特集

農薬製造の拡充・強化を目指して
農薬製造の拡充・強化を目指して

一覧に戻る

所沢事業所の再構築に着手

常に農家のために、農家とともに
アグロ カネショウ株式会社

 いま、アグロ カネショウ(株)(櫛引博敬社長、本社:東京都港区)は、所沢事業所(埼玉県所沢市下安松)の再構築に着手している。創業の地として、同地に昭和31年より工場、倉庫、研究室を併設させていたが、主に工場など施設の老朽化が進んできたことから、所沢工場の福島工場への移転とともに、研究所・事務所・倉庫を全面的に建て替えることにしたもの。約20億円を投資する。12月19日には、新福島工場の竣工式も執り行われ、フル稼働に向かう。そこで、本紙では個性的とも言える事業展開の中で、日本農業の発展にどう貢献していこうとしているのかを同社に取材し、特集をまとめた。企業理念の基軸に、「常に農家のために、農家とともに」があり、このことが同社の過去、現在、未来の全てではないのか。

平成22年竣工予定の所沢事業所完成予想図
平成22年竣工予定の所沢事業所完成予想図

20億円を投資し、生産設備を集約化
60周年に向け、新たな気持ちで事業に挑む

◆地域環境を最優先する姿勢 時宜得た施設が22年に完成

増設なった福島工場。農業生産に貢献すべく、安全で高品質な製品の生産に向けて(12月19日撮影)
増設なった福島工場。農業生産に貢献すべく、安全で高品質な製品の生産に向けて(12月19日撮影)

「昭和26年に当社は設立されましたが、同31年にこの所沢の地に工場を設置したことで、本格的な農薬製造の開始に至りました。所沢事業所は平成22年6月に完成しますが、この年はちょうど会社創設60周年に当たり、その意味でも新たな気持ちで農薬の研究開発に取組み、日本の農業に貢献していきたい」と櫛引博敬社長。
今夏、7月8日に行われた、所沢事業所の再構築に向けた起工式での談話。
当日は、当麻よし子所沢市長、小川京子所沢市議会議長をはじめ、設計・施工業者など関係者多数がかけつけ安全祈願を行うと同時に、農薬専業メーカーとして果たすべき役割と使命を新たにした場面だった。
少し脱線しますが、所沢、ところざわ。メジャー過ぎて地名の由来も厳かにしていたが、一番確実で時代が古いものは『廻国雑記』に登場しており、京都の道興准后(どうこうじゅこう)という僧侶が著した。「野遊びのさかなに山のいもそえてほりもとめたる野老(ところ)沢かな」の歌に残されている。「野老」は、ヤマイモ科の植物。
2年後の完成を目指す所沢事業所は、新設分として研究棟約1800m2、事務所棟約1500m2、倉庫約1500m2、温室約160m2、その他となっている。十分すぎるほどの緑を合理的に配置したもので、地域環境を最優先する同社の姿勢が伺われる。
確かに完成予想図を見ると、全体的にモダンな印象を受け、かつ緑地帯をゆとりある空間に余すところなく鏤めているのではないか。時宜得た、新施設の竣工は間近い。

