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新たな協同の創造をめざす 挑戦するJAの現場から

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地域の生活・産地の未来はJAが守る JAえひめ南

シリーズ8 JAえひめ南(愛媛県)
離島を結ぶ定期航路はJAで
生産者代表として“価格形成”を担う 

 愛媛県南部の宇和島市はミカンの一大産地として有名だが、宇和島湾の魚介類も特産の一つだ。農協と漁協の交流も深く、直売所「みなみくん」店内には大漁旗が掲げられ、鮮魚コーナーも充実している。しかしなにより印象的だったのは、農産物を出荷する組合員たちの絶え間ない笑顔と笑い声だった。地域の幸せを守るJAえひめ南の取り組みとは・・・。

◆たとえ赤字でもフェリーは止めない

               宇和島港と九島の3港を片道30分で運航する「第8くしま」号。船齢31年になるが、まだまだ元気に活躍している。JAえひめ南

(写真)宇和島港と九島の3港を片道30分で運航する「第8くしま」号。船齢31年になるが、まだまだ元気に活躍している。

 入り組んだ地形に大小いくつもの島を持つ宇和島湾。その入り口となる宇和島港に離島の九島(くしま)から、定期フェリー便が汽笛をあげて入港してきた。
 定員370人車両積載9台の小型フェリーが1日9往復し、九島と宇和島市街を結ぶ貴重で唯一の交通手段となっているが、舳先には「JA」の文字がはためき、船体横腹にはJA共済、JAバンクの文字が躍る。この「九島〜宇和島定期航路」は全国でもほかに例がない、農協が運行するフェリー便なのである。
 その歴史は古く、1951年に当時の九島農協が運航を開始した。90年宇和島農協に合併してからも運行を続け、98年に子会社(株)えひめ南汽船を設立し事業を引き継いだ。昔は4000人以上いた島民だが現在は1090人ほどと減少し、合併当初の年間利用客数36万1000人は、昨年度16万7000人にまで減ってしまった。
 運賃収入も年々減り、とても満足な経営状態ではないが、国庫補助金の交付を受けながらも運営を続け、便数の削減や運賃の大幅な値上げなどもしていない。
 同社の赤松剛常務は「『航路をなくさないで』『いつもありがとう』という陳情も感謝も言われないが、それほどこの路線が血脈のように流れ続けることをあたりまえに思っている証しだろう。赤字を理由に血路を絶つわけにはいかない」と、地域に根ざす“親”と“家族”を思う。

 


◆加工コーナーも広い「みなみくん」

 

直売所「みなみくん」がある総合商業施設「きさいや広場」 フェリーが発着する宇和島港に今春4月26日、宇和島市が総合商業施設「きさいや広場」をオープンした。JAえひめ南は10年前からその近辺で運営していた直売所「みなみくん」を広場内に移転し、毎月前年比+10%ほどで推移するなど好調な売れ行きだ。
 みなみくんの特徴は直売コーナーだけでなく、加工品のコーナーが充実している点だ。
 地域の特産品や漬け物に限らず、組合員が自分の畑で採れた野菜など、ほぼ100%地場農産物だけを使ったお弁当やサンドウ今年4月26日のオープン日は人が動けないほどの大盛況だった「みなみくん」店内ィッチが大人気だ。毎日お弁当10パック以上、サンドウィッチ20個以上を出荷している荒木加代子さんは「毎朝5時に起きて作っている。お客さんの感想を聞いて、ほかの店には置いていないようなおかずの組み合わせにしたり、ごはんの量を変えて値段を変えたりしている」と、業者顔負けだ。

 

 

(写真)上:直売所「みなみくん」がある総合商業施設「きさいや広場」
    下:今年4月26日のオープン日は人が動けないほどの大盛況だった「みなみくん」店内                               

 


◆人気上昇中、女性部のつくる米粉パン

 

パン工房「みなみ」で働く女性部員たち。フレッシュの山下さん(手前)がリーダーシップを発揮し実現させた。 みなみくんにはJAえひめ南女性部手作り米粉パン工房「みなみ」が併設され、こちらも当初の予想を大きく上回っている。
 つくるパンはすべて米粉8:小麦粉2の米粉パン。コメは100%管内産で、年間15tのコメを大阪の業者に委託して製粉している。パン工房で働く人はみんな女性部員だ。
 昨年8月、建設中のきさいや広場で米粉パンを売ってみてはどうかという市の提案をうけ、女性部とくにフレッシュミズからも、ぜひやりたいという意見があり急ピッチで準備が進められた。
 もっとも大きな心配は、パンを作る人がみんなただの女性部員で素人だということだった。
女性部の手づくり米粉パンが人気のパン工房「みなみ」 しかし2月から講師を呼び、泊りがけの研修も行い、なんとか4月26日のオープンにこぎつけたところ、オープン2日間は開店して1時間半で完売するという大人気。わずか10日間ほどで目標の46万円をはるかに上回る173万円を売り上げた。
 パンを販売するだけでなくその場で食べられる喫茶コーナーも併設したことで、平日は毎日400〜500個、土日には700〜800個を売り、1カ月600万円以上の販売高を達成している。400円のモーニングセットは、毎日欠かさず食べに来る人もいるという。
 パンの販売はきさいや広場内だけにとどまらず、管内の病院、介護施設、JA支店への出荷やイベントへも積極的に出品し、「えひめ南女性部の米粉パン」は知名度を上げつつある。

