◆生協の生計費調査に注目する
田代洋一 大妻女子大学教授 |
日本生協連は1957年から生協組合員の「全国生計費調査」を行っている。07年で60単協の1538名に対する調査だ。総務省の家計調査は全国2人以上世帯については約8000世帯を対象にしている。調査の規模は5分の1程度だが、生協組合員という特定のグループについて民間が運動として取り組んでいる貴重な調査データである。調査に協力するのは意識の高い生活者と推測されるが、そこに食料消費の最前線をみたい。
政府は2002年初からごく最近までを「戦後最長の景気拡張期」と豪語してきたが、「景気拡張」はあくまで企業のそれに過ぎず、国民は消費不況にあえいできた。そこで01年と07年の日本生協連調査(以下「生協調査」)と総務省調査(以下「家計調査」)のデータを比較しながら、企業好況・消費不況期の消費動向を振り返る。なお平均消費性向、エンゲル係数等は両調査でかなり差があり、内部分析には適さないので省略する。一つだけ指摘すれば生協調査が私的保険まで非消費支出に含めるのは少なくとも比較上妥当でない。
生協調査の世帯員は07年で3.6人に対して家計調査の勤労者の2人以上世帯の世帯員3.45人と若干異なるので、世帯員1人当たりでみていく。また消費者物価指数は01年〜02年にかけて1ポイント弱下がったが、その後は元にもどっているので名目でみていく。
◆収入は減った
世帯員1人当たりの収入(表1)は、生協調査の方が家計調査より16%前後高かった。生協世帯の方が一般世帯より高収入と言えるかも知れない。07年について世帯主年齢階層別にみると(表2)、高年齢ほど差が開いている(生協調査の20歳代はサンプルが40ほどと少ないので注意を要する)。
そして01〜07年に収入は生協調査で4%、家計調査で2.7%減った。
◆生協世帯の食料費は横ばい
世帯員1人当たり食料費の動向をみたのが表3。家計調査の方は2.7%の減少だが、生協調査では1%減にとどまった。物価を考慮すればほほ横ばいで、収入減に対して健闘したといえる。
しかし両調査を比較すると、生協調査の方が02年で16%、07年でも11%低い。この原因は不明だが、費目ごとにみると、生協では調理食品が36%、一般外食(学校給食を除く)が24%、飲料・酒類が17%ほど低くなっている。逆に穀類は26%、野菜等は12%高だ。その限りでは一般世帯が中食・外食で多く、生協世帯はより内食志向といえよう。
ただしこの間の調理食品や一般外食の増加率は生協世帯の方が高い。
なお生協調査の費目別の場合は「記入世帯のみの平均」である点に注意を要する(単純合計しても全世帯平均の食料費にはならない)。例えば1戸あたり学校給食費は07年の家計調査は1519円だが、生協調査では6993円と極端な差が出る。一般世帯に対して学童をもつ世帯の給食費負担は大きいと言える。
◆年齢階層とともに増える食料費
食料費は、家計調査でも生協調査でも年齢階層があがるほど食料費も増える傾向にある(表4)。家計調査で20代と60代を比較すれば後者が1.6倍、70代以上では実に1.9倍と倍近い差がある。生協調査でも20代に対して60代以上は倍の差だ。食料費の年齢階層差は収入の差よりはるかに大きい。
◆減った魚介・果物・牛乳乳製品、野菜・穀物、強まる外食志向
01〜07年の支出額の増減をみたのがグラフ1である。生協調査でこの間に支出額の減が大きかったのが魚介類、果物、牛乳・乳製品、次いで穀類、酒・飲料であり、逆に増加したのが一般外食、調理食品、ついで肉類や菓子である。 家計調査と比較すると、牛乳・乳製品は同程度の減少だが、魚介類、果物、穀類の減少は家計調査の方が大きい。野菜は家計調査が6%減に対して生協調査は1%減だ。これらの品目で生協世帯の踏みとどまり方が大きいのが注目される。逆に調理食品と一般外食の増は生協調査の方が大きい。先に生協の方が内食志向だとしたが、この間の食の外部化は生協の方が強いといえる。
なお米・麦について生協調査をみると、04年に増えて以降は減り続けてきたが、07年にはほぼ下げ止まった。08年がどうなるかは6月までの数字では何ともいえず、どちらかといえば厳しいかも知れない。
◆品目別の金額・数量・価格(家計調査)
家計調査報告は金額を数量と価格に分解して見ることができる。その01年と07年比較をしたのが表5、傾向をまとめたのが表6である。A類は数量・価格ともに減少・下落して購入金額を大きく落とした品目(リンゴを除く)。B類は数量は減ったが価格は上昇したもので、うち牛肉は金額を微増させたが、その他は金額をかなり落としている(卵は微減)。C類は量・価格ともに上昇したもので鶏肉と焼酎のみである。D類は量は増加、価格は低下したもので、金額が伸びたパン(食パン以外)と豚肉、金額が落ちた麺類と葉茎類に分かれる。それぞれかなりの増減である。パン(食パン以外)と豚肉については品目自体の価格弾力性というよりも、競合品目との関係の変化が大きいといえる。
A〜D類から代表的なものを取り出して世帯主年齢階層別にみたのが表7である。概して量・単価ともに年齢が上るにつれて高くなっているが、とくに年齢階層差が大きいのが生鮮果物、生鮮魚介、米、牛肉、葉茎類であり、階層差が小さいのが鶏肉である。
まとめ
―日本農業へのメッセージ―
生協組合員は一方での内食志向、他方での食の外部化の進展といった相反する傾向により一般世帯よりも食料費の減少を小幅に抑えてきた。しかし傾向としては一般世帯と同じ方向にある。
消費額も消費量も伸びたのは鶏肉、豚肉、パン(食パン以外)に限定された。牛肉は額は微増だが量は大きく減った。卵やビールは価格を上げたが量を大きく減らした。
以上を踏まえれば、日本農業が資材価格の高騰を消費者価格に転嫁して生き延びる可能性は乏しい。日本農業を存続させるには当面は資材価格の高騰分を補てんする措置が不可欠だが、より長期には資源依存型農業からの脱却、個別経営や集落営農の育成を通じるコストダウン以外に道はない。価格補てん、農法変革、構造改善の如何が政策争点である。
自らのくらしを見直す活動 |