Aコープ八女店内直売所の様子。生産者は早いもの勝ちで農産物を棚に並べていく |
生産者・消費者ともにメリットある販売戦略を展開
◆小学校に本を贈ろう!
Aコープ店内の入り口に、30個ほどの木箱が並んでいるのが目立つ。買い物をした主婦がその箱の1つにレシートを入れていった。中をのぞくと、どの箱にも多くのレシートが入っている。主婦に尋ねると「ここにレシートを入れると、小学校に本が寄付されるんですよ」と教えてくれた。
この箱は「小学校に本を贈ろう!」という、JAふくおか八女の地域貢献事業なのだ。
同JAでは、運営するAコープ全4店(八女店、立花店、広川店、黒木店)にこの箱を設置。箱には管内に26ある小学校名が記されており、お客はレシートを好きな箱に投函する。レシート総額0・1%分の金額が図書券となって、それぞれの小学校に寄贈される仕組みだ。
この事業を始めたのは平成17年。初年度の総額は98万円だったが、2年目からは100万円を超えた。「最初は娘の通う小学校のため卒業後も娘の母校を応援しようと思って入れ続けている」と、継続して参加しているお客も多い。小学校からは毎年多くの感謝の声が寄せられ、地元紙などにも貢献が報じられた。
Aコープ八女店 |
地域貢献事業として農業体験学習やグリーンツーリズムなどに取り組むJAは多いが、直売所の売り上げで本を寄贈する取り組みは、全国的にも珍しい。食農などとは異なるやり方でもJAはさまざまな形で地域に貢献できる、という多様な可能性を示している。
「JAとして何か地域貢献できないかと考え、実際にお子さんを持つパートさんたちの意見を参考に、学校へ本を贈ることにした」(Aコープ八女店店長、中島義彦さん)。昨今、学力低下の問題もあり、小学生にもっと本を読ませようという世論が高まっているが、教育委員会ではなかなか予算が出せずPTAが独自に積立金を作って本を寄贈しているケースも多い。この運動は、時代のニーズに合った地域貢献活動と言えるだろう。
◆JAらしい店舗作りで差別化を
毎年およそ100万円分(レシート金額で10億円分)の金額が集まる「小学校に本を贈ろう!」運動 |
「図書券を贈ろう!」は、地域貢献だけでなくAコープの経営にも大きな力になっていると、店長の中島さんは話す。
「広告費が大幅に削減できた。従来は週3回新聞の折込チラシを作り、年間3000万円ほどの広告費をかけていたが、現在は月1回のチラシ発行で広告費は年間1000万円以下になった」。
広告にかけていたお金を地域の人びとに還元することで、より地域に密着し愛される店になる。そうすることで、広告を減らしてもお客さんが来てくれる。「夏休みに工作教室、料理教室などのイベントもやって、いろんな形で地域に愛される店舗を目指しています」。
Aコープ八女店の近くにはライバルの大型店も多く、新規出店も目立つ。しかしAコープ八女店は売り上げを落とすどころか、むしろ伸ばしている。その要因の一つが店内にある直売所だろう。「最近はちょっと高くても安全で安心な食べ物を買いたい、という要望が強い」ため、大変好評だという。
店内に設けられた37坪ほどのスペースには、毎朝生産者が野菜や加工品を搬入する。開店前に棚やカゴに山積みにされていた農産物は、夕方にはほとんど完売してしまう。
平成15年の開始当初は年間8000万円ほどの売り上げだったが、国産品や地産地消への期待の高まりとともに、年々売り上げは上昇。6年目となる今年度は、すでに2億円を超えた。「現在290人ほどの生産者が利用していて、スペースはもう限界」で、「Aコープに入れてほしい」という新規の生産者には空きが出るまで待ってもらっている。
図書券を贈呈する中島店長(右)と八女市教育委員会の中島清志教育長 |
生産者にとっても直売所はメリットが大きい。「自分の作ったものがどれだけ売れたかわかるのがいいね。売れ残ったのを見るのは寂しいけど」(ミカン生産者)と、よりよい農産物を作る励みになっている。
「やはり大型店には価格で対抗できない。だからこそ、JAふくおか八女にしかないものを並べないとだめ。組合員の生産品を地産地消で売っていく、それがJAらしい店舗作りになる」という中島さん。今後も地域貢献や安心安全な農産物販売などを通して、さらなる地域密着型店舗にしたいと語った。
◆集荷から出荷まで一括のパッケージセンター
地域貢献だけでなく販売戦略も特徴的なJAふくおか八女。その一例が平成11年に始めたパッケージセンター(PC)事業だ。
一般的に各生産者は収穫した農産物を自宅でパック詰めして集荷場へ出すが、PCでは生産者がそのまま農産物を持ってくると、集荷から、検品、パック詰め、梱包、出荷まですべてJAが一括して請け負う。「PCは生産者にとっても消費者にとってもメリットが大きい」と話すのは、営業開発部営業開発課課長の森義則さんだ。
生産者はパッケージにかける時間が省け、作業負担が軽減されるので、より生産に集中できるようになり、収量増・高品質化をめざすことができる。
PCの出荷は基本的に市場外流通だ。JAが一手に引き受けることで、消費者ニーズに敏感に対応できるのが、消費者や業者にとってのメリットとなる。
生産者の高齢化にともないPCの利用希望が増えたため、19年には黒木地区に第2PCを立ち上げた。今後も取り扱い品目の拡大、市場を通した直販などを視野に入れ「少しでも生産者の所得を多くすることを目指していく」考えだ。
PCは、雇用創出という点での地域貢献も大きい。現在150人以上が登録し、常時100人ほどのパートが働いている。そのほとんどが准組合員でもない純粋な消費者層の主婦だという。雇用創出でも地域を活性化し、地域に根ざした農協活動を実現している。
常時100人ほどが働くパッケージセンター。少ない時期でも1日1万3000パックを作る |
◆分析や検査は先行投資 環境センターは販売戦略
JAふくおか八女環境センター |
「検査結果はインターネットなどで情報公開し、信頼構築に役立ててまいります」(環境センター・服部幸司さん) |
販売戦略の観点では、環境センターの取り組みも特徴的だ。
JAふくおか八女では14年9月に初期投資4500万円で、残留農薬、栄養成分検査、土壌分析などができる環境センターを設立した。昨年は年間で残留農薬試験約2000点、土壌分析約1700点ほどの試験を行った。
土壌分析1回につき組合員や部会から500円の料金をもらっている。分析をすることでその土壌にあった的確な施肥が可能となり、コスト削減や高品質化が可能となる。
残留農薬試験は1作物につき無作為に100〜200点ほど抽出し検査する。検査があることで、生産者は残留農薬に対する意識がより高まり、消費者との信頼関係も築ける。
部会からは年間数万円ほどの料金をもらっているが、それだけでは採算は取れない。分析や検査は先行投資の1つなのだ。JAふくおか八女は環境センターを作ってこれだけの試験をやっています、というのが消費者や取引先に対する大きなアピールになる。試験することで信頼関係が生まれ、安心のJAふくおか八女ブランドになる。
さまざまな地域貢献と販売戦略をもつJAふくおか八女。農業の振興と社会貢献を通じ、「地域の協同組合」をめざしている。
組合長に聞く ―わがJAの挑戦 |
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――Aコープの「図書券を贈ろう!」運動について教えてください。 |