本格的な直接所得補償の導入で農政の大転換を
質問1
地元をつぶさに見てくると戦後農政の歩みを実感します。かつては厳しかったがそれでもみんな生き生きとして農業を営んでいたと思う。それが高度経済成長時代になりサラリーマンの所得が上がる速度に対して第一次産業の収入が追いつけなかったことが今日をもたらした大きな原因だと思っています。
日本の農政は北海道と本州とに一応分かれていて、北海道は大規模経営でそれなりに展開してきたと思いますが、ただし、本州は7割が中山間地域、平場農業と中山間地域農業が混在している。しかし、政府が進めてきた政策は北海道農政と平場農政しか進めてこなくて、ここにきてやっと中山間地域にも目を向けていますが、時すでに遅し、という状況じゃないか。私は地域集落が崩壊してしまう前に、早急にしっかりとした中山間地域政策を打ち出すべきと思います。
中山間地域農業はどうしても面積が少ない。だから、複合経営でやっていかなくてはならないと思いますが、それには農業と林業、農業と漁業、あるいはそこに畜産業を入れて農家の所得を確保するようなシステムをつくらなければいけない。物価上昇に見合う農林水産物価格が追いついていませんから、そこを底上げするような施策が食料自給率を確保する意味でも今、喫緊の課題だと思います」
質問2、3
「社民党は直接支払い制度を導入しなければ日本の農業は崩壊してしまうと訴えています。後世に農業をどう引き継いでいくのかが今、本当に大きな課題です。2005年で販売農家の収入は120万円程度と言われていますからこれで農業をやれといってもできない。どう補償していくのかという観点です。そのために原則として直接所得補償をやっていく。
それから農業の衰退を招いたのは4割にも及ぶ減反政策が根底にあると私は思っています。だから強制的な減反政策はやめるべきだと社会党時代からもずっと言ってきています。
それでは米余りがどんどん進行するのではないかということですが、基本は所得補償によって農家がいろいろなかたちで経営できるようなシステムをつくり、米に頼らなくても生活できるシステムを作りあげようということです。多種多様な作物をつくって農家として生活できるシステムをつくり上げれば食料自給率向上にもつながっていくんだというのが私たちの考え方です」
――現行施策の直接支払い部分とどう違うのでしょうか。
「農家への直接支払いという点では、今は中山間地域直接支払い制度だけだと私は思います。
品目横断対策も直接支払いだというけれども、条件を付けている。そこはわれわれは条件をつけないで全農家に対しての直接支払いということです」
――その直接支払いとは何を基準に支払うわけですか。
「制度を組み立てていくには大変な議論をしなければいけないと思いますが、ベースは農地面積で、米を作った場合はいくら、この作物を作った場合はいくら、というように決める。そうすると農家はそれによって自分の農地と兼ね合わせてどういう経営をすればいいのかと独自の考え方が芽生えてくると私たちは考えています。そして、作物によって直接支払いの条件に差をつければ米以外の作物で農地を有効利用していく流れが出てくるんじゃないかと。
もちろん平場農業の人たちは最初は米を100%つくるかもしれません。しかし、米の場合はいくらと水準を決めますから、米の値段が下がったときには、別の作物のほうがいいかなという判断が働いてくるのではないか。これは減反政策ではなく長い目で見ればいろいろな作物をつくるようになって食料自給率の向上につながっていく。中山間地域の人たちは、たとえば地域で集団的に菜種を栽培するなど、いろいろなかたちが出てくることも期待できると思います」
――価格政策ではなく面積基準の直接支払いにする理由は?
「市場競争に委ねていくなかで価格で補償していくというのは危険がともなうと思っています。政府がこれだけ差額を補てんするんだから安く買い叩け、というインセンティブが働く危険性がある。市場競争一辺倒ではなく食管制度に戻せという気持ちもありますが、市場競争のまま直接支払いをやるには、価格政策では市場で低価格で取引されてしまい政府の補てん支出がすごく多くなるのではないか」
――一方で米についての新たな最低補償価格制度を創設したいと主張していますが。
「それは直接支払い制度が創設されないなかでは、当面は緊急的な最低補償は必要だということです。直接支払い制度が導入されれば不要になる。これは農業政策の大転換だと考えているわけです」
――作物別の支払い額の基準は何でしょうか。
「生産費です。生産費のなかに労賃も含まれて、生活水準を向上させるためのプラスアルファというものが自ずと出てくると思います。ただし、米であまり水準を上げてしまうと他の作物にシフトしていかないという問題もあるので、そこはこれからの大きな議論になるところだと思います。
面積に対して支払うということは農地を荒らさないで作ればそれだけ入ってくるということですから、耕作放棄地の解消にもつながると考えていますし、根本にあるのはこの政策を打ち立てたら、50年は変えないというぐらいのものをやらなければ次の世代に農業をやれという声を発せられないということです。猫の目農政ではだめ。品目横断対策だって、いつどうなるか分からないぞ、という議論が農家にあるようでは後継者は育たない。30年40年と一環して続けるという政策、それを直接支払いでやろうということです」
「民主党が先の国会に提出された法案は減反政策は継続するとしていますから、そこが根本的に違うと考えています。また直接支払いの方法も、生産費を下回った場合の補償になっていますから、市場流通のなかで政府がここまで補償するというのであれば安く買い叩いてもいいんじゃないかという流れに結びつく要素があるのではないかという疑問点は持っています。ではなぜ、賛成したかといえば、直接支払いを日本に導入するということについては、目をつぶる部分があってもいい。今後改善していく課題として位置づけ、とにかく直接支払いを導入するという一点で一緒に行動をとったということです」
質問4
「担い手がいなくなったから株式会社にまかせていけばいいという要望はずっと財界を中心に強かった。逆にいうと財界が儲けのために農業参入していくという道をこの間、ずっと作ってきたんだと思います。
しかし、中山間地域農業に企業が参入していきますか。ここをみんな見誤っているのではないか。中山間地域で、だれも行かないようなところで耕作をして地域社会を守る、自然環境を守る、地域文化を守ってきたというのが日本農業のスタイルじゃないですか。これを後世に伝えていくことが今ほど大切な時期はない。これが壊れてしまったら自然環境についても将来に禍根を残すことになる。そういう観点から農地政策を議論していかなければならないし耕作者主義は守っていきたい」
質問5
「日本は食料の純輸入国という位置付けでWTO交渉に臨むといっていますが、それは工業製品は外国に輸出していくということだから、国内農業はつぶれるのは目に見えているという立場から、絶対に関税阻止を譲ってはならないという主張してきたわけです。
しかし、EUも米国も国内農業振興を図る政策をとっているわけです。なぜ日本がそれをできないのか。それで対等の立場で議論し合うということに対して私はおかしいと思っている。対等の立場というならもっともっと農業へのお金を出してもいいではないですか。
そういう財政出動をしたうえで食料自給率を高める体制を整え国際交渉に基づいて、それではここは体制整備できたからあとは入ってきていいよ、というぐらいのことを日本政府はやらない限り、WTO交渉では譲歩してはならないと思います。つぶれるだけですから。つぶれたあとに直接支払いをやっても再興はならないのではないか。今の品目横断対策でそれをやっていきますということは許されないと思っています」