老舗と協働して商品開発 黒澤賢治氏 全国JA−IT研究会副代表委員 |
昔は蚕糸、コンニャクという投機性の高い作物を作ってコメを買うという暮らしだったが、今は作目の根幹的入れ替えを迫られ、改革途上にある。
就農者の中核的人材は高齢者を含めて多様だ。これを受け入れられる仕組みがあれば産業は自ずから起きてくるだろう。
生協と連携し、旬のものを作っている。つまり地域特性を商品に移し、盛り込み、一番うまい時に食べてもらっている。
出荷者の最高齢者は96歳。農業ほど様々な人たちが様々な価値観で対応できる産業はない。
“レンタ・カウ”というシステムで急傾斜の農地を生き返らせている。繁殖農家の和牛を放牧すると、刈り取りの厄介な竹、篠竹、萱を見事に食べてくれてきれいな草地になる。林間放牧ではシイタケの良好な原木を作る取り組みをしている。
また地域づくりでは老舗との協働がある。地域には和菓子、味噌・醤油、酒などで当主が4、5代目となるような歴史のある産業が多い。そうしたところとのコラボレーションで新しい商品をかなり作っている。
原材料はほとんどが農畜産物だから伝統産業に目を向ける視点が今後の地域作りに果たす農業の魅力なのではないか。
食品産業は中国に進出して日本国内はほぼ空洞化している。JAの事業展開は業界の活性化に寄与できると思う。長い目で見てJAの可能性は大きい。
飼料暴騰に多様な手打つ 上村幸男氏 JA菊池地域組合長 |
JAは販売力を問われる。農畜産物の統一ブランドを「きくちのまんま」と銘打ち、多様な生産物のマーケティングを積極的に展開している。
しかし売れるものを作るというだけではいけない。やはり誠心誠意で作るという真心が重要だ。それがコンプライアンスの実践ともなるのではないか。
「農産物市場」という直売所を開設したが、参加資格はJA女性部員とした。家族の健康や子育てを考えながら毎日の食事を作る母親の思いを市場の運営に反映させるねらいが共感を得て売上げは伸びている。
肉は米国と香港に輸出しているが、香港へは青果も輸出したいと考えている。しかし国内販売を含め全体としてJAの手数料は安い。そうした中で、リスクをどう担うかが販売事業であると痛感している。
JAはいろいろやってきたが、しかし地域農業は次々に崩壊していく。もう一度、消費者について考え直し、理解を深める必要があると思う。
飼料の暴騰には1億円の緊急対策を実施した。組合員1万戸のうち畜産農家は450戸だが、耕種農家も協同組合活動の中で心をひとつにする必要があるとして、この対策を理解した。
今後も国の畜酪対策に加えて無利子・無担保・無保証の緊急融資を実施するなど、農家がやる気をなくさないようにして、動揺を防いでいきたい。
「加工」が値崩れの支えに 佐野 房氏 JA田子町常務 |
田子町のニンニク作りは1960年代に始まった。導入当初は畜産農家の作るものだけが大きく育った。そこで農協青年部を中心に土づくりを基本にした。
減反政策が始まると、農協は転作田でニンニクをはじめエダマメ、トマトなどを作ることを奨励。また県下で初めて生産部会制を取り入れ、リンゴや水稲などを含め13品目ほどの部会育成を進めた。
75年ごろ、婦人部の若妻グループはキュウリやトマトの栽培に取り組んだが、コメとリンゴに執着してきた中高年のおじさんたちは、それを冒険と見た。
しかし若妻たちは「私の作った作物は私の名前で出荷し、販売収入も自分のものにする」と主張、それを実現した。彼女たちのトマトは東京市場で超一級品とされ、高値がついた。
男の作物だから高く売れるわけではなく、農業は男女差のない職業だと、その時、私は女性部活動に自信を持った。
その後、中国産ニンニクの輸入で農家の採算割れとなり、ニンニク部会員も半減した。その時、価格暴落時の支えになったのは女性部のニンニク加工事業だった。93年の事業規模は1000万円だったが、今はJAに経営を移譲して2億円に伸びている。
最近は地域ぐるみで巻き返しを図り、田子町の行政、商工会、JAが連携して京阪神にも足を延ばすなどトップセールスを展開したりしている。
農家所得の向上に全力を 田村三千夫氏 JA三次アンテナショップ生産連絡協議会会長 |
平成13年、地産地消を柱にJAの主導によりアンテナショップ事業を始めた。会員制で入会金は5000円、会費は年2000円、会員1人当たり50万円を販売しようと平等を原則とした。会員数は当初400人目標だったが、昨年末に1000人を超えた。
三次市は人口6万人だが、県都の広島市は120万人で、周辺の人口が増え続けている。
そこでハンディはあるものの店舗を広島市に開いた。1階を野菜とし、2階をレストランとした。開設前に全国を回って勉強したが、よその真似ではなく、地域の実情に合ったショップにしようと考え、ちょっと変わったかたちで発足した。
