特集

新年特集号
食料安保への挑戦(3)

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【自給率向上を目指して】
WTO情報もっとわかりやすく国民的合意形成へさらに努力を

農家の売上げをどう伸ばすか 自給率向上のカギは農家所得に
米の用途拡大に取り組む生産・消費双方の思いは同じ

冨士重夫氏 JA全中常務理事
赤松 光氏 生活協同組合連合会 コープネット事業連合 理事長
鈴木宣弘氏 東京大学大学院 農学生命科学研究科教授

 「特集・食料安保への挑戦」第3弾は「食料自給率の向上を目指して」をテーマに3氏に議論を展開してもらった。WTO対策では消費者への情報提供にもっと工夫を、との意見が強く出た。食料危機への対応ではカネを出しても食料を買えない状況が確認されたのに、世界同時不況を克服するためには自由貿易の推進がさらに必要、とする矛盾した動きの出ていることが問題となった。自給率向上については農家の売上げが問題とされ、地域農業の特性に応じて農業所得を上げていく手だてをとることが強調された。さらに直接支払い、米粉・飼料用米、安全・安心、環境問題、協同組合の役割と課題などへと議論が発展した。

◆農業保護続ける米国

生活協同組合連合会コープネット事業連合 理事長

赤松光氏
生活協同組合連合会
コープネット事業連合 理事長

鈴木 年内合意が先送りされたWTO農業交渉について、どのようにお考えですか。
冨士 中国・インドと米国の対立がいわれますが、米国の状況が非常に大きいと思います。米国には農業も鉱工業製品も含めて今のWTOの枠組みでは満足できないという根本的な問題があるようです。
相手がのめないような強い要求を突きつけ、合意しないようにしたという側面もあるのではないかと思います。ただ、ここまでドーハラウンドを積み上げてきているので、これをダメにすることも難しくなっていると思います。
今回、閣僚会合が開けなかった最大の理由は、やはり分野別の関税撤廃で、米国が中印両国に対して化学、工作機械、電子・電機の3分野で撤廃を迫り、両国がこれをはねつけたことですが、その背景には米国自身の事情もあったわけです。
鈴木 一般には、農業分野が大きな障害のように報道されがちですが、実は、鉱工業の分野での米国の強い要求が受け入れられなければWTO交渉を進めたくないというのが大きなポイントということですか。
冨士 農業にも問題があって米国は農業を含めた一括交渉だといっています。米国は農業の国内支持を145億ドルまで減らす約束をしましたが、今は穀物相場が下落していますから、そんなことはやりたくないのだと思います。ただトータルとして米国に利益があれば国内支持を一定水準までカットしてもいいと主張しているわけです。
鈴木 米国としては、農業保護も維持したいということですね。
冨士 米国の農業法は民主、共和両党の大多数の議員が超党派で大統領の拒否権を逆に拒否してまで通したものです。今の農業法は農業保護をそのまま続けるというものです。
鈴木 生協の立場からはいかがですか。赤松さん。
赤松 WTOの報道はわかりにくいですね。今おっしゃったようなことはどこも報道していません。どちらかというと報道されているのは農業分野の自由化に対して日本農業をどこまで守れるかということだけです。
重要品目数の4%、6%、8%問題だけが報道され、ほかのことについてはほとんど報道されていません。消費者の目から見ると、WTOのことについて賛成したらよいのか反対したほうがよいのか、わかりません。
一番簡単なのは日本農業を守らなくてはいけないからWTOの路線に反対だという議論ですが、どうもそれだけではないようだというあたりで、もっとわかりやすい説明がなされることを望んでいます。また落としどころはどこで、消費者としてどういう発言をしたらよいのかがわかれば有難いと思います。

