食料自給率の向上と世界の食糧危機に備えて
◆想定外だったギョーザ事件 合理的な価格なら低価格でも
赤松光 生活協同組合連合会 コープネット事業連合理事長 |
――昨年から今年にかけて、長年の願いであった生協法が改正されると同時に、牛肉コロッケ事件が起き、そして中国産冷凍ギョーザ事件と大変な1年でしたが、いま振り返ってどのような感想をお持ちですか。
「コロッケもギョーザも日本生協連が開発した全国商品ですが、どちらもコープネットが半分くらいは売っていましたから影響は大きかったですね。とくにギョーザは人の被害が出ましたから大変でした」
――冷凍ギョーザ事件では、「食品テロ」などにどう対応するのかという課題が浮上しました。
「いままで生協は食品衛生ということでは、他の企業よりも厳しく取り組んできました。しかし、意図的な食品テロなどを想定した食品管理には思い至っていなかったわけです」
――日本では食品テロということは想定しにくいですね。
「まさかそんなことは起こらないだろうと思って、食品衛生の範囲で厳しく追及してきたわけです。しかし、こういう事件は世界中で起きていますし、日本でもかつてグリコ事件とかオロナミン事件がありましたから、こういう問題への感度をもっと高めなければならないと思います」
――日本生協連第三者検証委員会ではフードディフェンス(食品防御)ということが強調されていました。
「ディフェンスを強化してもリスクがゼロになるわけではありません。今回の事件でもう一つ問題だったのは、事件が起こった後の危機管理が生協は甘かったということです。第三者検証委員会の報告を受けて、コープネット内でも品質管理や危機管理を見直していますし、全国の生協もアンテナを張ってなんらかの予兆があれば管内はもちろん全国の予報網をつくるなど、日本生協連を中心に対応するようにしています」
――低価格を追求することでリスクが大きくなっているのではという意見があります。
「低価格追求だからこうなったというのは、ちょっと的はずれだと思います。安いものというといわゆる“バッタもの”とかというイメージが一般にはあるのでしょうが、生協はそういうものは扱っていません。安全性を確保するために、製造工程から最終商品まで品質管理や点検などの管理コストを他の小売業者よりかけています」
――ギョーザはずいぶん低コストだったのでは…
「原価のなかで人件費の占める割合が一番大きいです。中国の場合は人件費が日本の10分の1くらいですから安いですね。だから中国では、機械でするところを人がやっているケースがいろいろあります。それでコストが安いわけです。
ですから、合理的な価格が出ていれば問題はないと思いますが、原材料状況をキチンと把握し、あまりにも安かったら疑ってみる必要はあると思います。そこで、改めて原価構成だとか、工場の稼働率とか、原料がどこからどういう値段で入っているかというところまで踏み込んで管理をすることにしています」
◆エリア内地産地消で産直品調達率をアップ
――このギョーザ事件を一つのきっかけにして、日本の食料自給率問題や国内農業見直しなどの議論が盛んになりました。また、コープネットの品質管理強化と危機管理プロジェクトのまとめの「おわりに」で、「食料自給率の向上と日本の農業再生に向けた取り組みを、組合員、生産者とともに具体化します」と書かれていますね。
「食料・農業政策については、一連の事件が起きる前から、きちんと取り組もうということで、学者や専門家を招いてシリーズで学習会を行い答申を出しています。それを具体化しようとした矢先にコロッケ事件、ギョーザ事件が起き、具体化が遅れていたのです。
その視点は日本の食料自給率をどのようにして上げていくかということと、世界の食料危機に対してどう備えるかということです。そのためには、できるだけ国内で調達できるものは国内で調達していく。
具体的には、コープネットエリアの8都県の全農県本部と協同組合間提携をしていこうということで、JA全農長野、JA全農いばらきに続き、この8月26日にはJA全農ちばと提携しました(別掲記事参照)。そのほかの県でも検討を始めています。
