特集

紙面審議会
農協運動の仲間たちに役立つ新聞づくりを目指して

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「農業協同組合新聞」 紙面審議会(下)

農協人が誇りと自信をもてるような紙面づくりを

◆マネジメントの視点から議論をよびかける 菅原章夫氏 梶井 今後この新聞でとりあ...

◆マネジメントの視点から議論をよびかける

菅原章夫氏
菅原章夫氏

梶井 今後この新聞でとりあげるべきテーマも含めてご意見があればお聞かせください。
今村 数年前までのJA合併と最近のJA合併の姿はまるっきり違ってきていると思います。例えば岩手県の盛岡以北は奥羽山脈から宮古の太平洋岸までがJA新いわてという一つの農協になりました。奥羽山脈の山すそから太平洋岸の宮古に行くには1泊しないと戻ってこれないという。ところが盛岡と東京は新幹線で仕事をして日帰りできるわけです。大分はごく一部を残して1県1JAになりましたね。農協はもともと面識集団が基本ですが、ここでは農業の姿は違うし食文化も違いますから、一体感はどこにあるのだろうかと思いますね。
グローバル・スタンダードが厳格に適用される中で資本金が足りない、貯金が足りないというようなことで合併するわけですが、一方にはJA富里市のように合併しないで元気な農協もあるわけですよ。こうした事態をどう考えたらいいのか、どう紙面に反映しつつ近未来の展望を描いていったらいいのか大変気になっています。
梶井 難しい問題が提起されましたが、藤谷さんどうですか。
藤谷 この新聞ならではの切り口があるのではないかと思っているのです。本紙がどんな読者を想定しているのか。そしてその読者を増やそうとしているのかどうかがよく分かりませんが、読者層を想定した編集方針を明確にして、それをベースにした活動をする。そのスタンスさえしっかりしておれば、今村さんがいわれたような非常に微妙な問題でも切り込めると思います。
尾崎 この問題は、おそらくJAで働いている多くの人が思い悩んでいることだと思います。ただ、この路線の全否定から入ることは無理があると思います。むしろどうやってこの現実をマネジメントするのか、という視点から切り込む問題ではないかと思います。明確な解答はないのですが、拡大した地域、地域の特性を活かし、これをアクティブポイントとして集約する。中央に将来のためのプランニング、そして一番重要なキャッシュフローと人事を集約する。そして実際の仕事は各地域の特性に委ねる、という案もあると思います。おそらく議論をすればいろいろな案が出てきて、思い悩んでいる人に示唆を与えるのではないかと思いますね。

仲野隆三氏
仲野隆三氏

山地 それぞれの地域で思い悩んでやっているなかで、比較的うまくやっている人、あるいはその裏にはこんなこともあるんだということをマネジメントという視点で出せば受けるんじゃないですか。マネジメントは管理とは違い、裸馬をどうやってその方向に向かせるかということだから、一人ひとり、地域地域そしてその時々で違う。それを管理という方向に持っていくからおかしなことになるんですね。
梶井 昨年の夏に全国の20JAを7人の研究者で分担して取材した「JAの現場から『JAのビジョン』」づくりに向けた戦略を考える」という特集をしましたが、特徴的なJAを取り上げて議論を呼びかけるというやり方はありますね。

◆農協が果たす役割を議論する場づくり

藤谷築次氏
藤谷築次氏

北岡 いまJAの悩みは何かといえば、金融ベースの縛りがきついことです。このままいくと販売事業とか購買事業で独立した組織が生まれるのではないかという心配があります。
10年後の高知県農業そしてJA内の地域農業についてアンケート調査などをしましたが、10年後に高知県の園芸農家が減ることは間違いありません。それをどうやって補うのか苦労して検討しています。作ったものが確実に売れて手取りが残れば若者はやる気があります。しかし、先が見えない。そこに若者の悩みがあります。そのあたりでお知恵をお借りできたらと思いますね。
梶井 大多和さんいかがですか。
大多和 メガバンクと農協では別の基準があってもいいのではないかとも思いますが、農協も貯金を預かる以上貯金者保護の観点からは他の金融機関と同様に扱わざるを得ません。つまり金融にはダブルスタンダードはないということで、JAにとっては金融の規制が負担になっている部分もあると思いますがこれを乗り越えた経営が必要です。
大規模合併によって、組合員には組合の顔が見えない、組合からは組合員の顔が見えないようなことになり、JAの組織基盤が揺らいでいるのではないかと思います。もう一度日本社会のなかで農協が果たす役割などについて議論をし、世論にも訴えながら農協の組織基盤をどうするかという大事なポイントになると思います。
熊谷 金融、原油高による農家、JAの経営に不安を与えるような大きなニュースが流れた場合、半年後、1年後の影響予測と、その対応策を専門的に分析した内容を望みます。具体的な項目として、(1)農家の高齢化と販売事業の拡大にどう取り組むか、(2)広域農協の組合員と役職員連携、信頼性、(3)組織育成と教育文化活動、(4)集落営農と食育教育、(5)郷土芸能と食文化継承などです。

