街起しとの連携で農業振興地域文化の特性生かして
◆販売基盤の確立が生産者への支援
たねいち・かずまさ 昭和16年青森県生まれ。青森県立三本木農業高等学校卒。昭和62年三沢市農協(現おいらせ農協)組合長理事、平成5年同代表理事組合長、8年JA青森中央会会長、信用・経済・共済各連合会会長、11年JA全農理事、13年同青森県本部運営委員会会長、16年JA全農経営管理委員会会長。平成19年6月より現職。 |
――三沢市は7割がサービス業で農業の規模は70億円強ですね。
種市 そのうち野菜が65億円ですから、農業の大部分は野菜なんですね。しかし、1人当たり販売高は他の市町村に比べかなり高いんですよ。
――そうすると三沢の農家では後継者も育ってきているのですか。
種市 私と一緒に三沢の農業を何とかしようと青年部をつくった人たちがまだ中核ですね。野菜の年間売上げベスト10までをJAで表彰していますが、10番目が4000万円で、1億円以上が2人います。その人たちの息子たちが後を継ごうとしていますよ。
――地産地消とかいろいろな施策を実施しているんですか。
種市 ひとつは、市内の全小中学校を回り、生徒たちと一緒に給食を食べ、お米や野菜がどのようにできるか、話をしています。知らない子どもが多いので、地域の農業のことを話すのは将来に向けて大事だと思ってやっています。もうひとつは、いま、学校給食センターの改築を予定していますが、これは加工施設を併設し、地元のものを生鮮だけではなく加工して随時供給していこうというものです。本当に生産者を支援していくためには、生産基盤や販売基盤をきちんと確立できるようにしなければいけないと考えてやっています。
――それは地元の就業対策になりますね。だから目先に惑わされてはいけないわけですね。
種市 選挙対策ではなく、もっと基本的に日本国がどうあるべきかをきちんと示して、そのなかで農業がどういう必要があってどうしなければならないかがはっきりすれば、苦しい時はあっても我慢すると思いますね。先が見えないからみんなで心配して騒いでいるわけでしょう。
――自給目標をきちんと掲げて、それに基づいて生産量をいくら確保するというような形で政策を示せば、農家の目標にはなりますね。
◆生産現場の努力を消費者に伝えること
種市 そして、いままでは自然の成り行きでできたものを市場で販売していたわけです。ところが消費者は冬でもスイカを食べたいとか、わがままですから、それにあわせて作って売る時代になりましたね。そしていまは、安全で新鮮なものを、となり“安心”を売る時代になりました。そのことを農業者も組織もきちんと受け止めないとだめですね。
――安全とか新鮮とかおいしいということになると、旬の時期とか農業のサイクルに従ったものが一番おいしいのだから、そのことを消費者に理解してもらうことが必要ですね。
種市 しかし「今日あって明日はない」では誰も相手にしてくれなくなるわけです。毎日、安全・安心を届けるために生産者が努力していることを組織が捉えて消費者を説得することが農協の役割ではないですか。
消費者が「これなら安全だ」と認めてくれるようにするためには、消費者も生産者もそのことを組織的にチェックし、それを互いに信頼できるようにすること、一緒になってものを考えることが大事ではないですか。
そして国内産は安全なものを作っているから高いですよと、そのことを認めてもらわなければいけないですね。
◆農業だけではなく地域経済を考えて
――地域の中では地産地消が重要と思いますが、農家と商工会の連携とかがこれからは進むのではないですか。
種市 三沢市では20年くらい前から、農協・漁協・商工会・観光協会の経済4団体に行政が入って、いつも連携をとって活動しています。観光が人を集めるとマーケットができる、そのマーケットで何を売るかということで生産が動くという街づくりを目指しているわけです。
――アメリカとの交流も盛んなようですが、これは昭和6年に初めて成功した太平洋無着陸横断飛行の出発点が三沢だったということもあるのですか。
種市 初めて太平洋を横断したミス・ビードル号の着陸地である米国のワシントン州ウェナッチ市と姉妹都市を締結しています。27年前から交流を始めて、今年もウェナッチ市から26名が来ました。それとは別に、郊外に大型店ができて街中が元気がなくなっているので、その活性化のひとつとして、基地のまち三沢の地域特性を活かした異空間型拠点施設としてアメリカ村の建設を進めています。
――三沢の全産業の力がそこに集まるわけですね。
