特集

農業協同組合新聞創刊80周年記念
食料安保への挑戦(2)

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【提言】
食料安全保障とJAグループの役割

「安全な食べものは日本の大地から」の実践を
前JA福岡中央会農業対策部長 博士(農学) ?武孝充

 特集第2号の「提言」は西日本の現場から。食料安全保障の確立に向けた実践としては、すでにJAグループが取り組み成果を上げているものも多い。そのひとつがファーマーズ・マーケットなどによる「地産池消」の推進だ。こうした実践が国内農産物の増産と自給率向上、さらにそれらを支える農村地域社会の元気づくりにどんな役割を果たしているか、今こそ改めて整理して考えみたい。
 その際、私たちが足場にすべきなのは「JA綱領」だとここでは提言される。明日からの実践と政策提案に現場で役立てたい。

??武孝充氏
前JA福岡中央会
農業対策部長 博士(農学)
??武孝充

  「食料安全保障」について考える場合さまざまな切り口があります。まず、近年の世界的な穀物需給のひっ迫・価格の高騰により国民的な重大関心事となっている国内農産物の拡大を図ることを前提とした「食料自給率向上」が第一でしょう。このことを実践するための方法として環境に配慮したフードマイレージ短縮機能としての「地産地消の推進」、生産履歴記帳や表示問題などを含めた「安全・安心な食料の安定的供給」、「食生活の改善」「食育(食農教育)の推進」などなどです。
 もちろん、JAのみで実行できる内容ではなく行政をはじめとする関連機関の連携が必要なことは言うまでもありません。食料は農畜産物、魚介類、加工食品等さまざまですが、農業協同組合(JA)というからには、農畜産物の生産と供給を行う組織の役割を中心に考えたいと思います。このことはJAの存在意義そのものに係る問題だと言えます。

◆1985年が分岐点 国産農産物後退が自給率低下要因に

 食料自給率はご承知のように(国内生産)÷(国内消費)で計算され、品目別自給率、穀物自給率、総合食料自給率(カロリーベース、生産額ベース)があります。一般にいう食料自給率40%=海外依存率60%というのはカロリーベースのことで、国民一人が生きて行くための基本数値だと考えられています。
 基礎的食料である穀物自給率(重量ベース)は、(1)主食用自給率(米、小麦、大・裸麦のうち飼料用を除く)60%、(2)穀物全体の自給率(米、小麦、大・裸麦、とうもろこし、飼料用含む)28%です。通常、28%が示されています。これらは「農業は生命産業である」と言われる所以のひとつです。
 さて、農業基本法が制定された1961年に73%であったのが現在では40%まで低下した要因はどこにあるのか見ておく必要があります。要因は大きく分けて「食生活変化」(洋風化とそれを支えた畜産物の輸入および国内畜産物飼料の輸入)と「国内農産物生産の後退」の二つです。「食料・農業・農村白書」(1999年度版)によれば、1965年度から1999年度(以降横ばい)の間で、自給率(カロリーベース)の低下幅33%のうち「主として食生活面によるもの」が21%、「主として生産面によるもの」が12%とされ、後半の1985年度から1999年度までの期間に限定(この間の低下幅13%)すると、「食生活要因」が5%、「生産要因」が8%と推定されています。国内農産物の生産拡大によって地域農業を維持・発展させ生産者の所得と生活の安定をはかることを使命とするJAの立場から是非押さえていなければいけないと思います。もちろん、この要因は、減反政策の拡大やそれによるカロリーの低い園芸作目等への転換、さらには1985年以降の為替の変動相場制、農産物の輸入自由化などが大いに影響していることは確かです。

