特集

農薬危害防止・安全防除運動
農薬危害防止・安全防除運動

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『農薬は、安全に、正しく使おう』−農薬危害防止・安全防除運動に寄せて−

農水省・JA全農

 農水省は、6月〜8月を中心に、期間を延長して「農薬危害防止運動」を実施している。農薬危害の防止方法、適正な使用および保管管理の方法ならびに適正な処理などに関する正しい知識を広く普及・浸透させていくもの。農薬による中毒事故は、農薬使用後の作業管理不良が事故原因の大半を占めており、事故の未然防止に向けて細心の注意を払おう。一方、JA全農では「農薬の適正使用は確認と記帳から」、「欠かせない環境への配慮」、「使用者の安全」などを掲げ安全防除運動を展開している。農水省、JA全農肥料農薬部にご寄稿頂き特集をまとめた。

常に「今日も確認」を忘れずに適正使用と適切な保管管理を
農水省

 農林水産省では、本年度から、気温や湿度が上がり、病害虫や雑草が発生しやすい6月〜8月を中心に、期間を延長して「農薬危害防止運動」を実施します。この運動は、農薬を使用する機会が多くなるこの時期に、作業者の皆さんや近隣住民の皆さんに対する健康被害の防止、あるいは農産物の安全確保や環境影響の低減などを目的として、厚生労働省、都道府県との共催で実施しているものです。
 これまでも、長年にわたり関係府省、関係団体の協力を得て本運動を実施してきました。しかしながら、かつてに比べ農薬による事故は減少したものの、依然として発生しており、農薬の使用に当たって、周辺環境への配慮が十分でなかった事例や農薬を本来の目的とは異なって使用したり、悪用する事件も起きています。さらに近年、農薬の使用地域周辺の住民等への健康影響に対する配慮が強く求められていることもあり、あらゆる面で農薬の安全かつ適正な使用が必要となっています。

◆農薬使用後の作業管理不良 中毒事故原因の大半占める

 このような背景をふまえ、本年度も、農薬の危害の防止方法、適正な使用及び保管管理の方法並びに適正な処理等に関する正しい知識を広く普及します。また、農薬の販売について、特に毒物や劇物である農薬を適正に販売するよう引き続き指導していきたいと考えています。
 2002(平成14)年から2006(平成18)年の5年間の農薬による中毒事故の発生状況(下図)によれば、依然として農薬使用後の作業管理不良が事故原因の大半を占めています。具体的には、土壌くん蒸剤の使用後に被覆を完全に行わなかったり、適切な処理を行わなかったため薬剤が揮散し、周辺住民等に危害を及ぼす事故が主です。また、保管管理不良、泥酔等による誤飲・誤食、強風時の使用等使用時の本人の不注意、マスク・眼鏡および服装等装備不十分なども相変わらず発生しており、これらの中毒事故の多くは、農薬使用者の「慣れ」に起因する不注意によるものであると考えられます。毎回、農薬を使用する上での基本を確認していただき、事故の未然防止のために細心の注意を払ってください。
 また、農薬による動物等への被害など、農薬本来の目的以外で使用される事例が生じています。農薬が他の用途に使用されないよう、鍵のかかる専用保管庫で保管するなど、しっかりした管理を行いましょう。万一、紛失、漏洩、流出した場合には、速やかに警察や病害虫防除所等へも届け出をお願いします。

◆農薬使用基準の遵守を徹底 周辺環境への影響に注意を

 近年、多種類の農作物が栽培され、名前や形状がよく似た作物が増えています。使用前にどの使用基準(作物名)で使用すべきか、しっかり確認することが必要です。また、散布機等は使用するたびにきちんと洗浄し、容器に残ったままで次の散布に使用することのないよう確認してください。
 さらに、周辺環境に被害を及ぼさないよう、散布当日の気象状況等を確認しましょう。
 特に、学校などの公共施設や住宅地の周辺で病害虫防除を行う場合には、剪定など農薬を使わない防除方法を中心とし、やむを得ず使用する場合には、事前に周囲に知らせるなど、周辺環境への影響を最小限にするようにしましょう。
 加えて、水田における除草剤の効果を最大限に高めるとともに、周辺環境への影響を少なくするためには、適切な水管理が必要です。止水期間を長く取る等の対策をお願いします。
 農薬危害防止運動は、病害虫の発生頻度が高まり、農薬を使用する機会が多くなるこの時期をとらえて実施するものです。
 農薬を取り扱う方々に適正な使用及び適切な保管管理を確認していただき、意識を一層高めていただくことを切望しています。
 常に「今日も確認」を忘れずに!