 

 (写真)上:パン工房「みなみ」で働く女性部員たち。フレッシュの山下さん(手前)がリーダーシップを発揮し実現させた。
     下:女性部の手づくり米粉パンが人気のパン工房「みなみ」


◆ライバルJAとの提携で生産・販売戦略を

 

 愛媛の特産品と言えばやはり柑きつ類だが、近年その売り上げは漸減し価格も下落傾向が止まらない状況だ。そこで産地でできる限りの対策をとろうと、JAえひめ南と隣のJA西宇和は年2回、定期的に連絡協議会を開き、柑きつ類の総合的な生産・販売戦略を協議している。
 近隣のJA同士で定期的な販売戦略会議を開いているのは全国的にも珍しいが、始まりは古く、協議会は今春で55回目を迎えた。実に20年以上前から、産地同士が協力して情報交換を密にしているという。協議会では、両JAともに地区別種類別の生育状況、糖度分析結果、生産予測などかなり詳細なデータを出し合って生産・販売計画を討議している。
 JAえひめ南は21年度予想で温州ミカン3万2000tを生産し、JA西宇和は同5万1000tに達する。販売面ではライバルとも言えるJA同士だが、JAえひめ南の脇田英俊常務は「両JAだけで愛媛県産温州ミカンの約7割をカバーしており、なにかあったらすぐ話し合いをしようと決めている。両JAの信頼関係によって協議会は成り立っている」と話す。

 

 

◆オモテ年に結果を得るために…

 

全国生産量100万以上が予想される温州ミカン 温州ミカンの流通経費はおおよそ80円/1kgほどだ。農家への支払いが最低150円/1kgほどなければまともな所得にはならないし、220〜230円/1kgなければ十分な再生産態勢を整えられないが、実際にそこまでの値がつくのは難しい状態だ。
 特に今年はオモテ年で全国の総生産量が100万tを超えることが予想され、200円/1kgを切る可能性もある。
 協議会では「産地と生産者団体が自主的な価格形成をしよう」と、07年に毎週水曜日の出荷停止を取り決めた。
 05年には全農愛媛県本部と東京青果の反対を押し切って、3日間の出荷停止をした実績もある。
 これからの柑きつ類生産の焦点となるのは、現在1kgあたり10円以下で取り引きされている加工原料用だ。「アメリカではより良い品を加工用にまわしている。生産者がうかばれるように、加工原料用価格を見直してほしいというような提案をしていきたい」という。

(写真)全国生産量100万以上が予想される温州ミカン

 

 

組合長に聞く
  ―わがJAの挑戦


21世紀のキーワードは「女性と心」

JAえひめ南代表理事組合長 林 正照

 