村上 農協新聞ということではありますが、生協や他の協同組合セクターの方にも参加してもらったり、世界の農協・協同組合セクターの考え方、動向も知らせてほしいと思います。
松下 全国のJAで生き残りをかけた模索をしている状況があります。JAに求められるものを見極め、これを実現しなければなりません。また、求める声がもしも小さかったら、こちらから掘り起こし、提案していくべきです。こうした状況において「共生」「結集」というキーワードは大変大きな意味を持つと思います。農業後継者を含め、農家後継者が期待してくれるようなJAになるにはどのような活動に取り組むべきか。幹と枝葉、理念と活動の実践といったテーマなどに期待したいですね。
梶井 JAが抱えている問題をもっと新聞で問題にしろということですが、足立さんはいかがですか。

◆新たな農協の可能性も

前田千尋氏
前田千尋氏

足立 いま儲かっている農家はほとんどありません。赤字にならずトントンならいい方です。ほとんどの人は農業は赤字で兼業収入で生活しているのが実情です。なぜなら、農産物流通が量販店主導になっているからです。量販店のチラシの目玉は農畜産物ですから、仲卸などに1週間後にはこの価格で販売するからと指示し、市場では相対で取引され、農家の手取りは抑えられているわけです。農家が希望をもって再生産できるような価格で買ってくれないと、5年後10年後には作る人がいなくなるかもしれません。だから消費者も流通関係者も考えてもらう国民的運動を進めて欲しいですね。
仲野 頼まれて学習会などで講演することがありますが、最近は講演が終わっても質問がない。中央会の人になぜかと聞くと“仲野さんの話は高度すぎて何を聞いたらいいのか分からない”というんです。マーケティングに地方も中央はないし、自らスーパーなどを歩けば学べるものはたくさんあるわけで、学ぶ気があるかどうかなんですね。
梶井 JA富里市は元気がありますね。
仲野 専業率は45%ありますし、毎年5〜10人の就農者がいます。そして大きな特徴は周辺農協の販売農家がうちに来ていることです。つまり合併をしなくても販売力のあるところに流れるのは当たり前ですし、それは農協の努力でもあるわけです。まだ分かりませんが、農業協同組合の未来像は、境界を超えて最終的には県を超えていくのではないかと思います。畜産ではそういう動きが起きていますし、それは農家が経営者だから農協の境界を超えて選択するわけです。
梶井 総合農協の地区限定は信用事業との絡みででてきたわけですね。それと経済事業の範囲が違ってもしかたがないことですが、そのことについて議論がないですね。
近藤 それをすると組合員同士の争いになってしまうわけです。本来ならよそを利用する前に自分のJAで同じようにやったらどうですかということですが、それが難しいと結局、合併でしか解決できないわけです。
今村 大合併したJAのなかに農協法第72条の3に基づく組合員1000人といったような農事組合法人という名の農協ができる可能性がありますね。これも農協ですから、農協の中に結束力の固い機動性の高い農協ができる可能性がありますね。
菅原 全国のJAが唯一関心を共有できるのは米です。しかしその米が価格低迷していますから農家は疲弊しています。そして農協からは運動論がだんだんになくなり、経済的な基盤をしっかりということで合併が進んできているわけです。ところが昨年米価が下落したので、県内のトップをきって決起大会を開催しましたが、一声かけたら1000人集まりました。

松下雅雄氏
松下雅雄氏

野菜だけはなく農産物価格は他で決められ、安全・安心のコストも全部生産者が負担しているわけです。せめて再生産できる価格でということをもっと取り上げてもらいたいですね。それから事故米の問題は、生産者にとって大きな打撃ですから、もっと追求してほしいですね。
足立 自給率を上げるためには米の需要をあげることです。減反率は45〜50%つまり水田の半分は米を作れない。ここで米を作る施策をして米粉をどんどん使うことです。そういうことを積極的に取り上げていって欲しいですね。
山地 基本的な考え方は大きくは方向付けられていると思います。紙面上はいま出たような話が囲み記事でゲリラ的に載るようにするといいと思う。そのあたりの工夫をすることです。

