交通事故対策なども重要な事業の一環
協同の価値を伝える人材育成も
◆金融危機の影響は比較的大きくない
JA共済連代表理事理事長
今尾和實氏 |
白石 理事長に就任されて8か月経ちましたが、いままでの役員のときと比べて何か違いがありますか。
今尾 経営管理委員会制度があって、業務執行は経営管理委員会から理事会が任されています。このため、理事長は業務執行を経営管理委員から負託されているわけでその責任はとても重いものだと一番感じております。
白石 就任早々にアメリカ発の金融危機が発生しましたが、JA共済の資金運用などに与える影響についてはどうですか。
今尾 影響はありますが他の機関投資家と比較してそれほど大きくはないと思います。なぜかというと、株式や外貨建資産をあわせて運用資金の6%程度だからです。
白石 どういう運用の仕方をしているのでしょうか。
今尾 満期や共済期間中の万一の事故に対する掛金は責任準備金として負債勘定に入っています。これに見合うものは責任準備金対応債券として円貨建て債券で運用しています。これが8割以上を占めていますし、契約者への負債勘定は間違いなく安全です。今年度末のソルベンシー・マージン(支払余力)は、まだ確定はしませんが、昨年度末は879%でした。生保の第3四半期決算をみるとソルベンシー・マージンは大きくダウンしていますが、JA共済は800%を割り込むほどに落ちることはないと見込んでいます。このように金融危機が与える資金運用の影響はありますが、民間保険会社ほどは大きなものでないと考えています。
白石 平成17年に農協法が共済事業中心に一部改正されましたが、いまの課題は何だとお考えですか。
今尾 JA共済事業は、元々は農協元受、連合会再共済という制度でしたが、17年の農協法改正で共同元受になりました。共同元受になってもJAが基点だということに変わりはなく、契約者とJAの契約があってはじめてJA共済連と契約者との契約になるわけです。そしてJAの契約はすべてJA共済連につながるわけです。
JAが基本ですから、事業推進のあり方ではLA制度があってもJAごとの個性がでてくると思いますし、社会貢献活動の取組み方においても若干差が出てくるかもしれません。一方で、法令では時代の流れで契約者保護や契約者重視の対応を求めていることから、最低限果たさなければならない義務やサービスなどは全国一律です。協同組合らしさを失わずに全国一律の対応も実現させていくことが課題になっています。
◆3Q訪問活動とニューパートナー獲得は全JAの課題
白石 契約者保護という視点は従来から取り組まれてきたと思いますが、この秋に開催される25回全国大会、そして次期3か年計画に向けての新しい戦略はありますか。
今尾 全職員による一斉推進からLA推進に比重が移る中で、目標達成のために自分の年間行動量を考え、非効率なところには行かなくなるなど、組合員・利用者とのつながりの濃淡がでる傾向がみられたこともあり、現3か年計画では「3Q訪問活動」(全戸訪問)による原点回帰を打ち出しました。この活動に他部門の職員や各支店職員がどの程度参画するかはJAごとに違いますが、組合員・利用者へのアフターフォローや、接点を維持していくことはJA共済推進の基本ですから、この取組みは今後も継続していかなければならないと考えています。
白石 3Q訪問活動で組合員との結びつきを、さらに深めていくということですね。そういう意味では共済のLA担当だけのことではなく、営農担当職員がやってもいいわけですね。
今尾 本当は、3Q訪問活動を各JAの方針にしてもらえたらと思います。そして組合員の情報をLAにつないでくれればいいんです。
白石 JAにとって事業そのものは目的ではなく、組合員の営農・生活をサポートするためにあるわけですから…。それからニューパートナー獲得といいますが、これも共済事業だけのことではなくJAとして取り組むべきではないでしょうか。
今尾 3Q訪問活動とニューパートナー獲得は全国大会の課題ともいえますね。
◆すべての農協の事業を地域に広め組織基盤を強化
白石 農村人口の高齢化、法人経営や集落営農の増加、准組合員など非農業者の割合の拡大などJAの組織基盤が変わってきていますが、そのことを共済事業としてどうみていますか。
今尾 せっかく准組合員制度があるのだから、准組合員を増やして欲しいと思います。農業者を主体にJAはあるわけですが、准組合員の人たちもJAを利用したいと思って出資をして事業を利用しているわけです。逆に、出資をして地域のなかでもっとJAを利用していきましょうと働きかけをして欲しいと思います。これは共済事業だけではなく、全ての事業で広がりをもつことで、地域社会での存在価値を高めていくことになるためです。
白石 組織基盤が弱くなったから准組合員を増やそうとよくいわれますが、准組合員になる具体的なメリットがあって、初めて基盤を拡大できると思います。協同活動の一環としての事業の魅力ですね。
今尾 事業の魅力もそうですが、協同活動の価値を伝えていく職員を育てていくこともこの時代に忘れてはならないことだと思います。
白石 協同活動のリーダーを育てていかなければ、JAグループの将来は危ないですね。組合員の方が安心して暮らせる、元気な営農ができることに焦点をあてて組織基盤を固めていくことです。各事業がばらばらではなく、お互いに有機的につながっているということが大事ですね。深く知らなくてもいいけれど、LAの人たちは営農経済事業を理解し、営農の人もLAの仕事を知り、互いを学ぶということも大事です。
今尾 例えばLAであっても目標達成だけではなく、地域社会のあり方や組織基盤を考えるような人材育成をすることです。JA共済では、交通事故対策活動をはじめとする様々な社会貢献活動をしていますが、取組みをもっと伝えることが必要だと考えています。
◆LAを指導するLA管理者とトレーナーを各JAに
白石 普及推進の最前線にいるLAの皆さんに対して全国段階、県段階でどういうサポートをしているのでしょうか。
今尾 約2万人のLAに対して、県本部職員が講師となり、そのLAを研修する体系はできています。いまの課題は、さらにLAにレベルアップしてもらうために、各JAにLAを指導するLA管理者とトレーナー体制をしっかりしたものにしていかなければと考えています。
白石 この人たちの役割はどういうことですか。
今尾 トレーナーの役割は新人を中心にLAをOJTで指導することです。また、LA管理者はJAのLA全体のマネジメントをするのが役割です。
◆自信をもって共済事業を伸ばしてください
白石 最後にJAグループの役職員に対してメッセージをお願いします。
今尾 JA共済の共済金支払いについては、あらゆる生損保と比べても万全な体制をとっているので、確信をもって組合員・地域の方々に保障を提供していただきたいと思います。JAにはモラルリスク以外に共済のリスクはありません。経営リスクはすべてJA共済連が負っていますし、冒頭でもご説明したように安全な運用をしています。JAが事業を伸ばせばJAの経営に寄与できる仕組みになっていますので、ぜひ自信をもって共済事業を伸ばしていただくことをお願いしたいと思います。
白石 全国本部の共済連職員は現場を知らないという指摘がありますがその点は…
今尾 現場に近い感度が必要なので、いま約140名の全国本部の職員が県本部に異動しています。一方で、資金運用や料率設計、システム開発などはその分野の専門家が必要だと考えています。しかし、自分の職務が何であれ寒空であろうと暑い夏空であろうと、お客さんを訪ね歩いているLAの方々に、思いを馳せながら仕事をしていくことが必要です。人の苦労や痛みを共感できるのが協同組織人であると私は思っています。
白石 今日は貴重な話をありがとうございました。
インタビューを終えて |