◆強気にでているMBTOC戦略
津田新哉 上席研究員 |
――これまでの経過で、重要な部分をお話下さい。
津田 この問題は、92年の「モントリオール議定書」(第4回締約国会合)において、臭化メチルがオゾン層破壊関連物質に指定され、95年以降は検疫用途を除き製造・使用が国際的に規制されたことに端を発する。
日本を含めた先進諸国では、検疫・緊急・不可欠用途を除き05年に原則廃止が決定された。
――対象作物は。
津田 技術・経済的代替技術が皆無とされるキュウリ、メロン、トウガラシ類、ショウガおよびスイカで02年から不可欠用途申請の手続きを開始したところ、全国の約3分の1の自治体から継続使用の要望があり、農水省では06年に「不可欠用途臭化メチル国家管理戦略」を制定した。
しかし、07年にはMBTOC(臭化メチル技術選択肢委員会)により、日本の当該作物に発生する土壌病害は代替技術の導入などにより対処可能との判断から、09年申請分(使用予定年の2年前から申請可能)の不可欠用途用本剤は約30%の減量査定で決議されてしまった。
さらに、MBTOCはこれに追い打ちをかけるように、わが国の申請は11年以降認めないと一方的に勧告してきた。結果的にこの勧告案は撤廃されたが、不可欠用途用臭化メチル対象作物の栽培・生産技術開発において新たな展開が求められているのは事実。
――他国の動きは如何ですか。
津田 廃止期限の05年以降に、本剤の不可欠用途使用を申請した先進国は45か国ある。
その中で、例えば、イスラエルと米国は、両国の決議量を合わせると全不可欠用途用本剤の約93%を占めている。
ただし、両国は開発国・発展途上国が15年に臭化メチルの原則廃止期限を迎えるにも関わらず、あくまでも強硬路線をひた走っている。特に、米国はMBTOCの査定に対して一歩も引けを取らず、独自の判断基準で算出した要求量を頑なに主張している。
◆最大削減率約30%減を毎年つきつけられ
――わが国の対応は。
津田 09年度分不可欠用途用臭化メチルの要求量は、各国から申請された全要求量の約6%を占めている。
対象作物と09年分の決議量は、収穫物くん蒸用としてクリの5.8トン、土壌消毒用としてキュウリの34.3トン、メロンの91.1トン、スイカの21.65トン、トウガラシ類の81.149トン、そしてショウガの71.381トン(露地・施設合計)の状況となっている。
91年の臭化メチル消費数量(6107トン)を基準として95年の生産量・消費量を凍結し、96年から基準年に対して毎年5%ずつ削減してきた。99年以降は議定書が定めた削減スケジュールに従ってその使用量を極端に減らし、検疫・不可欠用途を除いて05年に原則廃止した。
05年、06年の2か年は、わが国が要求する不可欠用途での申請量がほぼ全量認められていたが、07年では約86%、08年以降は事前協議なしに、最大削減率となる約30%減の決議を毎年突きつけられる事態に至っている。
◆4つの理由で交渉を真剣な議論で新展開
――不運が続きました。 津田 土壌消毒用本剤の全廃期限を13年と定めたわが国独自の削減計画を提示したにも関わらず、MBTOCは10年度分申請についても、前年度と同様に09年度分決議量の約30%減を勧告してきた。
MBTOCでの査定は、当該年度の申請内容の十分な精査により実施されることになっているが、わが国に対する過去3年間の審査結果を見る限り、前年度決議量に対して機械的に30%減を被せているようにしか思えない。
このため、本年7月(5日〜12日)に開催された第28回モントリオール議定書公開作業部会(タイ王国、バンコク)に政府代表団を送り、MBTOCと直接交渉する2者会合を開催した。
会合では、「わが国の土壌用臭化メチル対象作物は単一周年栽培で、生産、流通、さらに販売まで特化されたシステムで形成されていることから、他作物への転作あるいは輪作は困難」など4つの理由で交渉に当たった。
その結果、日本側の事情がMBTOC側に理解され、本年8月下旬までに13年全廃に向けた削減計画と代替技術開発案を示し、再協議で一応の合意を得た。しかし、10年度申請分の決着は、第20回モントリオール議定書締約国会合(カタール国、ドーハ)に持ち込まれた。
――注目の脱臭化メチル栽培マニュアル案については。
津田 農水省の「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」で、私の研究機関を中心にその他15研究機関が参加する「臭化メチル剤から完全に脱却した産地適合型栽培マニュアルの開発」の研究プロジェクトで、5か年計画。
個別技術の体系化、あるいは新規個別技術の開発に取組ながら13年に実効性ある脱臭化メチル栽培マニュアルを新規に開発するものだ。
わが国に対して臨戦態勢をとっているMBTOCは、この研究プロジェクトの進捗状況如何によっては13年を待たずして厳しい裁定を下すかもしれない。我々にとっては、極めて責任の重い研究プロジェクトだ。
13年を目指した完全撤廃構想を見事にソフトランニングさせるためにも、研究者は最大限の努力を払う必要がある。
オゾン層破壊物質の1つである臭化メチルに大きく依存してきたわが国の5品目産地においては、ただならぬ事態に陥りつつあることも事実。
不可欠用途用臭化メチルを利用している地域の生産者、農業関係機関、行政・普及部局、さらに試験研究機関の間で交わされている真剣な議論が、当該作目産地の今後の歩むべき道を創っていくのではないか。
――ありがとうございました。