こうした取り組みによって、コープネットエリア内からの青果物産直品の調達率39%を50%に上げようとしています。また、主要産直産地とはいままで単品で契約しきちんと点検をしながらやってきましたが、各産地にはほかにも多くの商品がありますし、組合員との交流を深めることも含めて総合的な取り組みを深めていきたいと考えています」
――コープネットエリア内でということですね。
「8都県を一つのエリアとした“地産地消”をめざします。しかし、野菜はエリア内でかなり調達ができますが、果物はどうしても全国ということになりますね。どちらにしても、全国の産地リレーも必要ですので組み合わせていきます」
――有機栽培にも力を入れているのですか。
「有機栽培の比率は3.2%と世間の水準より高いのですが目標は4%です。目標に向かってきちんと取り組んでいくことにしています。ただし、コープネットでは“有機=安全”とはいっていません。ポジティブリスト制度が導入されたりするなかでは、慣行栽培も有機栽培も品質で差異はないと私たちは以前から言ってきました。有機栽培の意味は、土づくりと環境ということだと思います」
◆飼料用米の取り組みで豚を年間6000頭供給
JAいわて花巻で飼料用米を田植え |
――お米については…。
「お米を主食として食べるのは限界ではないかと思います。パンから切り替わって多少は伸びるでしょうが、用途を拡大しない限り1000万トンに戻すのはムリだと思います。本命は何かといえば、米粉とか飼料用米などでの用途拡大だと思います。
私たちは3か年計画で、JAいわて花巻などと協力して、休耕田の有効活用を目的に飼料用米を栽培し、その米を給餌した豚を年間6000頭供給する取り組みを今年から始めました。自給率への影響は数%ですが、自給率向上への入り口だと考えています。
ただ、これには課題があります。それはコストが高くなることです。100g10円くらいは価格を高くする予定ですが、味が10円分違うわけではありませんから、組合員が理解して買い続けてくれるかということがあります。いまは、飼料用米は国や行政の補助金がなければ成立たない構造です。1、2年はいまの補助金でつないだとしても、その後もつないでいかないと持続可能な農業ではなくなってしまいます。反収を上げるとか、豚の生産効率をもうすこしよくするとかということもあります」
――そのほかでは…。
「より品質の確かな農産物を組合員に提供するために“生協版GAP”(生協産直の青果物品質保証システム)を広めていきたいと考えています。当面の目標は100か所です」
◆事業連合の組織統合は足元をしっかり固めてから
――ユーコープ事業連合との組織統合、そして4生協の合併検討がギョーザ事件で凍結されました。“解凍”されるのはいつでしょうか。
「いまは、その問題にエネルギーやコストをかけられないということで凍結しました。再検討はいつでも始めることはできますが、業績自体が影響を受けて伸び悩んでいますから、まずは足元を固めてからということになるのではないでしょうか」
――方向性は変わっていないと考えていいのですね。
「方向性は変わっていませんが、どの段階で検討するかは、足元を固めてからだと思いますね」
◆同じ協同組合として忌憚なく話合い自給率アップをめざす
――最後に農業者やJAグループへのメッセージをお願いします。
「私たちは、田んぼの生き物調査とか産地交流を深め、農業や農産物を作っている人たちを知ることから始めなければいけないと考え、現場ではいろいろな活動をしています。
また、ユニセフと連携して牛乳を飲んでモザンビークの子どもたちを支援する“ハッピーミルクプロジェクト”という取り組みを行っています。この取り組みを通じて、世界の食料事情をより理解してもらいたいと思っています。(記事参照)
こうした産地交流も社会貢献活動や国際活動、そしてカタログづくりも、いずれも食を中心にした情報をきちんと提供し、食を中心に展開していきたいと考えています。
生産者の方は自分の農業に誇りを持っていると思いますし、その生産者をもっとも組織しているのがJAですから、同じ協同組合として忌憚なく話をし、自給率をアップできればいいなと思います」
――ありがとうございました。