総合的な直販事業を展開するためのコーディネーターとして
◆生協・量販店向けと消費者に接近した事業を展開
木村龍夫
全農大消費地販売推進部長 |
JA全農大消費地販売推進部(販推部)の仕事について木村龍夫部長は、一言でいえば「総合直販事業への取組み」ということになるが、大きくは次の3つの取組みから成っているという。
一つは、主要生協や量販店などの重点取引先に対して、単一品目ごとの対応ではなく、米・青果物・畜産物・加工など複数品目による総合的な提案を行うことなどによって、JA全農グループ一体となった直販事業の対応力を強化していくことだ。
二つ目は、直営店舗やレストラン、直売施設など、消費者に直接対応する販売機能の強化と地産地消などの取り組み。
そして三つ目が、Web上で国産農畜産物を販売するJAタウンの取り組みだ。
一つ目の生協・量販店など実需者に対する取り組みだが、後の二つは、店舗などとWebという業態の違いはあるが消費者と直接触れ合う事業だといえる。
とくに生協・量販店との関係では、米穀・園芸農産・畜産物といった個別品目ごとの対応ではなく、それらの品目を含めた総合的な対応を求められることが多いため「そのコーディネーターとしての役割が販推部に求められる」ことになる。
現在、全農本所の販売事業については、図のように各事業ごとに会社化されているが、これらに「横串をさして」全農グループとして生協や量販店に提案をしていく、あるいはさまざまな要望を受けて全農グループとしての対応をコーディネートし「総合販売」を展開していくということだ。
◆高まる消費者からの国産への期待
全農は「新生プラン」にもとづく「3か年計画」を19年度から実施しているが、そのなかで、業務・機能を見直して「選択と集中」によるスリム化と効率化を追求しているが、販推部においても「個々の業務を見直し、強化するもの、従来どおり維持していくもの、縮小するもの」と方針を明確にして20年度は取り組んできた。
しかし、量販店などへの販売促進活動については「全農フェア等の販促企画に特化」することにしていたが、「中国産冷凍ギョーザ事件」などによる「安全安心」を求める消費者ニーズの高まりを受けて、取引先からも国産農畜産物をアピールした販促企画を求める動きや、自給率向上の動きが強まった。こうしたなかで、全農グループ直販各社も「国産拡大方針を強化」し、今年度3月末まで予定を上回る16取引先で25回の全農フェアを開催するなど、「想定外の嬉しい出来事もあった」。
◆前進した生協との協同組合間提携と飼料米・米粉の取組み
客数も売上げも伸びている「JA全農のお店」
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全農の直販事業で大きなウェイトを占めているのは生協だが、20年度は「協同組合間提携」を含めて新たな動きが起きた年だといえる。
その一つが、コープネット事業連合およびその加盟生協とコープネットエリア内の全農8都県本部が参画する「8都県JA連絡会」が20年12月に設立された。販推部はその事務局として活動しているが、今後も2か月に1回、継続的に定期協議会を実施し、事業面や組織活動面での課題別進捗状況を確認し、情報交換を行っていく。また、今年中には「8都県JA連絡会」としてシンポジウムを開催することを予定している。
もう一つの大きな動きが、「自給率向上を目的とした具体策企画の推進」だ。具体的には、いままで生活クラブ生協で取り組まれてきた飼料用米の取り組みが、19年産米ではパルシステム生協連が、20年産米からはコープネット事業連合が、さらに21年産米からはユーコープ事業連合も取組む予定で大きく広がってきている。また、現在は豚への給餌だが、鶏肉や鶏卵へという検討が進められているものもある。
自給率向上や水田のフル活用という観点から、飼料用米とともに「新規需要米の作付拡大」として注目を集めているのが米粉原料米だが、全農では販推部が事務局となって、園芸農産部・米穀部・営農総合対策部・生活部による「米粉事業検討会」を設置し、実需者のニーズを把握し、生産・流通・販売まで、ひとつひとつ商品化をすすめることをめざしている。
米粉事業は、単純に小麦を米に置きかえるのではなく、小麦とは異なる超微粉化などの新技術による米粉化が必要で、「コスト」を含め商品化、事業化は簡単ではない。生協関係では自給力アップの位置付けから、需要も高く、パン、めんでも「継続的な展開を視野に入れて諸条件の課題を解決」して具体的な商品化をすすめていく。
そのほか、国産冷凍サトイモなど国産原料(青果物)の加工品の取り組みもすすめているが、今後も「幅広い品目提案を行い、供給拡大をめざしていく」ことにしている。