農地が荒れる前に、荒らさないシステムづくりを

柑きつ類以外の新ブランド開発もめざす


JAえひめ南 林 正照代 表理事組合長  ――今春、JAえひめ南は宇和青果農協と合併しました。
 平成9年に6総合JAと1専門農協が合併しましたが、宇和青果農協が入らず組合員の2重構造が生まれてしまいました。それを解消すると同時に、JAえひめ南は販売事業が弱く、宇和青果農協は現場作業、事務作業が弱かったので、一元化しようと合併しました。事業の統一ができたことで明確な戦略を立てられるようになり、ミカンの生産・流通・販売で新しい理念をつくっていきたいですね。
 具体的には市場外流通やブランド開発などを含めた新しい販売戦略、物流や共選コストの合理化、生産資材価格の低減などでいかにして生産者の所得を向上させるか、ということ。また地域最大の課題である、高齢化、担い手不足、耕作放棄地の解消にも力を入れていきたいと思います。
 ――耕作放棄地対策で、今取り組んでいることはなんでしょうか。
 なんと言っても、荒れる前に荒らさない努力をしなければいけません。一旦、耕作放棄地になってしまうと、復旧までに大変なお金と時間がかかりますから、そうなる前にやれる人にバトンタッチできるようなシステムづくりをしています。
 今年から試験的にJAとして9人の農作業支援要員を雇って、うち4人で柑きつ園の経営受託を始めました。もちろん組合員さんと競合するような場所ではやりませんが、そうでないところでは農地を荒らさないためにもJAが受託しました。
 ――販売戦略についてはどうでしょうか。
 特産の柑きつ類は昨今、生食での1人あたりの消費量が減って飽和状態です。健康や美容にいいなどの機能性を訴えて消費量につなげるのも限界で、商工会議所や加工メーカーとも協力して、いかにして消費者に食べてもらうかを考えていきたいと思います。
 その一方で、最近は新品種の導入にも積極的です。イタリアからタロッコというブラッドオレンジ種を持ってきて部会も作りました。そのほかにも、せとか、甘平(かんぺい)など新しい品種を目玉ブランドとして拡大していきたいですね。
 柑きつ類以外はほとんどない地域ですが、例えば2年前に重要文化的景観に選定された遊子水荷浦(ゆすみずがうら)の段畑では40戸の生産者がジャガイモを生産しています。その販売をJAが一手に引き受け、柑きつ類以外の新ブランド開発もめざしています。
 ――10月の第25回JA全国大会では「新たな協同の創造」がテーマです。新しい時代の協同組合運動はどうあるべきでしょうか。
 農協の目標というのは組合員。組合員と話をできる仕組み、システムづくりをして、求められる農協づくりをもう一段考えなければいけません。JAは経済改革を進めてきましたが、会計基準ががんじがらめになりすぎて、農協の方が組合員から逃げてしまっているのではないでしょうか。改革を進めても、利益追求ではだめです。
 行政でも地域を支えるのが苦しい今こそ、協同組合が地域を守らなければいけません。将来的には農協が漁協と合併して地域の農業や生活、ひいては文化や伝統などを守っていければよいと思います。
重要文化的景観に選定されている遊子水荷浦の段畑。春には青々としたジャガイモ畑が広がり、多くの観光客が訪れる。 また地域を守るためには、女性の活躍が欠かせません。21世紀のキーワードは「食料と水と環境」と言われていますが、私はそこに「女性と心」を加えたい。やはり女性が元気だと、地域全体が元気になります。最近は女性の社会進出が進み、政治も変わってきました。JAえひめ南でも、女性部の活動は活発で、趣味的なサークルから加工などの事業まで大小含めると130以上のグループがあります。きさいや広場内のパン工房も、フレッシュミズがリーダーになって動いてくれました。女性の正組合員加入促進もして、もっと女性の力を発揮して地域を盛り上げてほしいと思います。

 

(写真)重要文化的景観に選定されている遊子水荷浦の段畑。春には青々としたジャガイモ畑が広がり、多くの観光客が訪れる。

 

 

☆今村奈良臣のここがポイント☆

Cー6農業・農村の創造をめざそう

  全国各地の農業と農村、そしてそこで生産される農産物や多彩な食料品の生産の実態調査を通して、すぐれた地域に共通する特徴は何か、ということを、私はこれまで考え続けてきた。
 それを私なりに理論的に誰にでも判るように整理したのが、下図に示した「Cー6農業・農村」の姿である。
 正6角形の頂点はいずれもCという頭文字で始まる英単語で表現されている。
 6角形の右辺は「産業としての農業」、左辺は「環境としての農村」とされている。
 「産業としての農業」がすぐれているということは
 Cost(コスト)、つまり生産費が低いこと、生産性が高いこと。
 Confidence(コンフィデンス)、つまり信用、信頼、安全、安心。
 Consumer(コンシュマー)、消費者、実需者に愛される産地であること。
 この3つがすぐれていることが、すぐれた産地の必要不可欠な条件である。
 他方、左辺は「環境としての農村」の基本要素を表現している。
 Culture(カルチャー)、文化やすぐれた歴史や伝統芸能などである。
 Climate(クライメイト)、気候、風土、環境にすぐれ美しい豊かな農村である。
 Community(コミュニティ)、人が安心して住める地域であり活気に充ちた集落がある。
 すぐれた農業、農村地域は、6角形の各頂点を10点満点として8点以上獲得しているところであると思う。8点以下のところは8点以上を目指して努力してほしい。
 私の好きな司馬遼太郎は宇和島について心やさしくこう書いている。「いつきても宇和島というのは、いかにも幸福そうな町に感じられる…/しかも文化がある。/宇和島の文化はきわだった協調性にある。」(『街道をゆく夜話』 朝日文庫)
 JAえひめ南はその立地特性と特産物を活かしつつ更なる飛躍を祈りたい。

 

「C?6農業・農村」のイメージ

(2009.10.13)