◆国益をどう守るのか

鈴木 ほんとにおっしゃる通りです。消費者にもっと日本の農業を支えてもらいたい、またWTOで、これ以上のことができないということであれば、なぜ8でないと大変なのか、食料自給率を50%に引き上げるといっているが、4になると30%に下がるとか、何が農業について起こるのか、消費者には理解されていないと思います。
全体として情報提供をもう少し工夫していただくことが望まれます。そうなれば消費者としても、例えば、ここでWTOにストップをかけないといけないといった判断もできます。
交渉ごとであるし、情報が出しにくい面もありますが、とにかく議論の材料がなくて十分な理解ができない状況です。情報をもっとオープンにしていただいく必要があります。
米国は自分の国益が世界のルールにならない限り常にノーといい続けています。日本は8を譲ったわけではないといいますが、いろんな報道では4プラス2くらいで仕方がないんじゃないかなんて話も出ています。
日本の国益は何なのか、それをどこまで守るか、一般には、はっきり伝わっていない気がするんですね。消費者、国民がこれは大変だと判断すれば、日本が最後の1国になっても譲らないという決意も示せます。
「日本のせいで交渉がまとまらなかったと言われたくない」といった姿勢ではなく、日本としてはどこで食い止めないといけないのかという国民的合意を形成し、それに基づいて譲れない一線を死守する努力ができないものかというのが私としての率直な気持ちです。
冨士 農業にこだわっていると保護主義に加担しているみたいな誤った報道が見られます。
疑問が2つあります。1つは国益をかけて闘うなんてよくいわれますが、国益とは何かがよくわからないのですよ。農業で失うものがあれば代わりに何が得られるのか。経済産業省からは数字も何も出てきません。
米国のように途上国へのアクセス改善ができれば鉱工業分野でこれだけの利益が得られるから、農業ではここまで譲るという説明が日本にはないから、国益とは何なのか全くわかりません。ただ農業だけはここまでやってくれというだけです。
2つ目は重要品目数にしても交渉事項だからハラは見せないということから、最初の12とか10から今は8となって、どこが本当に譲れない線なのか非常にわかりづらいものになっています。

◆国民は混乱している

冨士 タリフライン(関税分類品目)はわからないことがいっぱいあります。重要な品目のタリフラインを合計すると150以上になりますが、その中ではずしても大丈夫なのはどれか。現在は全く輸入されていない品目が多いけれど、関税を下げた途端に入ってくることもあるだろうし、よく調べてみないとわかりません。アバウトなところで8%といっているわけです。
観念論でいうところの8%を守れなかったら日本農業全体が崩壊してしまうというようなことは考えられません。ではどうするか、そこは現段階でつまびらかにすることは難しいかも知れません。だから総枠が必要だということになります。
ただ考えなければならないのは例えば砂糖や乳製品がそれぞれごっそり抜けてしまうとかいったことにならないよう、よく精査して砂糖や乳製品の根幹を指定できるような数はぎりぎり守るということです。
しかし交渉決着までは本音がいえない、情報公開ができないとなると、どこが本当にがんばりどころかわからない、そうした認識を消費者と共有できないという状況になっています。
赤松 国益とは何かについて一般的には自動車産業中心の1兆円問題とか、このままいくと韓国に負け、FTAでも負けてしまうとかいろいろな話が伝わっている中で一般消費者はそのことを全然知らないですね。
しかし経済界の人たちはWTO路線で完全自由化、競争の自由化をしたら良いんだといいます。とくに輸出産業の人たちなんかは。
国益については政府の中でも農水省と経産省が全く逆のことをいっていますから、どちらを信じたらよいのか国民は混乱しています。その辺をわかりやすくしてもらいたいと思います。
重要品目については、どの品目の関税が何%だなんて、みんな詳しく知りません。多分お米のことだけは知っているだろうと思います。関税がなくなった時のシナリオともなれば誰にもわかりません。
だけど関税の完全撤廃によって米を中心に壊滅していくだろうということはわかると思いますが、その説明もなかなか得られません。
それから、自国の国益の問題だけでなく、WTOは世界のフードセキュリティに役立っているのか、日本の農業を守ることは世界のフードセキュリティに役立つのではないか、そういった視点に立っての説明もいただければ有難いなと思います。
冨士 鉱工業品について自動車の関税は韓国がゼロになったら日本は10%だなんていいますが、日本の自動車産業はもうほとんど米国で現地生産しています。グローバル化に対応して関税の影響がないような生産・供給体制をとっています。