◆生活文化活動も農協の大事な役割

村上光雄氏
村上光雄氏

松下 私のところは都市農業ですが、JAはだのの特色としては教育文化活動に力を入れていることだと思います。経済的な活動も大事ですが、文化活動など“心の結集”も取り上げてもらえればと思いますね。
足立 この新聞は、営農とか農政に関する記事が多いのですが、農業協同組合の組合員の幸せづくりでは、営農面と同時に生活文化・福祉活動がありますから、営農面だけでは片手落ちだと思いますので、生活文化福祉面の記事も必要だと思いますね。
梶井 都市近郊だけではなく地方でも文化運動は大事ですし、積極的に取り組んでいるJAもたくさんありますね。
藤谷 このような「紙面審議会」を年に一度は開くべきでは。審議会に専門部会を設置し、部会を活用することも工夫してよいと思います。もう取り組んでおられるかも知れないが、ブロック別に2〜3名の編集協力員(ブロック通信員)を指名・配置し、協力を求めてはどうでしょうか。何よりも、現場の農業者の具体的な悩みの取材に力を入れてほしいと思います。
前田 私も農業や農協の現場の人たちの意見や考えが紙面に登場するといいと思いますね。そのときに協同組合の原点である相互扶助や地域を大事にする事例を取り上げることで、現場の人たちを激励するような記事にしてもらうといいですね。
村上 やはりこれからも固いメインの部分は持続して、それに報道性を持たせていくという方向でよいと思います。ただ私の読み方、利用方法からすると、新聞のサイズは半分くらいのほうが手にしやすいように思います。ご一考をお願いいたします。

◆「多様性を活かす」ネットワークづくりを

山地進氏
山地進氏

北岡 それぞれご意見がありましたが、本紙の本質を見据えてもらいたい。今後の農協組織のあるべき姿について高齢化、後継者不足等社会変化の大きく揺れ動く時代に我々は組織外の学者や経営者などのトップの方々に意見を聞き、その情報提供をすることが重要ではないかと思います。中央から地方へと分権も進んで行く中で、本紙がその役割をもってJAグループに情報提供して少しでも明るい記事をお願いしたいものです。
近藤 農業政策やJAの運動路線の重要かつタイムリーな問題について、数多くの読者や学識者の意見や提案を論争形式で掲載する欄を設けてはどうかと思います。
大多和 農協はじめ協同組合は、アメリカでもヨーロッパでも他の国々でも社会的に大きな存在で重要な役割を果たしています。世界全体で年間200億リットルの生乳生産量を持つ世界最大の乳製品会社であるニュージーランドの「フォンテラ」も協同組合です。協同組合は決して株式会社と敵対するものではなく共存していくべきものです。農協で働く皆さんが自分達の仕事に誇りと自信を持てるような発信を今後とも期待します。
尾崎 いろいろと制約の多い中でよい紙面を作り続けるのはご苦労が多いことと思いますが、幸い農業協同組合新聞には多くのシンパがいると聞いています。これからも、欲張らず、一紙面ひとつでよいですから、読者を唸らせる、深い洞察に基づいた記事を掲載いただきたいと期待しています。
今村 激動の時代を切り拓く、地域に根ざしたJAにふさわしいイノベーションに常に全力をあげて取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。イノベーションとは、人材革新、技術革新、経営革新、組織革新、地域革新の5つだと私は考えていますが、時間軸と空間軸という基本視点を常に踏まえて、近未来への展望をどのJAもしっかりと主体性をもって提示してもらいたいと思います。
そのうえで、私は「真に強靱な活力は多様性の中に育まれる。画一化の中からは弱体性しか生まれない。多様性を活かすのがネットワークである」と考えています。どうか、その路線で頑張っていただきたいと思います。
梶井 今日はこれからこの新聞で取り上げるべき課題などについてたくさんのご意見をいただきました。また、編集の体制づくりとか読みやすく親しみやすい紙面づくりについても指摘がありましたので、農協協会として検討してもらい、農協運動に役立つ新聞になって欲しいと思います。

「農業協同組合新聞」紙面審議会(上)

(2008.11.26)