◆見た目やのど越しの清涼感を工夫
夏の食べ物というと、冷やしソーメン、冷やっこ、スイカなど涼感に富んだものがすぐ思い浮かびます。純白のソーメンに赤いのが二、三本浮いているだけで涼しげに感じられるものです。
暑いときに、見た目やのど越しを冷涼にするのは誰でも考えることです。特に江戸時代や明治の頃には井戸水で冷やすくらいしか方法がなかったので、見た目が大事でした。
たとえば白を中心に青、赤、緑をちょっと添える。料理でも着るものでもこんな工夫がされたものです。でも今は(節電とはいえ)簡単に冷房冷却ができるせいか、逆に暑苦しい品、暑苦しい着こなしや所作がやたら目につきます。
それはともかく体を内部から適当に冷やすことは暑さ対策になるとはいえ、冷やしすぎはいけません。冷たいものは胃腸が悲鳴をあげない程度にしましょう。
その反面で暑いときに汗をかくような食事もあります。ふうふういいながら熱いラーメンやうどんを食べるのもその一つ。汗をかくと気化熱で涼しく感じるのです。
◆タイには赤や緑のカレーもある
汗をかく食事といえば、わが家ではカレーですね。どちらかというと冬より夏によく食べる気がします。汗が出るのはもちろんカレーの香辛料のせいです。
東南アジアのような暑い地域では、香辛料の効いたエスニック(民族)料理が普通ですが、そうはいっても東南アジアの人々が汗をかきかき食べる風は、日本人ほどにはありません。体温のせいか汗腺の具合でしょう。
カレーの香辛料の主役は辛味性香辛料で、コショウや唐辛子がその典型です。ほかにシナモン、コリアンダーなどの芳香性香辛料、ターメリック、サフランなどの着色性香辛料など20種類くらい入っているのが普通だそうです。
ちなみに日本人は「黄色くないカレーなんて」と言いがちですが、黄色いのはターメリック(ウコン)のせいで、タイなどでは赤や緑のカレーがあります。
日本では香辛料といえば昔はワサビに七味唐辛子くらいで、それらも和食にあってはあくまで脇役でした。
激辛などと刺激を求めるようになったのはごく最近で、逆にいうと明治から大正にかけてカレーがイギリスから日本へ伝わってきたときに、まだ香辛料はほとんど手に入らなかったのです。
◆漢方薬や生薬と同じものが香辛料に
そこで注目されたのが大阪・道修町の薬種問屋でした。そこにはカレーの香辛料と同じものが結構売られていたのです。つまり、カレーの香辛料の中には、漢方薬や生薬として利用される同種のものがあるわけで、体を温めたり食欲を増進させたりする働きがカレー粉には含まれていることがわかります。
そのほか、胃腸の調子を整えたり、刺激を与えて消化を助けたりもする働きがありますし、わずかですがミネラルやビタミンも含まれています。
ですからある意味では薬膳料理と言ってもいいのですが、カレーは中国には伝わらなかったので、薬膳にはカレーは登場しないのです。
ついでにいうと香辛料は一般的に殺菌、消毒、解毒作用があり、肉や魚にコショウやワサビを用いるのはそのためです。
ただし安い料理店で、刺身が当たらぬよういっぱいワサビをつけて食べても、そういう店のワサビは西洋ワサビの粉末に着色料と合成辛味を足しただけのものが多いので、あまり効果はないかもしれません。
といって香辛料は良いことばかりでなく、体質によっては避けるほうがいいのです。特に胃腸疾患、冷え性、虚弱症、痔には禁物です。
もひとつ香辛料の良いところは、塩分摂取に気をつけている人でも味が楽しめることです。塩辛い料理が好きな人は香辛料に代役をさせた料理を楽しみましょう。塩分控えめのカレーなどは最適かもしれません。
経済倶楽部理事長