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JA全農 米穀部特集

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地域実態に応じた米穀事業の方針策定と着実な実践を

今後のJAグループ米穀事業の方向と21年産米生産・集荷・販売に係る基本方針

 JA全農はJAグループの米穀事業の展開方向について、「今後のJA米穀事業の方向と21年産米生産・集荷・販売に係る基本方針」をこのほどまとめた。
 これをもとにJAグループでは各県域で十分に協議し「地域実態に対応した生産者・JA・連合会が結集できる県域方針」を策定し、確実に実践することとしている。そこで県版の「21年産米生産・集荷・販売対策」の策定に資するよう本特集では全国段階の「基本方針」で示されている米穀事業を取り巻く状況認識と、今後の対応方向の柱などついて解説する。

今後のJAグループの米穀事業の方向
実需者との結びつき強化が生産者手取り向上実現の道

◆価格・手取り実現のための基本課題とは?

 平成16年の食糧法の改正によって、米の流通は原則自由となり販売ルートは多様化、複線化している。
 こうした環境変化のなか、JAグループには生産者手取りの最大限の確保をめざしたさまざまな取り組みが求められているが、「基本方針」では、その取り組みについて「販売先(実需者)と数量・価格を決定した契約を締結し、これに基づき米の生産・集荷・販売を行うことが、結果的にわれわれが求める価格・生産者手取りを実現するための道筋である」と強調している。
 また、JAグループの米取り扱い数量の考え方についても、生産段階での作柄などの変動要素を「契約の徹底により極力少なくする」と同時に、一方では販売先との関係構築を進めて「核となる数量を確実に押さえ、それを基盤として事業を構築・拡大していく」といった着実な取り組みが必要なことを指摘している。
 こうしたJAグループの米穀事業の姿を実現するための具体的な事業課題には2つの柱がある。
 1つは「実需と結びついた玄米販売の強化」であり、
もう1つが「東西パールライス会社を中心とし全農本体と一体となった量販店・業務用への精米販売の強化」である。
 これらの販売機能を発揮するためには、販売を起点とする考え方に立ち、販売先との協議に基づくニーズを数量・価格を含めて生産者・JAに提案する、提案を出荷契約に連動させ確実な集荷・販売に結びつける、といった生産から販売までを一連のものとして捉えることが重要であり、そのためには生産者・JA・連合会が機能分担をして結集することが求められている、というのが米穀事業の基本的な考え方だ。以下、生産から販売までの米穀事業をめぐる状況と対応方向について紹介する。

◆販売計画の精度を高める販売先との事前協議、出荷契約の締結

 JAグループの米穀事業の課題のひとつとして、出荷契約の確実な実行が挙げられてきた。
 これまでしばしば出荷契約数量と集荷数量に差が出る事態が指摘されており、その原因には生産者の契約意識の問題、作柄の変動、他業者の動向などもあるが、需給動向によっては、未契約が発生し古米処理を余儀なくされたり、逆に契約数量に見合った米が確保できないという事態も懸念される。
 こうした問題を解消し確実な販売を実現するためには、連合会の持つ取引情報や需要情報をJAを通じて生産者に示し米生産に反映させていく取り組みの「継続」と「徹底」が必要になる。
 そのうえで出荷契約数量と集荷数量を日常的に管理し、そこに差異が生じたとしてもそれを極力少なくし、また原因が特定できるよう「JAとの連携」が求められる。
 また、販売先との契約では、播種前・収穫前の早い段階から積み上げ、それを裏づけとしてJAと出荷契約を締結、確実な集荷・販売計画となるよう策定することが必要になる。こうした取り組みにより販売計画の精度を高めることが求められている。
 また、数量・価格を含めた販売先との協議と連動した出荷契約数量を着実に増やしていけば、生産者に支払う概算金もこの取り組みをベースに設定することが可能になる。いわば概算金の根拠が明確になることから、JAを通じてJA全農へ出荷している生産者のリスクは少なくなるといえる。
 そのため販売先と結びついた出荷契約に基づく概算金と、それ以外の出荷に対する概算金を区分する手法の導入も検討することが必要になる。また、連合会としては委託共計による取り扱いだけでなく、委託非共計や買い取りによる取り扱いについてJAごとに区分した取り扱いの拡大も課題となる。