胸を張って国産農産物の安全性をうたうために
JA全農

 「安全防除運動」は昭和46年より開始し、3つの安全「農産物・環境・農家の安全」の確保を目指して、JAグループでさまざまな取り組みを行ってきました。
 防除日誌の記帳と適正使用をすすめる「防除日誌記帳運動」は昭和60年から、さらに平成元年からは防除日誌のチェックと使用された農薬の残留分析を行うことで農産物の安全性を証明する「防除日誌パイロットJA」の取り組みを展開しました。その後は、「安全防除優良JA」などJAが自ら適正防除に努めるような動きにもつなげてきました。
 これらの取り組みを通じて、いまや当たり前のこととなっていますが、農薬を適正に使用すれば安全な農産物を生産できることが証明できたのです。また、農薬を適正に使用するためには防除日誌の記帳が大切であることから、記帳しやすい日誌の工夫など、記帳率を上げる取り組みも進めてきました。
 最近では、平成15年の農薬取締法の改正、さらに、平成18年には農薬の残留基準へのポジティブリスト制度への導入など農薬に関する法律が大きく変わり、これまで以上に農薬の使用について注意が必要になってきました。
 また、最近の農薬に関する事件や事故の影響で、農薬に対する世間の見方はさらに厳しくなっています。
 このような時期だからこそ、農業者が胸を張って国産農産物の安全性をうたえるように、農家のひとりひとりが安全防除を実行しなければなりません。
 そこで、JA全農では、次に挙げる事項を中心とした啓発活動を展開し、現場での安全防除の徹底を図っています。

◆適正使用は確認と記帳から

 安全な農産物生産の基本は、農薬の使用基準の遵守です。使用前のラベル確認と適正な使用がもっとも重要です。特に、農薬取締法上遵守しなければならない項目である4点、(1)適用作物、(2)使用量や濃度、(3)使用時期(収穫前使用日数)(4)総使用回数、は必ず確認し、守る必要があります。このうち、(4)の総使用回数は、有効成分ごとに守らなければならないものであり、同じ有効成分で商品名が異なる場合も多いので、混合剤等を使用する際には注意が必要です。
 農薬を適正に使用した証明として防除履歴の記帳は欠かせません。生産履歴の記帳は農業現場に定着してきましたが、適正な農薬使用の証明とするには項目に漏れがないように記帳する必要があります。使用した農薬について、(1)使用年月日、(2)場所、(3)農作物名、(4)農薬の名称、(5)使用量か希釈倍数の記帳に努めるよう法律で定められていますが、適正防除の証明には、さらに、播種・定植日、収穫日の記載も必要です。

◆環境への配慮もかかせない

 農薬を散布するとその圃場だけではなく、周辺環境にも影響を与えてしまうことがあります。農薬を使用する場合には、周辺環境への気配りを十分に行い、圃場以外に農薬を出さないようにしなければなりません。
 農薬の飛散を防ぐためには、風の強い日や上昇気流が起こりやすい日中の散布は避ける、風向きに気をつける、できるだけ作物の近くから散布するなどの配慮が必要です。さらに飛散が心配される場合には、飛散の少ないノズルの使用、防風ネットの設置といった対策も検討し、状況に応じてこれらを組み合わせた対策を行います。
 また、水田で農薬を使用する場合には、水田外への農薬の流出を防ぐために、散布後7日間の止め水や畦畔の整備、オーバーフローしないような注意も欠かせません。これらは、農薬の効果を安定して発揮させるためにも重要です。

◆使用する人にも安全に

 農薬の適正使用で農産物の安全に、散布するときの配慮で環境への安全に気を配るだけでなく、農薬を使用する農家自身の安全への配慮も重要です。散布者の安全のためには、カッパを着る、マスクをする、めがね、手袋をつける、などを実行することが大切です。
 また、最近、農薬に関連する事件・事故が多発しています。農薬は万が一盗まれて悪用されると事件の原因になることもあるため、鍵のかかる保管庫でしっかり管理する必要があります。
 農家のひとりひとりが安全防除の必要性を理解し、これらの事項を実行できるよう、全農では、ポスター、チラシなどの作成・配布を通じた啓発活動を行っています。今後も関係団体とも協力しながら、さまざまな取り組みを行っていきたいと考えています。

(2008.06.24)