◆WTOルール見直せ

鈴木宣弘氏 東京大学大学院 農学生命科学研究科教授
鈴木宣弘氏
東京大学大学院
農学生命科学研究科教授

冨士 だから直接の関税障壁はすでにないのじゃないかと思います。だから騒いでいるようだけど実は落ち着いているんですよ。
食料危機については、WTOは新しい価値観と枠組みでやり直すべきだと我々は主張しています。発足時の状況と様変わりしていることを、なぜ踏まえないのかとの思いです。
しかし、それを今のドーハラウンドでやろうとすれば、ラウンドを壊して再出発するしかありませんが、あと10%か5%の妥協でまとまるという段階まできているので、7年間の積み上げを捨て去るようにさせるのはとても困難なことです。
食料危機の問題は国連で議論したり、FAOが発信したりしています。危機対応をWTOによる貿易のルールみたいな形で確立するのもまた困難です。
鈴木 ただ、WTOのルールは非常に単純で経済効率を貫徹し国際分業すればよいという形だけで、このままでは世界のフードセキュリティの確保に対応できませんから、WTOルールそのものをどう見直すかという点を問い続ける必要があります。
日本は主導権を持ってルールの見直しを主張していいんじゃないかと思います。日本はこれまで主体的に主張を最後まで通す気概が弱かった感じがします。
農業サイドの損失や経済界のメリットだけでなく、国民全体の将来を考え直さないといけないという合意ができるかどうかですから、ここで議論の材料を共有し方向を決める必要性があるんじゃないかと思います。
冨士 日本はWTOから最大の恩恵を受けている国だから、議論が曲折しても、いつも後ろに隠れていて最後は賛成すると見られています。この前、インドへ行った時もそれを痛感しました。日本はもっと強く主張すべきだと思います。
赤松 食料危機はこないという説もありますね。世界の配分をうまくすれば解決するとか。また地球温暖化と違って、みんなに等しくはこないから、なかなか枠組みができないという説もありますが、どうですか。
冨士 地球人口が増えるから食料は足りなくなります。アフリカの飢餓がじわじわと拡大していくのは見過ごせません。
鈴木 今回は穀物の輸出規制が簡単に行われ、カネを出しても買えない状況が確認できたので、そうした事態に備えなければならないという認識が共有できたと思います。なのに、一方で、自由貿易は進めなければならないとの矛盾した動きも出ています。
各国で多様な農業が残らなければならないと確認されたはずなのに、一方では世界同時不況を克服するためには自由化だという議論がわっと出ました。
自由化すれば、各国が食料増産をしても農業はつぶれてしまうのだから全く整合性のとれないことが並行していわれている状態です。どこでバランスをとるのか整理が必要です。
日本はこれ以上、自由化を進めても、食料確保や国土の荒廃などに心配はないのか、かなり深刻なところにきているので十分な説明が必要だと思います。

◆直接支払いへの疑問

赤松 自由化で安い農産物がどんどん入ってきても直接支払いがあれば農業生産は守れるんだという政策の流れがありますが、果たしてそれで守れるのかどうか。直接支払いと関税率引き下げのバランスをとるというやり方もありますが。
鈴木 そこもはっきりしていないですね。日本では。国境措置で守るのか、守らなくても直接支払いで補償すればすむのか説明が不十分ですね。
冨士 作物に着目した直接支払いは黄色の政策です。それはトータルとしてはよいけれど、次の時には個別品目でキャッピングをはめられます。そうすると面積とかに着目した支払いにしていかざるを得なくなり、ますます生産と直接リンクしない形の直接支払いとなって、わけがわからなくなります。
だから、そういうことも明確にはいえない。いうとまたWTO交渉でやられる。そういう意識があると思います。そこはうまくやるというしかいいようがないということではないかと思います。
赤松 例えば砂糖の関税がゼロになって、価格がこれだけ下がった、すると直接補償はこれだけ必要になるといった説明はできませんか。
冨士 価格100円のうち95円が直接補償で5円が品代だということもあり得ますが、バランスとして、そんなことが消費者に理解されるのか、生産者としてはつらいものがあります。
赤松 輸入が途絶えたら困るから、どんなことがあっても、これだけは作り続けなければならないという品目についての説明があってもよいと思います。
鈴木 お米について、関税をなくして、直接支払いで対応するとなると、今の生産量を維持するのであれば毎年2兆円近くの財政負担が必要です。その選択を消費者は受け入れるかどうか、ということになります。
赤松 その場合、消費者負担から納税者負担へということで今は高く買っている2兆円分が関税撤廃で安くなり、それを税金から払うことになるということですね。
鈴木 次に食料自給率の問題ですが、50%目標をどう実現させていくか、具体策についてのお考えはいかがですか。
赤松 政府は“食べ方”の目標まで掲げていますが、消費面と生産面の整合性はとれているのでしょうか。
冨士 “食べ方”に見合った農産物を作るには、やはり農家の売上げが問題となります。10年前の粗生産額は12兆円でしたが、今は8兆円に落ち込んでおり、これでは元気が出ません。
花を作っても自給率は上がらないから食べ物を作りなさいなどとはいえませんからね。まずは売上高ベースを上げることが大事です。そのモデルを示すなどの取り組みが考えられます。