◆農家の庭先訪ねた情報収集 「土に学ぶ」が永遠の誇り

アグロ カネショウ(株)とは、どのような農薬メーカーなのだろうか。
業界関係者の声を集めてみると、「決して大規模に使用される知名度の高い製品を所有しているわけではないが、作物や地域に合った農薬の使用方法を直接農家に技術指導することで製品の効果を最大限に引き出し、農家の満足度を高めている」に集約される。
筆者は、キーワードとして敢えて「オリジナル製品」、「農家とともに」を挙げておきたい。
同社の前身母体となったのは、1951(昭和26)年に創業者の櫛引大吉氏(故人)が設立した光洋貿易(株)で、直ぐに兼商(株)への社名改称も見られる。創業当時の事務所は東京都千代田区大手町の世界経済館に置かれ、小さな農薬輸入専門商社だった。
前身母体のことより、ここでもっとも大切なことは、大吉氏がりんご栽培を経験(青森県出身)していたことだった。経験は「土に学ぶ」ことを心がけたところにあり、常に農家に対する尊敬と愛情をもち、かつ農家の利益と生産への意欲を何よりも尊重し、「単に農薬を売るのではなく、農薬を使う技術を売る」ことをモットーにしていたことだ。
「土に学ぶ」とゴルフが上手に、そして、もっともっと楽しくなる。大吉氏が、ゴルフにおいて、全日本アマチュアシニアチャンピオンだったことを業界関係者の誰もが今も誇りにするが、神髄として誇りにしているのは「土に学ぶ」の教えだったのは言うまでもない。そして、この教えを同社の全社員が実践しているところに大きな重みがある。
農家の庭先を訪ね、きめ細かく意見を聞き、そのニーズに合わせて技術サービスをベースに販売する方法の選択だった。同社を語るとき、得てして「オリジナル製品」の戦術が取りざたされるが、これは全体像の一部分にしか過ぎないのではないかと思える。

◆4ライン加え8ラインに 「生き残り」賭けた所産

福島工場竣工にあたり、安全操業を祈願
福島工場竣工にあたり、安全操業を祈願

12月19日、福島県双葉郡大熊町のアグロ カネショウ(株)福島工場に設計・施工業者など多数が詰めかけた。新福島工場の竣工を祝うためだ。今では珍しくなった、日めくりカレンダーの枚数が残り僅かとなっていた。
新たに竣工した福島工場は、前述の通り所沢事業所の再構築にともなうもの。新設は事務所など約950m2、第1〜第4倉庫約1200m2、第5〜第8工場約750m2の規模。改めて、同社の基幹工場としてフル稼働に向かう。
福島工場の、これまでの経過をかいつまんで見てみよう。用地取得は、89年。
第1期工事の完了は、91年のこと。主に、土壌消毒剤バスアミドの生産(包装)のためだった。また、第2期工事の完了は、93年のこと。病害防除剤キノンドーフロアブルの一貫生産を整えた。94年の廃水処理設備建設をはさみ、98年に第3期工事としてカネマイトフロアブルの製造設備を完了させている。
のびのびとした広大な敷地に竣工した新福島工場。農薬専業メーカーとして、生き残りを賭けた所産でもある。「安全操業が一番。地域の環境にもいっそう配慮していきたい。そして、当工場から農業生産に貢献しうる、安全性の高い新製品を世に送り出したい」と語る櫛引社長だった。
順序から第4期工事の完了とも見られるが、さにあらず。明らかに、同社の将来を占う新工場の完成だった。

◆土壌処理剤事業を譲受 技術販売が魅力ある特徴

今日のアグロ カネショウ(株)が誕生したのは、85年のこと。兼商(株)と兼商化学工業(株)の合併によるもので、社名は片仮名にし、農業関連企業であることを示す「アグロ」を冠した。
同社を語るとき、89年制定の『我が信条』は避けて通れないだろう。責任の対象を明確にしたもので「すべての顧客」、「すべての社員」、「地域社会および社会全体」、「株主」を対象とした。地味とも捉えられるが、奥は深い。
この10年の同社の主な動きを見ると、99年の殺ダニ剤カネマイトフロアブルの上市、00年の東証2部上場、02年の害虫防除剤アルバリンの上市と続く。
もっとも注目されるのは、03年にBASFの農業用土壌処理剤事業を譲受けたこと。受け皿として、子会社KSTをベルギーに設立。その後、業容の大幅な拡大を見せることになる。
本紙では、同社の特徴および魅力が「技術販売」にあると指摘したい。果樹、花きなど園芸農家を中心に技術普及を重視した農家直結の営業方針を堅持し、農家、会員店、販売店と同社を密に連携する『トライアングル作戦』の展開が光る。
山椒は小粒でもぴりりと辛い、と言われる。業界で、中堅どころに成長しつつあるアグロ カネショウ(株)。まもなく、創立60周年を迎える。大粒になったときの対応が注目されるが、「常に農家のために、農家とともに」を忘れてはならない。

(2008.12.22)