◆主体的な価格形成をめざす

 米生産者からは再生産可能な販売価格の実現が強く求められているなか、20年産でJA全農は、出来秋は売り手として希望する水準で相対価格を設定、居所修正を行う場合にコメ価格形成センターでの上場を行って入札指標価格を相対基準価格に適用する方法をとった。
 卸売業者からはコメ価格センターでの入札取引を求める声もあるが、買い手として入札に積極的に参加する実態にはないことから、今後も、出荷契約数量を確実に集荷に結びつけ、数量の裏づけをもって価格形成に臨む相対取引を米取引の中心とするのが基本方針だ。
 同時にJAに対しては相対販売価格や契約進度などを情報伝達することを徹底する。また、生産者に対するナラシ対策(収入減少影響緩和対策)などの政策価格については、コメ価格センターの指標価格ではなく、農林水産省の公表する相対価格を基準とするようJAグループとして検討を進めるほか、市場の客観的な評価や価格動向を確認することができる何らかの仕組みをつくることも検討事項としている。
 一方で、全農としての販売については実需者を念頭に置いた玄米販売とパールライス事業の強化が不可欠としている。
 販売先は卸業者が主体ではあるが、現実の流通で消費者に提供しているのは量販店、コンビニ、外食・中食産業といういわゆる実需者。これら実需者の動向を把握することは末端の消費動向を知り、生産者・JAに的確に情報提供できるだけでなく、再生産価格が確保されてこそ、安定した生産・流通が可能になるという生産現場の実態を末端に訴えることもできる。
 こうしたことから玄米販売でも実需者対応を意識した販売推進に力を入れ、大手実需者メリットを打ち出すなど販売の仕組みの転換を図る。また、精米については、産地精米工場でのとう精による精米流通の拡大をすすめるともに、東西パールライス会社を中心とする全農パールライスグループによる精米販売の拡大にも取り組む。

◆JAを基本、地域実態に応じた事業展開をすすめる

 こうした方針のもとに販売戦略を組み立て実行することが求められるが、生産面では需要に応じた生産ととともに、引き続き安心・安全の確保が重要になる。
 これまで生産履歴記帳運動をベースに、種子更新・農産物検査を要件とする「JA米」に取り組んできた。この結果、生産履歴記帳については多くの産地で取り組みがすすみ、「JA米」は全農の扱う米の相当量を占めるに至っている。
 また、県によってはJAと協議し、基本的なJA米要件に加えて、対象銘柄や等級、品質に着目した独自要件の設定も行われており、この取り組みには多様化も進んでいる。
 さらに米流通ではトレーサビリティシステムの導入が今後制度化される見込みになっているとともに、残留農薬、異品種混入(コンタミ)への対応も課題となる。
 安全・安心の確保がますます求められるなか、JAグループの米穀事業ではJA段階の取り組みの高度化が必要になっている。こうしたことから基本方針では21年産米以降も、「JA米」の取り組みは継続するものの、全国一元管理とはせず、(1)生産履歴記帳、(2)種子更新、(3)農産物検査受検を基本要件としつつ、JA・県域単位の独自要件を加えて、販売単位ごとに自主ルール、管理方法を定めることとしている。
 また、将来的に農産物検査規格のような全国共通規格がなくなったとしても、DNA鑑定、残留農薬対応も含めた自らの取り扱い規格を検討するなど、取り組みのレベルを高度化することも必要だとしている。
 そのほか、JA全農としては、これまでも行ってきた農家経営の厳しい現状や、水田フル活用による自給率向上への取り組みなど米生産現場への消費者の理解促進と米の消費拡大をめざし、広告宣伝活動の取り組みも継続する。 (関連記事)

(2009.04.07)