◆各作物に発生するダニと耕種的防除
カンザワハダニ(イチゴ) |
被害が進展すると、葉は褐変し枯れてくる |
植物に寄生するダニはいくつか種類がありますが、野菜栽培ではハダニ科のナミハダニとカンザワハダニが重要害虫です。いずれのダニとも国内に広く分布し、ウリ類、ナス、イチゴなど寄生作物も広範囲です。どの作物においても、梅雨明け後高温乾燥が続く年に多発しますが、施設栽培でのメロン、ナス、イチゴなどでは年中発生するので、注意しなければなりません。
防除においては、薬剤だけでなく、耕種的な防除も含めて対応する必要があります。育苗ハウス内の防除をする、除草、下葉つみ、整枝、剪定で被害を除去する、下葉かき等の残渣は残さない、などの対策でダニを増やさないようにします。なお、薬剤散布の場合には、密度が増加してからでは困難なため、発生の初期に徹底して葉裏まで防除することが重要です。
果樹場面では、リンゴではナミハダニとリンゴハダニ、カンキツではミカンハダニが重要な害虫です。ナミハダニは粗皮下や雑草で越冬するので、粗皮削りや果樹園周辺の雑草防除を行いますが、樹上で越冬するナミハダニに対しては、徒長枝の剪定が効果があります。休眠期の薬剤防除においてはマシン油散布が越冬源密度を下げるために有効ですが、生育状況によっては薬害の危険性があるので、現地の指導に従ってください。
ミカンハダニは夏と秋に大きな発生のピークがあり、暖冬で雨の少ない年は発生が早く、また、梅雨期に雨が少なく夏場が高温の年に多発する傾向があります。冬季防除は必ず実施し、6〜7月と9〜11月を中心に薬剤防除を行いますが、低密度のときに葉裏まで十分に薬剤散布します。なお、合成ピレスロイド剤は、ミカンハダニに対して薬剤抵抗性が発達している場合が多く、また、ハダニの天敵に強い影響を与え、リサージェンスを引き起こす可能性が高いので注意しましょう。
◆新しいダニ剤をうまく使って
ミカンハダニ(カンキツ) |
いずれの作物においても、ハダニ類は抵抗性の発達を回避するためには、同じ系統の薬剤は年1回の使用とし、系統の異なる薬剤のローテーション防除をすることが大切であるため、新規剤の登場は非常に心強いものです。
せっかく登場した新しい薬剤を長く使用するためにも、年一回の使用を徹底し、各剤の特徴(効果、残効性、スペクトラム等)を生かして上手に使う必要があります。また、薬剤だけに頼らない防除を実践するためには、各種天敵への影響の有無も剤を選ぶ際のポイントとなります。
ダニサラバフロアブルは昨年秋に登録された新しい剤です。既存のダニ剤と異なる構造をもち、既存剤に対して感受性の低下したハダニ類にも有効です。ハダニ類のすべての生育ステージに対して活性がありますが、特に幼虫に対して優れた効果を示します。また、各種天敵や有用昆虫に影響がないことからIPMの実践にも適しており、ハダニ防除と受粉媒介昆虫や天敵の使用をほぼ同時に行うことが可能です。茶を除いた果樹や野菜では収穫前日まで使用可能で、残効性が長いこともこの剤の特徴です。なお、ナミハダニでは死亡しているのに生存しているように見えたり、効果の発現に若干時間がかかる場合がありますので、使用の際はよく観察して効果を確認してください。
ダニゲッターフロアブルも昨年末に登録され、今年から使用されているダニ剤です。本剤もすべての生育ステージに活性があります。特に卵に対して高い活性がありますが、成虫ではその活性がやや低くなり、雌成虫の死亡までに時間がかかることもあります。しかし、残効性が長いので、ハダニ類の密度が高くなり始める時の散布が効果的です。なお、カンキツのミカンサビダニに対しても効果があります。
さらに新規剤として、スターマイトフロアブルの登録、上市が今後期待されています。
これらの化学農薬のほかにも、ダニの気門を封鎖することにより物理的に防除効果を示す剤もあります。
マシン油は以前から使用されていますが、その他にもでんぷんや食品添加物を利用した剤が販売されています。これらの剤は、昆虫の気門をふさぐ効果がマシン油ほど強くなく、薬液が直接害虫にかからないと効果が現れないので、1週間間隔で2回,3回連続散布し、散布ムラがないようにします。代表的な剤としては、水あめを有効成分としたエコピタ液剤、アカリタッチ乳剤、オレート液剤、などがあります。登録内容、注意事項を良く見て使用してください。
ハダニ類における抵抗性の発達は早く、一部の薬剤をのぞいて、使用から3〜4年という短い期間で薬剤の効果がみられなくなる、といった状況が続いています。
抵抗性の発達をおくらせるためには、剤のローテーション防除はもちろんのこと、低密度のうちに防除をおこなうことで農薬の使用回数を減らすこと、さらに、化学農薬だけでなくさまざまな耕種的防除も組み合わせて防除を実行していきましょう。
◆日本のハダニは約70種類?基本的な生態と習性を見る
我々が住んでいるこの地球上にハダニの先祖が姿を現したのは、約3億年以上も昔のことと言われている。 ハダニは、天敵や雨にさらされる厳しい自然環境の中で子孫を絶やすことなく来たが、その生き残り戦略は多くの魚たちと似た選択があった。すなわち、「数多くの子孫(卵)を産み、その中でごく僅かでも生き残ってくれれば」の戦略だ。
農水省消費・安全局植物防疫課(防除班)に、ハダニの基本的な生態と習性などを聞いた。
ハダニの居住空間は、名前が象徴しているように植物の葉の上にある。エサは「生きた植物の葉」であり、特にイキの良いピチピチした葉を好む。食事はするどい口針をもって、それを葉に刺し込み葉の内容物(汁)を吸って行っている。
ハダニとひとくちに言ってもその種類は多く、我が国には概ね70種類がいると言われているが、生産現場で問題となっているのはせいぜい数種類だと言う。その中で、野菜や花きに被害を与える代表格は、ナミハダニとカンザワハダニの2種類。
ナミハダニもカンザワハダニも1匹のメスが産む卵の数は100個程度だが、1度にまとめて産むことはなく1日に数個〜10個ほどずつ産んでいく。
普通、ハダニは卵からかえった後、3回脱皮して親ダニとなる。温度などの好適条件に恵まれると、卵から親になるまでにわずか10日前後とスピードを加速させる。
メスは、親になると同時に側で待ちかまえていたオスと交尾を行い、直ぐに卵を産みはじめる。「交尾をしないメスのハダニが産んだ卵はオスになり、交尾をしたメスの卵はほとんどがメスになる」と言う。不思議な現象だ。生態と習性を知り、防除に活かしたい。
※写真提供は静岡県植防協