◆フードマイレージ短縮機能としての「地産地消の推進」

 「地産地消」という言葉はほぼ定着し、その代名詞は「農産物直売所」(ファーマーズマーケット)ではないでしょうか。そのほかには、学校給食への地元食材の提供などがあります。ここでは、「農産物直売所」を中心に福岡県での状況を紹介しますが、全国的に共通するものだと考えています。
 2008年3月現在、農産物直売所は223ヵ所、販売額は約250億円で、そのうち1億円以上は64ヵ所となっており、直売所数は2003年をピークにやや減少していますが、販売額は5年前のおよそ2倍になっております。
 一人当たりの購入額は横ばいですが、来客数が年々増加し2002年度では850万人であったのが、2007年度では2100万人を超えるほどになっています。直売所の運営主体も、農家の組織、JA主体の運営、道の駅などです。
 JA主体の直売所は、2007年度で41ヵ所、販売額は約83億円(前年比72%増)、うち1億円以上22ヵ所、来客数も約857万人(前年比の2倍)、出荷登録者も1万人超となっており盛況です。
 これは、以前の「新鮮」に加えて「安心・安全・信頼」がキーワードになったと言えます。さらに、JAが中心になって漁協との協同組合間提携を進め、農畜産物だけではなく魚介類など品揃えの豊富さも魅力の一つになっています。
 農産物直売所を何度も調査した甲斐諭氏(九州大学名誉教授)は、直売所の持つ多面的機能として、(1)販売額向上による地域経済活性化機能、(2)生産者と消費者の直接交流機能、(3)食料の自給率向上機能、(4)フードマイレージ短縮機能、(5)新鮮さを防波堤にしたセーフガード機能、(6)社会化されない資源の社会化機能(高齢者の活用や市場流通に乗らない農畜産物の社会化)、(7)食育推進機能、(8)生産者の身体的健康増進機能(生産者励まし機能、副次的機能として医療費削減機能)、(9)生産者の精神的健康増進機能(生産者励まし機能)、(10)消費者をもてなす機能(消費者癒し機能)と整理し、ホスピタリティ機能の重要性があると指摘しています。