◆飼料用米は高くつく

冨士重夫氏 JA全中常務理事
冨士重夫氏 JA全中常務理事

冨士 カロリーベースの自給率にこだわっていては現場とリンクしないと思います。地域農業の特性に応じて農業所得を上げていく手だてを取るべきです。
平成22年には次の新しい基本計画が出ますから、それに向けて我々の考え方を提起していきたいと思います。
赤松 最近、政府は「供給力」という言葉をよく使いますが、生協では「自給力」といっています。いざという時に主要食料を増産できる自給力を持っていれば、自給率はあまり問題にならないと思います。
米粉、飼料用米の生産が増えていますが、財政補助をきちんとしていけば自給率は5%くらい上がるのではありませんか。米粉や飼料用米の増産は「自給力」を高め、自給率も自ずと上がることになります。
鈴木 米粉や飼料用米の拡大に向けた推進体制はどうですか。
赤松 コープネットは岩手・花巻と長野で飼料用米を使って育てた豚を4月から供給しますが、これを広げようと茨城でもJAと話し合っています。
問題は補助がなければ、この事業は成り立たないし、飼料用米を混ぜるのは10%だけなので自給率には少ししか影響しないしないことです。ただ少しでも休耕田が活用できればと考え、当面は私どもの養豚の1割に飼料用米を使いたい考えです。
しかし、この豚は値段が100gで20円か30円高くつく見込みです。しかし味は変わりません。となると日本の水田を守るという“理念”分のおカネを上乗せして下さいということになります。こうした考え方がどこまで浸透できるかも課題です。同じ値段になるくらいの補助があればとも思います。
米粉のパンにもチャレンジしていますが、やはり高くつき、米粉うどんの場合は小麦の3倍にもなるので苦労していますが、頑張っています。ほかにも用途拡大に挑んでいます。
しかし本命は米の用途拡大です。不況が追い風となって少しは増えていますが、トレンドとしては、30代以下の消費拡大は困難です。
冨士 理解のある取り組みをしていただいて、うれしい限りです。本当は麦・大豆のほうが転作作物としての収益性は良いのですが、転作ローテーションをうまく回していくためにはやはり稲作を組み込む必要があります。また、それはいざという時に主食用となります。
鈴木 消費と生産の両サイドが同じ思いで取り組んでいるわけですが、それを「絵に描いた餅」に終わらせないようにするためには政策的支援が今の状態で十分なのかどうか、どうお考えですか。

◆支援打ち切りが心配

冨士 十分とはいえません。生産現場では政策的支援がいつまた打ち切られるかと本腰を入れられないのですよ。
鈴木 支援は何年続くのかと聞いても、明確な回答が得られないようですね。それでは踏み出せないですね。国家戦略として生産・消費両サイドの合意のもとにやるのなら、もっと明確な方向性が打ち出せないものかという点が問われます。
これまでは自給率を上げると言い続けて実際には下がってきました。だから今度は違うんだという意気込みを示してほしいものです。
次に輸入に頼らざるを得ない食料品の問題に移ります。これをどう位置づけて安定的に確保していくかが今回の食料危機で大きな課題になりましたが、そのあたりをどう整理したらよいと思いますか。
冨士 生産資材としての飼料は全農がいかに安定的にしかも安価で輸入できるように手を打っています。そういうことをもっとアピールしたらよいとも思います。
鈴木 全農グレイン(株)さんなんかは非遺伝子組換え大豆を輸入するため独自に米国で調達する努力をされています。そういうものがないと穀物メジャーなどに振り回されて、その会社に都合のよいものしか手に入らなくなります。独自の調達ルートを確保することが重要です。
赤松 国内で作れない品目を挙げ、これとこれは輸入に頼るとはっきりいったほうが、お互いの国益に合致しますね。
冨士 しかし中国なんかは単位面積当たりのもうけとか付加価値の高いものを輸出向けに作りますから、うまく合致しない面があり、また加工用・業務用などの表示問題も心配です。
鈴木 安全性の問題はどうでしょうか。米国では10年前に認可された牛の成長ホルモンがガンとの関係で再び問題になっています。そういう製品が日本の港を素通りして日本の消費者の口に入っています。
赤松 日本では中国産への不安が強いのですが、どこの国でもカントリーリスクは必ずあります。日本も40年ほど前まではリスクの輸出国と見られていましたが、その後の貿易の中で鍛えられました。ナショナリズムとか排外主義的傾向に陥らないことも大事です。
鈴木 EUのグローバルGAPみたいな形で、一定の栽培基準を満たすことを海外からの輸入品にも求めていくのはどうですか。
赤松 インフラでいうと今は中国のほうがタイやベトナムより進んでいます。アジア圏内でルールづくりができればよいと考えています。