種市 農業というと農家のことばかりを考えていますが、それではだめだと思いますね。文化があって経済が伸びていくということを知ってもらいたいんですよ。地域や町にさまざまな文化があって人が集まってくる、そうすると経済も成り立つわけです。以前に「あと10年経ったらストーリーがないと、ものが売れない時代が来ますよ。そのことを市場がしなければ潰れますよ」といったことがあります。
――いま本当にそういう時代になりましたね。
◆ストーリー作って商品を売る時代
種市 そういう大きな流れをJAが消費者と一緒になってつくっていけばいいと思いますね。
――マスではなく一つひとつにストーリーをつくることですから、いままでの働き方と違う働き方をしないとそういう転換はなかなか難しいですね。
種市 三沢にある古牧温泉というホテルが今年の春に「青森屋」とホテル名を変えましたが、そこの支配人は津軽弁を使って「のれそれ青森」だといって、地場産のもので食事を出すだけではなく、ねぶたなど県内のお祭りなども見せて、そこにお客にも参加してもらって祭りを楽しんでもらっています。そのためかけっこう流行っています。
――そこに行けば青森県が見えるわけですね。そういう発想が素晴らしいですね。
種市 ホテルではありませんが、グリーンツーリズムでホームステイもやっているので三沢には毎年大阪から高校生がきています。
――何日間ですか。
種市 3日間です。進学校の生徒さん方ですが、食の大切さは分かっていても農業や漁業は知りませんから、体験することで感激して帰りますね。
――それは一つの文化ですね。
種市 今朝とれた新鮮な野菜や魚介類が食べられるというように、農村は都会とは違う文化を持っているから感激するんですね。
◆農業が元気になれば全体が活気づく社会を
――これから地域としては、国から少し骨太の応援が欲しいのだと思いますが、一番要請したいことは何ですか。
種市 5年くらいの目標を設定してこれをやれば良くなるというビジョンを出して欲しいですね。農業が元気になれば、それに関連する生産資材関係の企業も元気になるというように、循環するわけですから、本気で投資をしてそういう好循環する社会を形成してくれることが政府の政策の要となるということですね。
――輸入依存型にも限界がありますし、足りないものを国内で作ればといいますが、足りないものは食料とエネルギーですからね。
種市 食料とエネルギーそして環境問題について真剣に取り組んで欲しいですね。
――環境問題も大事ですね。
種市 三沢でも山の保水力が小さくなったのと、水田とかが少なくなって雨が降っても流れてしまい、川の水がなくなってきています。そういうふうにみると、いまどこにお金を使ったらいいかが見えてくると思いますけどね。
――山に木を植えるにしても長期視点にたった投資が必要だということですね。
種市 食料問題でも、安全・安心にはコストがかかります。いまのように6割の食料を海外に依存し、何が起こるかわからない、何を信用すればいいのか分からない社会のなかで、安さだけを追い求めていていいのか、安全・安心にはお金がかかることをきちんと説明して、農業を育てていかなければいけないと思いますね。
そういうことを理論的にきちんと整理をして、農業そして農協はそういう使命を担っているのだから、政府もしっかりやってくれと提起したらいいと思いますね。
――提言がしっかりしていれば、政府が変わっても説得力がありますから継続できますね
◆次世代の活躍に期待“巣立ち”環境整える
――いままで市場原理とか自己責任とかいってきました。しかし、最近の経済の混乱の中で、「市場任せ」にもできない、「自己責任」にも限界があるということが見えてきました。つまり市場をもっと規制しコントロールするとか、公的責任と私的責任のバランスとかを考える時代になってきたと思います。逆にそこのところをはっきりさせないと混乱が生じてしまうという気がしますが、市長の立場ではそのバランスはどうとっていますか。
種市 そのバランスは何が正しいという絶対的なものはないと思います。市長としては、経済を活性化してお金を回して使いたい、生かして使いたいと考えています。例えば次代を担う子どもたちをどう育てるか教育は行政としても大きな問題ですし、若い人たちが羽ばたける環境を整備するために投資をすることが大事ではないかと思いますから、バランス的にはそういうところに投資をしていきたいと考えています。
――市民生活を守るという基本があって、そのうえでお金を回すということですね。
種市 先輩達が苦労して築いてきた街だから、安心して暮らせるようにすることと、若い人たちには将来がありますから、将来に向かって羽ばたけるきっかけをつくるということです。
――これからも市長として地域の農業そして文化発展のためにがんばってください。今日はありがとうございました。
インタビューを終えて |