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新年特集号
食料安保への挑戦(3)

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【シリーズ・世界の穀物戦略2009】
自国の農業保護が食料安保の基本 米国、中国、インドの戦略

WTO交渉では米国とインド・中国の対立が伝えられている。それぞれの国がどういう農業生産の実態にどう保護政策をとっているのか、最近の動向を探ってみた。

◆手厚さ増す08年米国農業法

 WTO農業交渉で焦点のひとつになっているのが米国の補助金削減。自国の農業を保護するものではあっても、それが貿易に影響を与えるとみなされる補助金の削減を求めるのが現行のWTOルールだ。そうした貿易歪曲的な補助金は図1に示したように近年増えており2005年には189億ドルとなっており、これを130億ドルから164億ドルに抑えるというのがファルコナー農業交渉議長案だ。
 一方、08年農業法では国内農業保護策としてさらに手厚い対策も導入された。図2、3は農林中金総合研究所基礎研究部の平澤明彦主任研究員が作成した穀物に対する補助金の仕組み。
 図2はこれまでの仕組み。目標価格を定め市場価格との差を補てんするのが基本的な考え方である。市場価格が低下していても、生産物のいわば質入れによる不足払い(図2では融資不足払い)に加え、過去の生産実績に基づく直接固定支払いが行われ、それでも目標価格に届かなければその差額は価格変動型対応型支払いが行われる。
 市場価格が目標価格を超えても、過去の生産実績に基づく直接固定支払いは行われるため、農家の受け取りはその分増えることが図2から分かる。
 この制度に加えて09年度から選択肢として導入されるのが図3の収入変動対応型のACERプログラム補助金と呼ばれる政策だ。これまでの補助制度は目標価格を決めてはいたものの、単収の変動には対応していなかった。したがって、従来の制度では収穫が落ちればその分の補助は受けられなかった。穀物価格が高騰していても、自分の農場の収量が低下すればその分の補助はないということになる。
 米国ではそうした単収変動には作物保険が対応するという制度がある。しかし、平澤研究員によると穀物価格高騰で保険料も値上がりし、また日本の農家と同じように肥料、燃料などの高騰に苦しみ、さらに種子、地代の上昇で生産コストは上昇している。一方で図6に示したように最近のトウモロコシ相場は急落。コストが上昇しているため、従来の不足払い制度だけでは十分な補助にはならなくなった。「以前より価格変動リスクに農家がさらされるようになった」。そこで考え出されたのが、価格と単収を合わせ収入を保証するこの制度。従来の固定的な目標価格設定ではなく直近2年の市場平均価格を採用するという変更はあるが、平澤氏の試算ではトウモロコシ価格が1.4ドルから4.6ドル(1ブッシェル当たり)であれば従来型の仕組みよりACREプログラムのほうが受け取り額が多くなることが図に示されている。
 08年農業法では酪農について飼料価格高騰分を補てんする仕組みも加わった。図4がそのイメージで飼料価格の高騰分の一定部分を目標価格に上乗せするという仕組みだ。
 エタノール政策も実質的に農家保護になっている。

◆生産と備蓄に力を入れる中国

 世界的な穀物需給ひっ迫のなか輸出規制をした中国とインド。
 中国は食料の自給政策に力を入れはじめた。昨年10月、中国共産党は自給率95%の維持、農地減少に歯止めをかけるなどの政策を決めた(第17期3中全会の決定)。中国は年間約5億トンの穀物確保が必要だという。
 中国の農地は減少傾向にあることから(図8)、国内農業生産を維持するとして永久基本農地を画定し1億2000万ha確保を目標に掲げた。
 農林水産省国際政策課によると、農地制度改革も進め、農民の耕作権の流動化を図るため耕作権の放棄に対して保証すると同時に、転用基準については中央政府の関与を強め大規模経営ができるよう農地の集約化を進める。また、一定の要件で農村から就業、居住している農民に都市住民戸籍を与えることも決めた。
 農業生産面で注目されるのは、最低買い入れ価格制度の引き上げと新たな品目への導入だ。08年には以前から米、小麦に導入されていた最低買い入れ価格を度々引き上げただけでなく、10月からはトウモロコシ、大豆、ナタネにも最低買い入れ価格制度を導入した(図9)。
 トウモロコシは大豊作で輸出再開も一部ではささやかれたが、備蓄を進めているという。価格急落で国際価格のほうが国内価格より安くなり輸出しても農家に恩恵がないという理由もあるとされる。
 大豆についても最低買い入れ価格制度を導入したものの、国内消費量4980万トンのうち国内生産は1400万トン。輸入量は3700万トンを超え世界最大の大豆輸入国になっている(07/08年見込み)。輸入先は米国、ブラジルなど。
 この大豆については国が輸入して備蓄する方向を打ち出し、また、搾油工場や物流も含めた大豆産業の育成に力を入れているという。これまでは穀物メジャーを中心とした外資が進出し、大豆輸入から搾油まで手を広げていた。それを大豆も基本食料と位置づけ国家による需給管理を強めようとしている。
 自給率95%の維持を打ち出したが、そのベースは何かは不明だ。だが、インドネシア、フィリピン、アフリカ諸国への投資を積極化させ、諸外国で農業生産をし自国の食料確保をしようという動きも指摘されている。
 インドは08年の農業生産は豊作だったと言われる。穀物需給は基本的に国内でまかなう。生産量は約2億トンで推移。経済発展とともに食肉の需要が伸びるとされるが、インドは宗教上の理由から菜食主義者も多く、経済成長とともに食肉の消費量が大きく伸びるという傾向にはない。ただ、人口増加によって穀物の需要量は1970年にくらべ2倍に増加している。都市と農村の格差拡大が大きな問題で07年からの5か年計画では農業分野の成長率を4%が目標だ。

(2009.01.21)