき、昭和期にたくさんの専門家が系譜として生まれます。
 左玄は同書で「食事の摂り方によって・・・人を健康にしたり病弱にしたり、勇敢にしたり臆病にしたり、判断力の優れた人にしたり才気ばしった人にしたり」する、「野卑・喧騒・強情・卑劣になるのも、食事が原因なのである」と言い切っています。
 だとすると、子供の性格、行動を叱ってばかりいるのでなく、食事を変えることが先決だということになりますが、どうでしょうか。
 左玄が言いたかったのは肉、魚介類、卵、塩分のような陽性の食品と、野菜、果物、砂糖のような陰性の食品のバランスを取ることによって、中庸の性格、行動が保証されるということでした。
 生だと陰性の強い食品も、熱を通すことで陽性化します。逆に陽性の肉には陰性の野菜サラダ、魚介類にはツマや大根卸しをたくさん添えることが理に叶っています。
 穀物は中間的性格を持ちますが、これも熱や圧力を加えると陽性化します。切干大根のように日に干すことも陽性の傾向を強めます。冬は陽性の食物で体を温めるのがよく、夏は少々陰性過多で体を冷やしても問題は少ないのです。

◆「才は表に出、智は隠れる」

 体のみならず頭の働きにも関係があります。左玄は智と才で説明をしていて、食にナトリウムの多い海の国では才が強まり、カリウムの多い山国では智が多いのだとしています。
 いわゆる輿論(よろん)(多数意見)は才気が勝ったもので俗説が多い。逆に卓論(優れた言説)は智の性質である。仙人は山中でカリウム中心の食事をするが、里や海辺へ降りて来ている昨今の坊さんの智は衰えている。などと言うのですが、今でも案外、通用する話かもしれません。
 ビフテキばかり食べていては智の巨人にはなれないともとれます。「才は表に出、智は隠れる」というのは、肉ばかりだと「俺が俺が」となりがちだし、野菜や果物ばかりでは何事も消極的になる、ということとほぼ同じことなのでしょう。
 ともあれ、陰と陽のバランスを取ることで、体も頭脳も優れたものになり、性格も中庸を得るという一見、平凡な結論になりました。
 しかし昨今の若者は牛丼とラーメン、ポテトチップスに清涼飲料とカロリーだけが満点なようです。これでは温和で粘り強い性格など、望むべくもないということでしょうか。

【著者】浅野 純次
           経済倶楽部理事長

(2011.11.17)