消費者と生産者の強固な信頼関係を築く絶好の機会
◆自給率100%にならない米の不思議と複雑な流通に驚き
輸入米は「日の丸」の目印が付く |
今年に入って、とくに日本生協連の冷凍ギョーザ事件以来、食料自給率に対する報道が数多くされるようになったが、主婦の人たちはどう考えているのだろうか。
埼玉県熊谷市に住む伊藤百合さんは「自給率を意識したことがなかったけれど、40%と初めて聞いたときはまさかと思いショックだった」という。
埼玉県八潮市の主婦・渡辺友子さんは、日本の自給率が40%でも「しかたがない」し「世界の人たちと友好関係がとれていれば何の問題もない」と考えていたが、お子さんが学校で勉強している教材をみて、飢餓に苦しんでいる国があることや世界の人口が増えていることを知り、「平和ボケしていて、食料に対する危機感がないことに気づいた」。
そして「なんでお米の自給率が100%にならないのか疑問に思っていたら、MA米というのがあるのだと知った。えーお米を輸入しているんだと思っていたら、それが管理し切れなくて事故米として問題」になり、さらに驚かされた。
取材をしたのが9月半ばから下旬ということもあって、“事故米”への関心は高かった。渡辺さんのように、減反をしているのに自給率が100%にならない米の不思議に気づいた人は多い。と同時に最終の実需者に届くまでの流通の複雑さに驚いた消費者も多い。さいたま市に住む金子智子さんもそんな一人で「今回の事件で初めて事故米という言葉を知り、どこで何が起こるか分からない世の中になっていることと、流通がこんなに複雑になっていることにびっくりした」と驚きをかくさない。
そして、八王子市の主婦・中田みどりさんは、消費者団体の呼びかけで開かれた事故米の集会に参加し農水省の説明を聞いたが、その説明の仕方は「食べ物であるお米ではなく単なるモノを扱っている感じで、農水省が食料とか命や環境に関わっていることがまったく感じられない姿勢」で、「日本の食料と農業をゆだねていたのに」と大変に失望したという。
自給率が低下した問題では、食生活が変化したこともあるとの指摘もある。それに対して金子さんは「食生活が変わり脂質が多くなったといわれるが、昔に戻れといわれても難しい」と指摘。そのうえで、神奈川県大和市の佐藤史子さんは「自給率を50%にするのも大変だと思うが、国の政策として、日本人が作って日本人が食べられるようにするには、何をすべきか」を明確にすべきだと求める。
◆世代で異なる食品選択の基準
取材に応じていただいた5人の方々のプロフィールを簡単に紹介すると、伊藤さんは50代主婦で家族3人暮らしだ。できあいの惣菜を買うと「料理をしていない」と家族からいわれるので、素材を購入して調理しているが、昔に比べタレとか味付調味料を使うことが多くなったという。
渡辺さんは40代主婦。食べ盛りのお子さんが2人いる4人暮らし。素材を購入した方が安上がりだから自分で調理することが多い。そして冷凍ギョーザ事件以来、冷凍食品の購入量が少なくなり、コロッケなども自分で作り余ったら冷凍しておく。最近は出汁でも漬物でも自分で作るようになり、友達同士でそのことについて会話することが多くなったという。
金子さんは50代主婦で、80歳代のご主人の母親と同居する5人暮らし。食事はほとんど自分で調理するのでお子さんからは「お母さんのが一番おいしい」といわれる、と嬉しそうに語る。
中田さんも50代主婦だが、20代のお子さん3人との5人暮らし。周囲にお店も外食するところもないところに住み、生協の個配を中心の食生活をしている。仕事をしている女性にとって生協の個配は心強い味方だという。
佐藤さんも50代主婦で、20代のお子さん3人との5人暮らし。仕事柄外食が多いが、できるだけおにぎりを持参し、コンビになどでサラダを買ったりしているという。佐藤さんも自宅での食事は、基本的には生協の加工品に頼っているという。
実は5人とも組織は異なるけれど生協の組合員で、食材の一定部分は生協の商品だ。しかし、すべてを生協商品でまかなうことは難しいから、当然、量販店や食品スーパーで買うこともある。そんなときに重視するのはどういうことだろうか。
「子どもが小さい世代のお母さんは、安全性とか命とかにこだわります。そして高齢になって食べ物について丁寧に考えられる世代も質にこだわりますが、その間の子育てでお金のかかる世代は価格のウエイトが大きくなります」と、中田さんは生協の活動から分析してくれた。
