◆ベトナムとの肥料原料契約や効率利用の取り組みも
梶井 肥料事業では、しばらく前にリン鉱石の入手先として新たにベトナムと交渉し契約したというニュースを拝見して、これはまたずいぶん大変な事業展開をされているんだなと思いました。
柳澤 そうです。ただそういった事業展開についてはみなさんにまだあまりご理解いただいていないかもしれません。ベトナムとの契約では専用船をチャーターしました。
梶井 それから効率的に肥料を使っていくために土壌診断も行ってリンやカリなどが過剰な農地を明確にさせて、そこについては投入する肥料を変えるような指導もしていく取り組みも進めていくそうですね。
柳澤 窒素、リン酸、カリはまさに植物に必須の肥料成分ですね。ところがこれは田んぼによっても何が足りないかが違う、あるいは過剰なものもありますから、たとえばリン酸が余っていればそこにはもう入れなくていいではないかということになりますね。肥料情勢が厳しいなかこういう取り組みも必要だということで、今どんどんJA段階で進めています。
そのうえで全農としては、たとえばリン酸を入れないBB肥料を作ろうというような資源を効率的に使うことも重要になってきているわけです。
梶井 ほかにも、たとえば尿素の価格交渉についても相手の大幅な値上げ要求に対して、かなりがんばって交渉をしていらっしゃるなと思いますが、こういった実態はJAを通じてもっと農家のみなさんにも知らせていく必要があるのではないかと思いますね。
柳澤 そうですね。飼料穀物についても、米国のニューオリンズの穀物積み出し港に現地子会社を持っています。ここから積み出しをして日本に入れているんですが、穀物の国際価格もどんどん上がり海上運賃も上昇しています。
これはブラジルと米国のバイオエタノール生産の影響もあり、米国のとうもろこしは生産量の4分の1近くをバイオエタノールに仕向けていて、それで飼料価格が高騰している。
今は、こういう海外要因が日本にも影響を与えているわけです。それからまだよく分かっていないといわれますが、シカゴの先物取引市場にはどうやら米国のサブプライムローン問題の関係でだぶついた資金や、オイルマネーまでが食料のほうにも回ってきているんじゃないかということですね。投資ファンドです。食料の取引きをこういう投機のなかに入れるということは大変な状況だと思いますね。そこはどこかで規制をしてもらわなければと考えるわけです。
梶井 国連食糧サミットのときにこの問題がもっと議論されるのかと思いましたが、あまりされませんでした。
柳澤 これは重要な施策になっていくと思います。
◆系統経済事業を次世代につなぐ「新生プラン」
梶井 ところで「新生プラン」の進捗状況はいかがでしょうか。
柳澤 私が会長になってから全農改革に取り組んでいますが、組合員のみなさん方からも理解とお力添えをいただき、系統経済事業を将来に残していくために、役職員は一生懸命がんばっています。道のりは遠いかもしれませんが、系統経済事業は絶対に倒れないぞという事業体制を作りあげるということです。そこに役職員が燃えて対応していく。それが新生プランの骨格なんでして、大きな改革をさせていただきながら少なくとも手の届くところまでもっていきたいと考えているわけです。また国の指導、助言もいただき日本の系統経済事業として生き残っていく、それが重要なんですね。
梶井 新生プランについては一部の項目をのぞいては今年度が目標達成の年度になっているわけですか。
柳澤 当初の目標は来年度でしたが少しでも早くという項目もあり、また国の考えもあるため、最大限努力して認めていただくという取り組みをするしかないと思っています。
梶井 新生プランにしたがって職員数もかなり減らされていますね。
柳澤 やはり経営体ですから、ある程度のスリム化を図りながら経営の健全化を図っていくということも重要だと思います。19年度決算ですが、おかげさまで事業分量は5兆3200億円となりました。当期利益についても約36億円を確保することができました。総代会で最終的な承認をいただくわけですが、計画では1%配当をしたいと思っていましたが、厳しい農家経済、地域農業の環境でもあるわけですから、最大限努力して配当もしたいと考えております。
梶井 資材価格の高騰などでコスト低下の取り組みへの期待も高まっていますが、ここはどう対応されてきましたか。
柳澤 その部分については、われわれは取り扱い手数料をできるだけ削減する努力をしてきました。通常からすると多額の手数料を削減しその分を組合員、JAのもとに、日常業務、市場対策費などとして還元しています。
それから担い手対策です。新しい担い手に約130人の担い手専任担当者を設置し、出向く担い手対策ということで、TACという呼び名を入れながら、直接、JAと一緒に経営体にまで入って要望を聞くという取り組みもしています。