◆食料安全保障とJA綱領 ―わたしたちJAのめざすもの―

 生産履歴記帳や表示問題などを含む「安全・安心な食料の安定的供給」は、生産現場に密着するJAの大きな役割であり、存在意義を問われる問題です。改めてJA綱領の意味するところを絶えず確認していく必要があります。
 というのは、偽装表示問題は、JAも過去において大きな失敗を経験しています。詳しく触れる余裕はありませんが、2001年9月のBSE(牛海綿状脳症)発病牛対策にかかわる雪印食品、カワイなどによる輸入牛肉の国産牛肉への偽装事件に端を発した食品偽装、産地虚偽表示事件は、牛肉にとどまらず残念ながらJAグループも例外ではありませんでした。全農チキンフーズ、JA茨城玉川、JA中津下毛、全農ふくれん本部などがそうです。
 ショックだったのは、グローバル化をめざした1985年プラザ合意に対抗するわが国農業戦略として「安全な食べものは日本の大地から」という合意以降の日本における農と食の基本戦略の正当性を突き崩すものであったことです。
 また輸入品の国産偽装は、輸入農産物の激増下にあって、安全で美味しい食べもののためにはわが国農業の維持・発展が不可欠であるという国民意識を裏切り、それを儲けの種にしようという許しがたい行為でした。とりわけ、JAグループにとって深刻だったのは、JA偽装表示が協同組合間提携という生協とJAとの長年にわたる産直運動(全農チキンフーズ―コープネット事業連合、JA茨城玉川―東都生協、ふくれん―エフ・コープ)のなかで、ほんもの、こだわり、安全という作る人・食べる人がもつ互いの信頼をしっかりと受け止めることなく事業の論理の都合を優先させたこと、つまり「JAも一般の業界と同じだ」という印象を生協組合員だけでなく消費者に与えたことでした。
 前述のように農産物直売所は盛況です。以前、産直コーナーを開設した某Aコープの店長にその理由を聞いたことがあります。即座に「正直にまじめにコツコツと対応すること。お客さんに対してウソをつかないことが秘訣」と答えてくれました。
 協同組合は1844年のロッジデール先駆者組合の原則を基本とし、協同組合原則を改定しつつ今日に至っています。我が国の「JA綱領」は、それまでの「協同組合綱領」を改め、1997年第21回JA全国大会で新たに決議されました。JA役職員ならば、「JA綱領」の存在は知っているはずですが、中身についてはどうでしょうか。その「めざすもの」は、JAの組合員、役職員が関係する5つの対象に対して果たす役割・社会的使命は、1番目が消費者に対して、2番目が地域住民に対して、3番目が事業の利用者に対して、4番目が出資者に対して、5番目が協同活動の担い手に対して、となっています。
 この中で消費者に対する項目として綱領は「地域の農業を振興し、わが国の食と緑と水を守ろう」としています。綱領は「農業は生命産業である」という大前提のもとに、
 (1)「食を守る=安定供給」のために、JAグループが一体となって、さらには生協等とも提携して、生産と流通の両面からコスト低減の努力を行いながら、消費者のみなさんに適正な価格で安定的に農畜産物・加工品を供給します。
 (2)「食を守る=新鮮で安全な食べ物」のために、JAグループの力を発揮して、組合員の農畜産物の生産・販売・加工を強力に支援し、消費者のみなさんに対して、さらに新鮮でより安全な農畜産物や加工品を提供することに努めます。
 (3)「緑と水を守る」ために、農業は食料の供給という重要な役割だけではなく、洪水や土壌浸食の防止等国土保全機能を発揮するとともに、自然環境や景観の保持、水資源のかん養、土壌・大気の浄化等多面的で公益的な機能を果たしています。このため、こうした食と緑と水を守る地域農業を振興します。
 これが、綱領の第一項目です。そんなに難しいことを言っているわけではありません。絶えず確認していきたいものです。農業協同組合の存在意義だと考えています。

◆水田経営所得安定対策の見直しと米政策改革の再改革を!
―水田を活用した食料自給率の向上に向けて―

 食料安全保障の担保は、農業政策と表裏一体の関係にあります。最後に、政策に関する要望を述べておきます。

1.食料自給率向上交付金の創設を!
 この際、品目を絞った食料自給率交付金の創設を提案します。具体的には、飼料米などの穀類が中心になると考えられます。

2.米政策改革の再改革を!
 再生産を補償する岩盤政策が必要です。
 また、ミニマムアクセス米と事故米転売に関するきちんとした説明が必要です。
 (1)ミニマムアクセス米は輸入義務かどうかについて。政府見解では国家貿易であるから輸入義務とし、輸出国が凶作等のような場合は、例外措置として輸入数量が満たせなかった場合でも輸入義務違反とはならないとしています。(第131国会、1994年5月27日衆議院予算委員会)
 実際、2007年度は世界的な穀物の需給逼迫のため、70万トン程度の輸入数量でした。ミニマムアクセス米は原則として輸入義務としているが、輸入数量を満たすためには残留農薬やカビ等の汚染米までも輸入義務の対象なのか? 
 (2)ミニマムアクセス米の検査体制について。当初、ミニマムアクセス米の輸入に際しては、輸出港で一旦検査し、そのサンプルを空輸しさらに我が国で検査した上で、支障がなければ輸入するとされていたが現在はどうなっているのか?

3.麦類等の需給ミスマッチに対する対応策を!
 小麦から大麦への転換など麦類等の需給ミスマッチに対する対応は、16−18年を基準とする過去面積による固定支払のもとでは対応できません。これは自給率向上のマイナス要因となります。食料自給率向上対策のためにも、またモラルハザードを起こさないためにも、固定支払の基準面積は3カ年の移動平均法を採用するなど柔軟な設計が必要だと考えます。これでは生産者の生産意欲は減退します。

(2008.10.24)