(いずも特産のブドウは出荷最盛期を迎えている)
◆「ファミリーマート=JA」
国道沿いに並ぶコンビニエンスストア。日本ではもはや当たり前の風景だが、ここ島根県出雲市のファミリーマートは、ほかのコンビニとは趣が異なる。店名には「JAいずも」の文字が冠され、その店内には産直の生鮮野菜や加工品が並ぶ。店によっては直売所、精米機、JAバンクATMを併設している店舗まであるのだ。
JAいずもが、全国でも類を見ないコンビニの多店舗経営に乗り出したのは2004年10月だ。翌05年4月には100%出資子会社の「(有)JAいずもアグリマート」を設立し、6月に1号店「ファミリーマートJAいずも大社店」をオープンした。
当初目標は3年以内に10店舗だったが、わずか1年4カ月で10店舗めをオープン。全国の法人経営の中でもこれほど急ピッチで展開できたのは珍しい、とファミリーマートも驚いたという。今年9月には12店舗めのオープンを控えている。
なぜ、JAがコンビニなのか。
JAいずもの主なねらいは5つある。▽農産物・特産物の販売▽販売ネットワークの拡大▽JAサービスの24時間提供▽若い人たちとの絆づくり▽遊休地の有効活用、だ。
まずファミリーマートをパートナーに選んだ大きな理由が、大手コンビニチェーンの中でもっとも地元産品の販売に寛容だったからだ。最大3割までは地元産品を店頭に並べられるという条件が、JAいずものねらいと合致した。
またコンビニのネットワークを使って、販路の拡大もできる。06年には特産品の「いずもぶどう」を中国地方のファミリーマート全店舗で取り扱い650箱を販売。翌年は四国、3年目には関西と着実に販路を拡大している。
通常の業務時間内では、どうしてもJAの総合サービスを利用できないお客も多い。それを補完できるのも24時間営業のコンビニならでは。「将来的に相談窓口などの支店機能も開設したい」(アグリマート)という。
JAが経営するからには“農協らしさ”が必要だ。それでは“農協らしさ”とはなにか。単に野菜を置いているだけでなく、地域に役立つ情報発信、地域住民のためのサービスがなければならない。
それがJAが経営するコンビニなのである。
(写真)上:ファミリーマート店内にある産直コーナー。出雲ならではの風景だ。
中:夏はラピタ屋上のビアガーデンが好評
下:昨年開かれたブラジル移住100周年イベント
◆「おさいふカード」で組合員を創出・拡大
06年11月にサービスを始めた「JAいずも総合ポイントカード」も革新的。「おさいふカード」の愛称で親しまれている。
JAいずもが経営する総合スーパー「ラピタ」での買い物はもちろん、信用、共済、JA-SS、日本農業新聞などの定期購読、農機サービスなど、JAのあらゆる事業を利用するとポイントが加算され、それで買い物やサービスの割引を受けられる。
総合ポイント制度は、組合員の意識向上とJAファンの創出・拡大が目的だ。
JAの事業は本来、組合員の手で作り上げた店舗やサービスなのだが、組合員の自主的な参画は減っているのが現状だ。そこで「おさいふカード」によって組合員に店舗やサービスを積極的に利用してもらい、組合員意識を高めてもらう。
また、組合員の方がポイント加算率が高く組合員だけの特典も多いので、准組合員の加入者も増えた。「おさいふカード」はJAの内外でJAのファンを作り、拡大させているのである。
「システムづくりには多くの難題があったが、実際に運用してみると利点だらけ。これまでラピタだけの利用だった人たちが、信用や共済も利用するようになったし、JAはいろんな事業をやっているんだ、という理解と認知度が非常に高まった」(生活部)という。
(写真)
上:JA総合ポイントカード、愛称「おさいふカード」
下:ラピタ店内の受付カウンター
◆F・マーケットが充実の店舗「ラピタ」
「おさいふカード」はJAのほぼ全事業で利用できるが、利用率の8割を越えるのがラピタだ。ラピタは1989年に「出雲生活センター」が名前も新たに新築オープン、現在は8店舗を数える。昨年12月にはAJS(オール日本スーパーマーケット協会)にも加盟した。
ラピタは02年から本店にファーマーズマーケットを併設。06年には全店舗に設置し、売り上げは毎年右肩上がりだ(下図)。
07年12月にオープンしたラピタはまやま店は、店舗に「食農教育会館」を併設したほか、女性部の加工品販売グループ「はまやま愛菜(あいさい)」が、毎日惣菜やお弁当などを調理し販売している。
◆JAはより直接的な農業・担い手支援を