梶井 TAC、Team for agricultural coordinaterですね。
◆消費者への懸け橋機能を発揮して自給率向上を図る運動こそ
柳澤 今、日本の農業は大きく変わろうとしています。私はわれわれが半世紀叫んできたものがやっとここで具体的なものとして見えつつあるかなという気がします。経済力にものを言わせて世界からどんどん食料を買えばいいという時代はもう終わった。
梶井 むしろそれは非難されるようになりますよ。
柳澤 そうです。何をやっているの? といわれかねないということですね。私は今の食料自給率では10人のうち6人食べるものがないということだと言っています。食べる米がなくなってタイや中国から輸入したのはつい最近ですよね。あのときはぎりぎりだった。今は米の備蓄は100万トンありますが、当時は蓄えがなかった食料事情だったのではないでしょうか。
梶井 93年の大冷害で90万トンの緊急輸入をやったときですね。ウルグアイラウンド受入れ、米のミニマムアクセスを決めた年です。基本的に米が過剰になったというのはこの20年なんですからね。その前は戦前も、そして戦後は60年代の終わりまでずっと不足できたわけです。
柳澤 だから今こそ国内で自給できる体制、それを消費者のみなさん方も一緒になって盛り上げてもらうと。そうすると高齢者の問題も解決していくんですよ。
高齢者は今まで自分で築いてきた基盤、技術、体力、それから地域をまとめる力、これをずいぶんお持ちです。それをフルに活用するという地域づくり、そこが大事だと私は思う、そうなると寝たきりにはならないんですよ。農家の高齢者はみなさん達者です。
ひとつの作物を我が子のように愛情を注いで育て上げる。そして野菜であれ米であれすべてのものに命があるんだから、その命をいただいて私たちは生きているんだという道徳的なものまで、農家の家庭では子どもたちに教えてきたんですね。今、その家庭がだんだんとおかしくなっている。だから、私ども今の農業への追い風を受けて、自給率を上げていけば当然、そういう道徳的な問題にまで行くんですよ。
梶井 そこは大事なところです。
柳澤 それが、後期高齢者、なんて言われてしまうから一体どうしてくれるということになってしまう。この問題では国の考えはいろいろあるのでしょうが、ちまたに行けばそのように分けることにものすごい抵抗がある。
梶井 そういう意味でも、だからこそ米に特化した地域農業ではなく、条件に合わせて野菜なども作るとすれば、お年寄りの知恵もそこで働く。働く場もできるわけですね。
柳澤 子どもたちには学校田をどんどん作って、そこで体験させる。最近、都会の子どもたちは田んぼに入ることが好きになってきた。そういったことを通じ土と戯れる、それから緑を愛する、こういう日本の感性を蓄えていくということが地域づくりの重要な取り組みになってくるのではないでしょうか。
子どものときに、土そのものに触れるということ、そこに高齢者のみなさん方が指導者の立場でかかわり地域を一緒になってつくっていく、その連携がまさに重要でしょう。
◆農業を軸にした世直しと地域づくりにJAグループの力発揮
柳澤 言ってみれば、農業を中心にした世直しだと思います。そして消費者のみなさん方もぜひそれは共有していただきたい。
同時に、畜産物は今は飼料が高くて生産コストがあわないですね。そこで先日は酪農、畜産で政策価格の期中改定をしていただきました。ただ、価格転嫁できる体制が必要ではないでしょうか。これができないと生産そのものがマイナスになってどんどんやめていってしまう。ガソリンの価格は原油が上がれば店頭価格が上がっており、これは当たり前だと思っているわけですから、農業も同じです。どうしても生産費があわないのであれば、消費者のみなさん方から少しづつでも一緒になって対応していただく。こういう体制がまさに重要だと思います。
全農も「生産者と消費者を結ぶ懸け橋機能」を経営理念に入れているわけですから、消費者への懸け橋機能を高めながら、生産者の経営も大丈夫だ、消費者の皆さん方もおいしく安全・安心な食料が手に入って大丈夫だと、こういうようにお互いが共有しあうかたちで日本の食料問題を考えていくということが大事ではないかと考えています。
日本もいよいよそういう時代になってきた。そして全農は消費者の皆さんとも常に連携を取りたいと思っています。
梶井 全農はその中心ですからね。ぜひがんばっていただきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。
インタビューを終えて |
※柳澤氏の「柳」の字は常用漢字を使用しております。