◆残留基準値の意味をしっかり知り、惑わされない消費者に
安全性についてはどうなのだろうか。
渡辺さんは「スーパーなどで買い物をするときには、表示をみます」という。佐藤さんも同じように「スーパーだと裏をひっくり返して確認しないと安心できない」という。ただ、渡辺さんは、店頭での表示の仕方をみるとその店の「スタンスがみえてくるので、それで無意識にお店選びをしている」という。
店頭表示だけではなく最近は食品会社もホームページなどで情報提供するようになってきたが「消費者はいちいちホームページをみて確認するわけではないが、情報を提供しているかどうか、どういう情報をどのように提供しているかで、その会社の姿勢をみて評価している」のだと渡辺さん。
そういう意味で「良い情報も悪い情報もすべて包み隠さず公表する生協の姿勢は“透明度”が高い」と伊藤さんは評価する。
これは食品会社や流通だけの問題ではなく、消費者との信頼関係を築くうえで生産者サイドも心すべきことだろう。
そして、事故米で複雑な流通を知ったいま、「物流でいろいろな人が介在していることが分かったから、取り扱う会社がどんな会社か意識するようになった」(金子さん)。「作っているところだけでなく物流も含めて辿れればそれだけでも安心感になる」(伊藤さん)という声になる。その商品に誰が責任をもっているのか明確にということだろう。
だから「塩漬けで入ってくるものより顔が見える地元産は安心かなと思う」(伊藤さん)が、「本当に地場野菜が安全なのか、消費者もしっかり知らなければいけない」と金子さんはいう。そのためには、ポジティブリスト制度での農薬の残留基準である「0.01ppmを超えたからといって慌てるのではなく、その意味をしっかり知らなければならない」。渡辺さんも「基準の意味を知らないと、報道などで振り回される」と指摘する。
◆農業は命を支える価値ある仕事だと発信することで
最後にいまの日本農業について聞いてみた。
「実家が農業地帯で、子どものころに農業をしていた人がそのままいまも農業をしているが、高齢化してしだいに農家が減っている。久しぶりにあった人が“再来年60歳の還暦だけどまだ若手だよ”という。あと10年経ったらどうなるのかと思う」と伊藤さん。「10年前までは家の周囲には田んぼや畑があったのに、どんどん住宅になっている」というのは金子さん。農業が身近なところから見えなくなっており「農業は持続可能なのかと心配になる」と渡辺さんはいう。
原油の高騰、肥料や飼料原料の急騰による生産コストの上昇などで「生産者一人ひとりは悲鳴に近い叫び」をあげていると佐藤さん。それは産地に行けば分かるとも。だが、組織や役所を通すとその声が「弱められて発信されているのではないか」と中田さんは感じている。そして「肉とか野菜だけを見るのではなく、その向こう側にあるものをどれだけ見せられるか」が大事ではないかと佐藤さんはいう。そこに生協産直の意味があるとも。
伊藤さんも「農業現場を見せてもらい、生産者が熱心に取り組んでいる姿を見ると多少高くてもここのものを食べたいと思う。現場を知ればキュウリが曲がっていてもいいと思う」「消費者の多くは生産現場を知らないのだから、生産者はもっと消費者に発信」する必要があるのではと。
そのときに「苦労している」と発信するだけではなく、「農業はあなたがたの命を支えている価値のある仕事だ、と堂々といって欲しい」と中田さん。
価格や規格で量販店と産地が交渉すると「それでは消費者が買わない」と、量販店からいわれるという話があるが、昔から「消費者と生産者は対立させられてきた」(中田さん)。そこを超えて信頼関係を築くには、生産者と消費者が本音で話し合う場をつくることだという。その一つの場が、産直だといえるのだろう。
そして持続可能な農業を可能にするためには「食べていけないのに農業をする人はいない」のだから、「若い人が農業で生活できる保障」が必要であり、「一度荒れてしまったら田んぼも畑も回復するには大変な時間と労力がかかるのだから、国の政策として農業を守らなければいけない」。後継者がいる産地は一定の収入があるところだという指摘もされた。
取材した人たちが生協の組合員であるということだけではなく、いま消費者は自らの食の問題を真剣に考え始めていると感じた。
大事なことは、この機会を有効に活かして、消費者と生産者との信頼関係を築くこと。それも強固な関係を築くためにJAグループは総力をあげなければいけないということではないだろうか。