昨今、出雲市にも大手量販店が進出してきたが、ラピタはただのスーパーではなく農協が経営するスーパーとして、地域のくらしを支えている。
◇
一方、JAいずもの担い手支援、耕作放棄地対策を担っているのがフロンティア・ファイティング・ファンド(FFF、さんえふ)事業と、”JA主導型農業法人”のJAいずもアグリ開発(株)である。
FFF事業は06年からJAと出雲市が協力して始めた事業だ。JAが行政の補助事業を補完し、国の担い手基準に該当しないような小規模農家や担い手を支援するものだ。主な対象はリタイアした帰農者や新規就農者などである。
初年度はJAと行政が6000万円ずつを出し合い99件を助成した。2年目は147件、3年目は168件と助成件数も増え、昨年度予算は1億4000万円(7000万円ずつ)となった。
さらにJAいずもは、支援だけでなく直接的な農業生産にも取り組みはじめた。
JAは旗振りだけしてもだめだ、さらに一歩踏み込んだ体制つくりが必要だ、と08年12月に設立したのがJAいずもアグリ開発である。管内の耕作放棄地などを中心に水稲や果樹を生産し、新規就農者の育成を支援するのがねらいだ。現在は4人の認定農業者が25haで水田、2haで果樹・野菜を生産している。
地域の農業を盛り上げるとともにJAの事業展開を広げ、力強い「21世紀出雲農業」の実現をめざしている。
(写真)ラピタはまやま店内には国産物応援団の印「緑提灯」が掲げられている
組合長に聞く
―わがJAの挑戦
農協職員は運動家たれ!
JAいずも代表理事組合長
萬代宣雄
総合農協だからこそできる地域貢献
JAのさらなるPR活動が必要
――組合長に就任して今年で丸6年になりましたが、6年間の活動についてお聞かせください。
組合長になってまず感じたのは、職員に緊張感が足りない、サラリーマン化しているということでした。組合員のために仕事をするという認識が薄い、これでは組合員がついてこない、と思いましたね。
農協職員はただのサラリーマンではなく、サラリーマンであり運動家、つまり“地域農業の振興を組合員とともに考え汗を流す者”であって欲しいと思っています。農協で何をするのか、何のために農協があるのか、そういうことを職員全員が理解をして、大きな使命感を背負って仕事をして、成長してもらわないといけません。ただ与えられた仕事をしてお金をもらうのではなく、どうやって農家を支援するか、どうやって地域に貢献するか、と常に考えて仕事をすることで組合員や地域の信頼を得て、さらに大きな活動をしていく、というようにしなければなりません。
――職員の意識を変えるために、どのような具体策をとったのでしょうか。
例えば1つめに、労働時間の延長です。労働組合とも協議して、年間変形労働時間制による年間2000時間労働を決めました。それまでもかなりがんばって働いていた方ですが、さらに労働時間を延ばすというのは、今の時代や社会情勢に逆行することです。全国のJAでも類を見ないでしょう。しかし、今のままの気持ちで楽に仕事をするのか、拘束時間を増やしても研修とか横の連携を強化する体制を整えるのか、という二者択一で労働組合にも納得してもらいました。これが意識を変えるきっかけになりましたね。
2つめに罰則規定を厳しくしました。軽いものから重いものまで、不祥事などで農協や組合員に迷惑をかけることは色々とありますが、それまでは口頭の注意だけで終わらせていたものを、監督責任を追及し、ボーナス査定をSからDまで評価基準を設けて厳しくしました。罰則を設けて引き締めるというのははっきり言っていい方法ではないが、緊張感を持って仕事をするという認識を高めるためには仕方がないと思いました。
3つめは、3年前から始めた提案制度です。一般職員なら年に2件、管理職なら年に4件、新しい活動にしろ内規にしろ何かしらのアイディアを必ず出すように、という制度です。全アイディアの中から、年間で最優秀賞1点、優秀賞数点を表彰する一方で、アイディアを出さない管理職には罰金も課します。やはり運動者たるもの、常にどうすればもっとよくなるかを考えて仕事をしなければなりません。実際に出されたアイディアの中から、地域貢献の一環として支店などへのAEDの設置と全職員の救急救命講習会を実施し、人命救助に寄与したこともあります。ほかにも、職員同士の研修旅費支給制度などいくつかの新制度も発足しました。誰もが経営者になったつもりで、提案し、活動していくことが重要です。
――今秋には第25回JA全国大会が控えており、その議案について先日の新世紀JA研究会セミナーでも「総合農協としてのJA」が話題にのぼりました。