冨士重夫氏 鈴木宣弘氏 冨士重夫氏

◆一次産業の連携強化

鈴木 アジア諸国には、日本は厳しすぎるとの議論がありますが、逆に日本産の輸出に対する検疫が日本以上に厳しくて、かなりの非関税障壁ではないかと思われる面もあります。
冨士 日本産が品質基準とか衛生管理を求められるのに外国産はそうではないというのはおかしいですよ。内外無差別といわれるのですから。中国は日本の米をくん蒸しないと輸出を認めないといっています。
赤松 GAPについていえば、日本国内のGAPはまだ統一されていません。進んだ農協とか生協とかが自主点検をやっている状況です。一概に日本は安全、海外は不安というのは変な排外主義みたいなことになってしまいます。
鈴木 では最後に、協同組合間の連携を強化するに当たっての課題などをお話下さい。
冨士 地域で生きていく一次産業の森林組合や漁協との連携強化が大事だと考えています。
森は“海の恋人”といわれたり、最近は木質チップがエタノールのエネルギー源になるかも知れないといった可能性を秘めています。水産資源の開発も期待されています。
JAとしてはお互いに例えば野菜と水産品を共同加工して付加価値を高めるとか、労働力調整を含めて、いろいろな取り組みがあると思います。現場における一次産業としての提携をもっと深めなければいけません。そして生協と結んで双方向の情報を共有できるようにして少しでも暮らしが豊かになる取り組みを進めたいと思います。
赤松 もっと社会性を持った消費者にならないといけないと考えています。“食”から見えてくる自給率とかフードセキュリティの問題など外側の世界を考えながら消費行動ができるようになればよいと思います。社会に責任を持った消費者の行動、それができるようにするのが協同組合の役割です。市場経済だけではなかなかうまくいきません。
この間、生協とJA・全農とのいろんな連携による流通が増えてきましたが、具体的な実際の取り組みで数字を上げていくことが大事です。
一次産業の組合としての横の連携がいわれましたが、生協もそことうまくつないでいけば資源と国土の保全につながっていくと思います。
鈴木 環境視点も入れて国産品の重要性に理解を深めてもらう努力をきちんとしなくてはいけませんね。多面的機能についてはいろいろ伝えてきたつもりですが、まだ具体的な部分がよく見えなくて、情報不足というか理解醸成ができていない部分があります。
例えばスイスの生協のミグロは、生産者サイドとの連携のもとに、環境に配慮していることを基準化した新商品を次々と出してスイスの国産農産物への信頼を高めてきていますが、日本でもJAと生協が連携して、そうした商品を開発していく流れがさらに広がることに期待します。

座談会を終えて

食料自給率を50%に引き上げると言いながら、もし、WTO交渉が、現状の水準で決まっただけでも、コメにも、乳製品にも、畜産物にも、砂糖にも、小麦にも、相当な影響が出て、何も手を打たなければ、自給率はかなり下がるかもしれない。それを「直接支払い」による財政負担で食い止めるには、相当なお金がかかるかもしれない。しかし、そのことについて、農家も、消費者、一般国民も具体的な情報がない。これでは、国民として、何が「国益」で、そのために、どう行動すべきかの判断ができない。消費者、一般の国民の皆さんを放っておいて、経済界と農業サイドの利害のぶつかり合い、綱引きで日本の食の将来が決まるわけではない。気がついたときに困るのは全国民である。貿易の利益と食料の確保のリスクとのバランスがギリギリのところに来ているのであれば、それをきちんと議論できる材料が示され、国際交渉への対応も、自給率向上のための米粉や飼料米等への財政負担にも、消費者の理解を得て、国家戦略として、「ここは譲れない」、「これだけの支援は必要だ」、ということが合意され、実行される必要がある。(鈴木)

(2009.01.20)