田植えの時期が近づいてきました。水稲の栽培で欠かせないのが、除草剤の散布です。最近は、初期剤と中期剤または後期剤を散布する「体系処理」から、一発処理剤と呼ばれる除草剤での雑草防除が主流になりました。
一発処理剤は、いわゆるヒエ剤成分や広葉剤成分、そして抵抗性の雑草に効果のある成分などを含んでおり高性能な剤が多くありますが、上手に使用しないとその効果が発揮されなくなってしまいます。ここでは、一発処理除草剤を使うときに、その効果を最大限に引き出すための、上手な水稲除草剤の使い方の「基本」を説明します。除草剤の効果を十分に発揮させるためには、ちょっとしたポイントが重要です。
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◆使用時期と水管理
除草剤の効果を出すためには、まず、土壌の凹凸がないようにきちんと耕起、代かきをすることが重要です。土が水面から露出している部分があると、その部分だけ除草剤が効かなくなります。土を均平にするためには、きれいに耕起・代かきができていることはもちろんですが、田植え後、補植のために圃場に入って足跡をつけすぎてもよくありません。
次に、正しい使用時期に使用することです。早すぎると薬害が生ずる場合がありますので、使用時期の早限(移植後何日から)を守ります。逆に、遅いと雑草に十分な効果が現れないことがあります。除草剤の使用時期はそれぞれの農薬のラベルに記載されていますので、必ず確認することが重要です。
水稲除草剤の使用時期は移植日を起点にした日数とノビエの葉期で表記されています。例えば「移植後5日〜15日(ノビエ2.5葉期まで)」と表示されている場合、移植後5日から15日までが使用時期ですが、移植後15日以前であってもノビエが2.5葉期になった場合には散布が必要です。
昨年から、水稲除草剤の使用時期の標記がこれまでと変更になり、「移植後5日からノビエ2.5葉期、ただし移植後○日まで」となっている剤も多くなっています。この場合、○日の部分が「30日」のように長めに設定されている場合が多く、これは初期剤との体系でも使用できるようにとの配慮からです。したがって除草剤の散布時期は、記載されているヒエの葉令にあわせるようにします。最近は温暖化の影響かヒエの葉令進展が以前と比較して早くなっているとの報告もあります。年次の天候によってはヒエの生長が早く薬剤が効かなくなってしまう場合があるので、これまでの習慣で「田植え後2週間で散布すれば大丈夫」などと考えず、圃場での雑草の発生状況をよく観察したうえで早めの散布をおすすめします。なお、ヒエの葉令は圃場の平均ではなく、圃場でもっとも大きいヒエがその葉令になった時点なので、注意しましょう。
除草剤の処理をした後は、その効果を持続させるためにも水管理が重要になります。水田で除草剤を処理すると、水田内で拡散した成分が土壌の表面に処理層を形成し、これが雑草の発生を抑えます。この処理層を崩さないためにも、散布後7日間は水田の水が流出しないように止水管理をします。かけ流しや落水、モグラ等の小動物による穴からの漏水、もしくはオーバーフローなどで田面水の流亡があると、有効成分が流出してしまうことになり、一時的な除草効果はみられたとしても抑草期間が短くなるなどの弊害がおこることもあります。また、成分を圃場の外にださないことは、環境への配慮の面からも重要です。畦の管理も含めて、しっかりと止水管理を行いましょう。
◆剤型別の散布のポイント
一発処理型の水稲除草剤には主に粒剤、フロアブル、そしてジャンボ剤があり、現場のニーズにあった剤型が選択され使用されています。同じ成分でこれら3剤型がそろった除草剤も増えています(下表)。ここでは、これらの剤の特徴と使用におけるポイントを紹介します。
粒剤は、かつての10aあたり3kgを散布する粒剤から、1キロ粒剤への切り替えがすすみました。粒剤は比較的、効果が安定であることが特徴で、水稲一発処理除草剤の使用面積の50%以上は粒剤が使用されています。
1キロ粒剤を手回し散粒器で散布する場合は、散布前に調量レバーをゼロから徐々に上げて粒剤が均一に吐出する最小位置を確認し、歩行速度で調整しながら散布します。背負い式の動力散布機で散布する場合も、剤によって吐出量が違いますので必ず調量をします。
フロアブル剤は、散布器具が必要なく、容器から直接散布できる省力製剤です。ただし、水の中に微粒子化した有効成分を懸濁させた製剤のため、長時間放置すると沈殿していることがありますので、使用前にかならずよく振ってから散布します。拡散性が高いので幅30m以内の水田では周縁部からの散布で十分ですが、30mを超える水田では中央部に入っての散布も必要です。なお、フロアブル剤を散布した場合、散布直後の水中濃度が極めて高くなります。したがって、とくに処理当日は田面水が流出しないようにしっかりと止水管理をすることが重要です。
ジャンボ剤は、30から50gのパックを10aあたり10から20個、畦畔から投げ入れるだけのもっとも簡単な処理が可能な剤型です。散布器具が不要で短時間に作業でき、飛散が少ない、という特長もあります。ただし、水が少ないと拡散不良となり効果不足や薬害の原因になるため、十分な水深を確保することがポイントです。また、藻類や浮草が多発している水田では拡散が不十分となりますので、このような水田では他の剤型を使用します。なお、多くのジャンボ剤が細粒をフィルムに包んだパック状となっていますが、このフィルムは水溶性ですので、ぬれた手で作業したり雨でぬらしたりしないよう注意しましよう。
◆田植同時処理を行う場合の注意点
田植同時処理は除草作業にかける時間を短縮させる画期的な省力技術ですが、水稲の根が活着する前に除草剤を散布するので、薬害が起こりやすくなります。薬害をさけるためには、土壌を均平にするなどの一般的な注意に加えて、次の点に注意が必要です。
多くの除草剤成分は植物の根から吸収される性質があります。根部が露出するような浅植条件では薬害の危険性が高まるので、極端な浅植は避けて適正な移植深度となるように田植え機を設定します。また、土の戻りが悪い水田では、田植機による植穴がそのまま残り、水稲の根部が露出して薬剤にふれて薬害が発生するので、このような圃場では田植同時処理は避けます。
移植後は、成分を圃場全体に拡散させるために速やかに入水し、7日間以上の止め水管理を行います。また、田植同時処理後は補植は避けます。補植する際に根部が除草剤と接触することで薬害が発生する危険性があることと、除草剤の処理層がこわれる点からも、補植のために水田に入ることは好ましくありません。