国産鶏種のはりま振興協議会(鶏肉)、青果物補強プロジェクト、種子と農法検討会など従来からさまざまな分野で提携関係にある生活クラブ生協とは、今後も引き続き事業が継続されていく。
とくに生活クラブ生協はNON・GMO(遺伝子組み換えではない)原料(トウモロコシ、大豆粕、なたね)、国産自給飼料(飼料用米等)の推進を重要な政策と位置づけているので、畜産生産部や園芸農産部など関連部署と連携して引き続き対応していく。
21年度も主要生協との各種協議会運営や産地交流会の企画運営の組織活動に直販グループ会社と役割分担しながら積極的に参画し、国産農畜産物の取扱拡大に取り組んでいく。
21年度の量販店との取り組みとしては、全農フェアや「よい食プロジェクト」、新販促資材「国産まるかじり」などを用いた販促企画をすすめ、国産農畜産物の販売拡大に取り組んでいくことにしている。
全農フェアについては、安心システム商品など全農グループ商品を中心に3部門品目以上での開催を進める。21年度については20取引先・1000店舗での開催をめざしていく。
◆ポケットファームどきどき2号店やJA新ビルにレストランを開店
量販店での全農フェア
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店舗やレストラン、直売所など消費者と接近した事業としてはまず「JA全農のお店」(東京・吉祥寺)がある。この全農のお店は武蔵野市という都市住宅地にあり、国産の農畜産物にこだわった64坪の直販店舗で、経営的に厳しい面はあったが、吉祥寺という土地柄に徐々に受け入れられてきたことと、国産農畜産物を求める消費者ニーズの高まりによって、20年度は客数で前年比111%、売上額で前年比116%と伸ばしてきており今後も経営改善を進めながら進めていくことにしている。
また茨城県本部が運営している体験複合型ファーマーズマーケットの「ポケットファームどきどき」については、年間延べ60万人が来店する規模となり、「地産地消」を通しての地域農業活性化に大きく貢献している。これを県内他地域に拡大するために、22年4月に2号店を茨城県牛久に開店することを決定し、設置の準備に入っている。
さらにここで蓄積されてきたノウハウを活かし、他県域の開発支援に活かしていきたいと木村部長は考えている。
この5月には、新JAビルが竣工し、現在の大手町にあるJAビルから全農、全中が移転するが、この新ビルに全農直営のレストラン「ラ・カンパーニュ」を出店することを決め、専任者をおき開店準備をすすめている。このレストランは、都市オフィス街に設置されるので都市の人たちに「食べること」を通して、農業や産地の情報を発信することで、全農の掲げる「懸け橋機能」の効果測定を行うという目的もある。
◆国内でも有数な食品モール「JAタウン」
もう一つの消費者と接近した事業である「JAタウン」については、ここ数年順調に取扱高を伸ばしてきており、20年度は5億円を突破する。21年度については、現在の90店舗を100店舗に拡大することでさらに品揃えを充実させ、年間取扱高7億円を目標に取り組んでいくことにしている。
将来的には取扱高10億円、年間延べ訪問者数4000万人(現在2000万人)が目標だ。
ネット上のショッピングモールはさまざまあるが、食料品だけに限定してみればJAタウンは、国内でも有数なモールに育ってきているといえる。
◆全農グループ直販事業で1兆円を目標に
いままでみてきたような取引先や消費者への国産農畜産物の販売を促進すると同時に、全農グループ各事業部門・グループ直販会社間での情報の共有化をはかることも販推部の重要な役割だ。そのため、グループ直販会社社長会議を年2回、地域別営業部長会議を年8回開催したり、国産農畜産物の消費拡大にかかわるグループ会社間での情報を迅速に伝達するメールマガジンの発行を行っている。
木村部長は、「景気が低迷し消費が冷え込み、食料品についても低価格を求めるニーズが高まるなかで、国産農畜産物をどう販売していくか」が、21年度の最大の課題だと考えている。しかし、ここまでみてきたような施策を着実に確実に実践することで、国産のシェアを確保・伸展することができるとも考えている。
そして、全農本所・県本部、全農50%以上出資子会社(一部例外もある)を合わせた全農グループの直販事業は、19年度9450億円だが、21年度については上記施策の実践と生協・量販店を中心とした新規取引先の拡大や新商品の推進を進めることで、「1兆円を目標」(直販比率22%)に取り組むと木村部長は力強くインタビューの最後を締めくくってくれた。
この1年も全農販推部から目を離すことはできないようだ。