◆もうかる農業の支援に全力
20年6月14日、この地を岩手・宮城内陸地震が襲い、栗駒・花山地区を中心に大きな被害を受けた。とくに栗駒山ろくの開拓地・耕英地区はイチゴの産地でこの日が出荷初日の予定だったが、地震で全滅してしまった。
耕英地区にはいまだに仮設住宅での生活を余儀なくされている人もいるが、一人も農業を止めるという人はいない。この春からの農作業の「段取りに動いている」。JAも行政と連携して、イチゴの苗2万5000株を確保するなど積極的な支援を行っている。また青年部は、曽根正範JA専務を総隊長とする「JA栗っこ耕英畑地救援隊」43名を組織。「ぜひ美味しい農産物を生産して欲しい」「青年部がこの窮地への力になっていく」(菅原昌行青年部委員長)と11月に仮設住宅すまいの7戸の畑地約4haの草を刈った。
また、断水で繁殖和牛など家畜用の水が供給されず困っていた花山地区に、酪農組合や近隣JAの協力を得て、家畜用の水を供給した全農宮城県本部。炊出しや救援物資などの支援や激励を多数寄せてくれた県内やJA栗っこ産の米を販売している首都圏のJA。地震は大きな被害をもたらしたが、一方で「相互扶助」という協同組合精神が発揮され、「農業協同組合のよさが見直された」と菅原組合長。
「組合員との結びつきは生産活動」にあるとJAは考え「もうかる農業の支援に全力」をあげている。JA販売事業高は合併時には200億円あったが現在は150億円と50億円も減少。そのうち畜産は38億円とほぼ横ばい。園芸は12億円と10億円を超える水準にまで伸びてきているので、販売高減少の最大の要因は、米の生産調整拡大と米価低迷にある。この減ってしまった50億円を回復することが、組合員の所得を保障することになると菅原組合長はいう。
◆集落営農組織を核に協同の力を発揮
そのため基幹品目である米については、もともと良食味・良品質米産地としての評価が高いが、さらに肥料・農薬の使用を減らした環境保全米に取り組んだところ卸などの評価が良かった。そこで21年産米では全体の7割で取り組む。JA管内は畜産も盛んなので、その堆肥を使った循環型農業を確立していこうということだ。「有機肥料を使っていくと食味がよくなる」と生産者のリーダー的存在の加藤榮幸さん(JA理事)はいう。
米関連では「米粉」の開発に早くから取り組み、平成18年に「JA栗っこ米粉料理研究会」が発足。現在24名の会員が活動しているが、20年3月にオールカラーの米粉料理「レシピ集」を発行、米粉への関心が高まったこともあり全国的にも注目されている。菅原組合長は「米粉ならくず米も使える」ので米粉の消費をもっと拡大したいと考え、性能の良い製粉機の導入も検討している。
もう一つJAが力を入れているのが、野菜の生産・販売の拡大だ。野菜の生産については、もともと米地帯なので苦労しながら伸ばしてきた経緯がある。しかし「最近は10億円台を超える」ようになったので、これをさらに伸ばしていきたい。しかし、1人ひとりの生産者が米と平行して取り組むのは難しい。そこで「営農組合(集落営農組織)の転作部分として野菜を作る。1人ではできないが、営農組合としてみんなでやればできる」と加藤さん。ここでも「協同の力」が発揮されるわけだ。
JA栗っこには47の集落営農組織があるが、そのすべての組織の経理はJAが引き受けている。また、使用する肥料や農薬を組織で集約して購入することで、一定額を超えるとかなり率のよい奨励金が組織に還元され、「役員報酬くらいはそれで出せる」という。こうした施策でJAへの結集率が高くなっていることも事実だ。
◆介護事業で高齢者を支援
栗原市は山間部が多いこともあって高齢化が急速に進んでいる。そのため「農業の第一線を退いた組合員へのサービス」がこれからのJAの大きな使命になると菅原組合長はいう。この支援策として平成11年から女性部が組織した「助け合いの会」を基盤とする訪問介護事業を始め12年に介護保険事業の指定業者になる。そして18年に通所介護事業の「JA栗っこデイサービスセンター」を開所する。
年中無休のセンターには102歳を最高齢者に70〜80歳代のお年寄りが毎日20〜25名やってくる。昨年夏に右半身不随になり、週2日通ってくる佐藤しきぶさん(80歳)に話を聞いた。
自宅は曾孫さんまで4世代同居だが、平日の昼間は独りきりなので「ここに来ると、お風呂に入れてくれるし、みんなと話したり、お昼を食べたり、楽しいよ」と笑う。カラオケに合わせて踊るリハビリの効果があって右腕を上げ下げできるようになったと、嬉しそうに腕を振ってみせてくれる。
しきぶさんのように体が不自由になった人や認知症の人など個人差はあるが、農業の第一線を退いた人たちが、日当りのよい部屋で、介護員さんたちの温かい介助を受けていた。
◆農業体験だけでなく伝統料理も教える「あぐりスクール」
「次世代にみんなで育む『食』と『農』」もJAのメインテーマの一つで、地元の小学生を対象にした「あぐりスクール」を開校して食農教育に積極的に取り組んでいる。今期で3年目だが年々希望者が増え、現在は89名が在籍、半分は非農家の子どもだという。
5月の開校から1月の閉校まで9回開催されるが、田植えや収穫などの農業体験だけではなく、摺りおろしたごぼうと鶏ひき肉(本来は干したドジョウの粉)などでつくったタレに餅を絡める「ふすべもち」などの伝統的郷土料理。港や空港、市場に見学に行き、輸入の実態を知りフードマイレージについて考えるなどの内容になっている。
調理が好きだから米粉を使った料理とかが楽しかったと小学3年生のときから3年連続で参加している鈴木かれんちゃんはいう。お兄さんと弟さんの3人での参加だが非農家だ。小学生だけが対象だが、学校以外の友だちもできたり「とても楽しいから中学生になっても来たい」とかれんちゃん。
家にこもってゲームばかりしていた子がスクールに参加するようになって「帰ってくると機関銃のように話し」親子のコミュニケーションがよくなったと感謝されたりもする。子どもたちを通して遠い存在だった「農協が近くなった」という非農家の人もいて、地域の中で農協や農業への理解が少しずつ進んでいると担当する阿部まゆみさん。今年は食農教育サミットの会場でもあり、いまから準備に忙しい日々だという。
駆け足で見てきたが、いま第一線で農業を担う組合員の生産と結びついた施策だけではなく、いままで農業を担ってきた人たち、そしてこれからの食と農を担っていく子どもたちへ向けてさまざまな施策を展開していくことで、JAが先頭に立って元気な地域をつくっていこうとしていることが良く分かる。