今、ごく一部ですが農協分割論というのがあります。しかし日本は元々、総合農協でやってきました。信用、共済、経済事業などを切り離すことができないのは明白です。JAは総合農協であり続けることで、地域農業や地域社会の活性化など、果たさなければならない役割が益々重要になってくるでしょう。
そもそも行政は税収が減っている、一般企業も自分たちが食べるのが精一杯、というのが現状です。その中で農協の地域貢献活動は、今まで以上に必要になってきます。農協が地域に根ざして、それを守っていく。さらには教育文化活動や、信用共済事業にもつなげて地域との一体感を重要視していく。これは総合農協だからできることです。
――JAに対する期待が高まっている、と言えますね。
我々も地域社会に貢献したいという思いが強いし、地域もそういう期待が強いでしょう。各地域でがんばっている農協があり認知度は高まっていますが、その努力が認められているかというと、微妙な部分があります。「JAはがんばってます!」と自慢気に話すつもりはないですが、JAがどんな活動をしているのかというPR活動はこれまで以上に必要でしょう。
――具体的には。
全中にもっと指導力を発揮してほしいですね。たとえば経団連と連絡を密にして、WTOや農業の現状を理解してもらうように働きかけをしてもらいたい。日本の食料は金さえ出せばいつでも外国から輸入出来るという人がいます。しかし、地球温暖化問題などを含めて、食料穀物不足ともなれば、自国の食料確保は当然のことであり、金さえ出せばということにならないことは明白です。食料自給率50%確保の必要性は、自民党も民主党も掲げていますが、この当然ともいえる目標達成の必要性などを、もっと経済団体にアピールしなければなりません。
JAいずもとしては、例えば耕作放棄地対策をすることで、農地の多目的機能を発揮して、環境保全などの活動をしています。4年前から行政と協力してFFF(3F、さんえふ)事業も始め、国の援助基準に該当しない小規模農家や新規就農者を支援しています。しかし、そういう活動をしていることを、地域の人たちがどれだけ知っているか。中には「農協は自分たちが食うためだけにやっているんじゃないのか」と言う人たちもまだまだ多くいて、理解されていないのが現状です。残念ながら、がんばっている割には評価が低い。
決して誇大広告をしてはいけないけど、食農教育などにしても正当な活動はしっかりPRして、地域に理解してもらう努力が必要なのではないでしょうか。多くの方々ががんばっていることを、一般国民、市民に理解されるような活動が必要だと思います。
☆今村奈良臣のここがポイント☆
創造・進取・交流
JAいずもの特質を一言で表現せよ、と問われれば、私は「全力をあげて各分野でイノベーション(革新)をすすめている農協である」と答えるだろう。それも「組合員がJAの主人公である」という原点に立脚して進めている。
JAいずも管内は水田地帯、砂丘地帯、中山間地帯と多様性に富む。米、麦はもちろん、ブドウ、イチジク、柿、さらには、アスパラガス、ブロッコリー等の多彩な野菜、きのこ、和牛等々、豊かな農業生産がある。その中で、地域革新、経営革新、組織革新をJAは全力をあげて進めている。あちこちにJAが作った農産物直売所には、女性のリーダーシップのもとにピンピンコロリ路線に乗った高齢技能者たちが腕をふるいつつ農産物を持ち込み活気に充ちている。JA主導型農業法人の活躍がみられ、出雲ブランドの確立を通して生産者のフトコロを暖かくするJAの販売戦略革新は大きな成果をあげている。
ラピタをはじめとするコンビニ店舗網により組合員の生活は豊かになりポイント制もそれを促進している。子育て支援事業、JA主導の食農教育、高齢者福祉などの多彩な地域貢献活動、さらにはメモリア出雲をはじめとする葬祭センターなど、揺りかごから墓場までと言われるような多彩な活動を組合員の参加のもとにすすめている。
これらの各部門、各事業を通して、私は多彩な技術革新がそれぞれの分野で進められていることに目を見張った。
こうしたJAいずもの先進性を実現している基盤には、人材革新が徹底して進められていることを実感した。JA役員はもちろん職員も幹部から先端の営農センター、店舗に至るまで、人材革新とそのための学習活動が徹底しているように思った。「JAの活力は人材にある」ということを実感した。その上で、胸を張って「創造(Creation)、進取(Challenge)、交流(Communication)」の「三つのC」がJAいずもの経営指針として打ち出されているのである。