自ら作り、加工し、販売するという農業の六次産業化を打ち出して野菜づくり、加工品づくりに精を出し、アンテナショップ事業の総販売額は昨年末で6億円近くにのぼった。
三次はコメどころだが、この総販売額はJAのコメ販売代金の30%に当たる。次の目標は1人当たり販売額100万円だ。会員1000人が目標を達成すれば10億円となる。
農家の後継者難は農業では暮らしていけないからだ。協同組合活動の力を発揮して農業所得向上に全力を挙げていきたい。そのためには女性の力が不可欠だ。三次では正組合員に占める女性の比率が高く39%以上となっているため女性理事をうんと増やした。
畜産農家へのカンパ募る 山本伸司氏 パルシステム生協連常務執行役員 |
パルシステムは、飼料の暴騰に苦しむ畜産生産者に対するカンパを呼びかけている。金額としては焼け石に水だと思うけれど、生産現場がいかに大変かを消費者に伝えたいとの思いで集めている。現場の実情はまだ知られていない。マスコミは破たんしてからでないと騒がない。協同組合としては予兆の段階で情報を出すことが大事だ。
日本の畜産が少数の大規模経営だけに集約されるとアメリカ型になって結局、日本から畜産がなくなる。国に対応を要求すべきだ。単に農業者の利害問題としてでなく、日本の食の危機としてとらえる必要がある。
また私たちは年間を通して「おコメを食べよう」という運動を続けており、さいわいにして販売量が増えている。
一方、JAは基本的にコメと補助金という枠組みの中で機能してきたので政府が何かしてくれるのではないかというぶら下がり感覚を引きずっている。
そこからの転換には女性のパワーが求められるのではないかと思う。生協の場合もリードしていくのは女性だ。
生協がだめになる過程には、やれ経常利益がどうのなどという組織を利益で見る男性の経営者的な考え方があった。だからスーパーに負けまいとした。組合員は組織の規模などには興味がない。安全でおいしいものに興味がある。女性の力に期待するところは大きい。
環境保全米作りを進める 本田 強氏 特定非営利法人環境保全米ネットワーク理事長 |
30%を超える減反をしながら年間77万tものコメを輸入(MA米)している。そんな状況を消費者と手を携えて、どう克服していくかが大きな課題だ。JAみやぎ登米でも減反率は30%を超えた。
そうした中でJAは03年から組織的に環境保全米作りに取り組んだ。環境保全米とは何か。農水省のいう特別栽培米に当たると考えてよい。
その年は厳しい冷害でイモチ病にも追い打ちをかけられ、県の作況指数は69となった。ところが慣行栽培の田と隣り合った環境保全米の田は見事に実って穂を垂れていた。これを目の当たりにして農家は〈この稲作は本物だ〉と思った。
この実績が翌年の作付に反映し、04年には一気に全水田面積の約半分に拡大。また集荷量の6割が環境保全米となった。
農薬使用は半減し、慣行では18成分を使っていたが、これを9成分に減らした。化学肥料は窒素肥料が7kgのところを3.5kg以上が有機肥料となった。急速に農法転換が進んだ。
品質のほうも全体として一等米比率がアップした。
こうして順風満帆といおうか3年目には全面積の7割が環境保全米となった。この成果が評価され、05年には第35回日本農業賞大賞を受賞した。
成果が挙がったのは、初年度に冷害に見舞われたという事態も大きく影響したといえる。
伝統的な食生活を見直す 林 雅人氏 JA秋田県厚生連平鹿総合病院総長 |
高齢者と子どもの健康管理についていくつか指摘したい。
肥満はだめとされているが、それは若い人のことだ。高齢になると、やせた人が早く死亡する。65歳以上では太っている人が長生きする。これは統計的にはっきりしている。
コレステロールが高いと短命だといわれるが、これも高い人のほうが長生きしている。心筋梗塞・心臓病・動脈硬化がはっきりしている人は下げないといけないが、そうでない人に「下げなさい」と指導すると、だいたいが早く死んでしまう。
一方、日本はコレステロールの高い子どもが多い。ご飯や魚を食べないでハンバーガーや肉を食べているからだ。特に都市部よりも農村に肥満児が多い。肥満児は40歳以上になると心筋梗塞で倒れる恐れがあるから下げる必要がある。母親たちにそのことを指導すると、子どもだけでなく親のコレステロールも下がるという例が多い。
肉よりも魚がよい。伝統的な食生活を考えないといけない。手作りの料理を食べない子どもたちの将来は悲観的だ。
祖父母が肉を食べたいのを我慢して孫に食べさせているといった風景は双方を短命にする図だ。老人は美食すべきだ。
全国一の長寿県である長野県では高齢者が山間で高原野菜などを作っているが、年をとってからも仕事ができるのはよいことだと思う。
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