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福祉、温泉、野菜工場... 多彩に展開

現地ルポ JA佐久浅間(長野県)

 JA佐久浅間地域といえば、県外からの外来患者や医師就職希望者が多く、「医療で町おこし」を願う地元にも支持されている佐久総合病院(JA長野厚生連)が全国的に有名だが、同JAとしてはそのほかにも温泉施設の経営や野菜カット工場でのオリジナリティ溢れる加工品生産など、非常にユニークな取り組みを手がけている。

◆福祉をJAの基幹事業に

長野県全体の人口は減少傾向にあるが、佐久市は近年人口が増えている。「医療で町おこし」の試みが成功を収めているのが要因のひとつだ。
佐久総合病院は病床数1000を越える全国有数の総合病院だ。高度な専門医療を実践する一方で、「農民と共に」の精神で地域密着型の医療を目指している。平成17年にはドクターヘリも導入し、さらにカバー地域を広げた。
JA佐久浅間では厚生連と連携して福祉事業に力を入れている。集団健康診断や、寝たきり予防の福祉活動などに取り組んでいるほか、4つの福祉拠点を構えてデイサービスやホームヘルパー派遣などにも積極的だ。
福祉事業以外の地域貢献活動も数多く手がけるが、なかでも非常に珍しいのは、温泉施設「あぐりの湯こもろ」の運営だろう。

◆「あぐりの湯こもろ」JA経営の温泉施設

浅間連山を一望できる「あぐりの湯こもろ」
浅間連山を一望できる「あぐりの湯こもろ」

これは小諸市の農村資源活用策として、JAが経営を委託されている温泉施設だ。
11年10月に誕生し今年で10周年。標高700m、見晴らしの良い台地に3000m2を構え、休憩所・浴場などからは浅間連山の雄大な風景が楽しめる。施設内に福祉風呂も用意され体の不自由な人でも温泉と眺望が楽しめるのは、福祉事業に力を入れているJA佐久浅間ならではの施設だ。
年間24万人が訪れ、売上は2億5000万円。15km以内には同様の施設が20か所以上乱立しているが、「あぐりの湯こもろ」はここ2年ほど売上を伸ばしている。支持されている理由は、施設内に直売所、加工所などを設け、新鮮で美味しい地場産品が楽しめるからだろう。

施設内には直売所や農業展示コーナーがあり、「みんなのよい食プロジェクト」ののぼりも目立つ
施設内には直売所や農業展示コーナーがあり、「みんなのよい食プロジェクト」ののぼりも目立つ

施設内のレストランでは、小諸市特産で一般にはほとんど流通しない名産品「白土馬鈴薯」が食べられるほか、JA女性部が施設内で加工している「いちご大福」も目玉商品。大きなイチゴを贅沢に使った大福は、新鮮で作りたてだからこそ実現できるジューシーな味わいが人気だ。
小諸高原は日本の純国産イチゴの発祥地でもある。同施設には「こもろ布引いちご園」が隣接されていて、1〜6月にはイチゴ狩りも楽しめる。

◆外食産業とともに成長した野菜工場

野菜加工工場の様子。選別、トリミング(芯抜きや虫の除去など)以降は、全て自動ライン化されている
野菜加工工場の様子。選別、トリミング(芯抜きや虫の除去など)以降は、全て自動ライン化されている

野菜は新鮮さが一番だ、と高原の採れたて野菜をすぐに加工して出荷する野菜加工工場も特徴的な事業の一つだ。
同工場はJA佐久浅間の前身である小沼農協時代、ファストフード店など外食産業が発展し始めた昭和55年に、業界のニーズと高原野菜生産者のニーズを結びつけるため、カット野菜の試験工場を建設したことで始まった。現在は野菜加工開発センター、野菜加工工場、ジュースセンターの3工場が稼動している。

カット野菜のパックを手にする小井土センター長
カット野菜のパックを手にする小井土センター長

工場設立後すぐにファストフード店との業務提携を結び、業界の急成長とともに工場も躍進。現在では加工品の9割ほどが契約出荷であり、3工場合計で年間19億円ほどの売り上げをほこる。
選別と下処理は人の手によるが、それ以降の洗浄・計量・箱詰めなどは全て自動ライン化。安定した生産力、品質管理、省力化を実現しつつも、用途に併せて40mmカット、6mmカット、千切り、角切り、ミックスパックなど、様々なオーダーに対応できるのも強みだ。

◆レタスで作る「酢」「焼酎」

同工場の特徴は、決して野菜を無駄にしない点である。
カット工場での歩留まりは約5割。半分は廃棄になってしまうが、その廃棄分を使ってさらなる加工品を作る施設が、工場に隣接して15年に竣工したジュースセンターだ。
レタスの芯や除去部分などは工場からジュースセンターに送られ、搾汁・濃縮・殺菌などの処理を経て「レタ酢」や「レタス焼酎ちしゃ」など、JA佐久浅間管内でしか手に入らないオリジナル商品へと姿を変える。
さらにこのジュースセンターでも出る残さは、同センター内の破砕・乾燥・炭化プラントで土壌改良剤などに加工される。
製造工程のゼロエミッション化を実現した同施設は、環境へ配慮した工場でもあるのだ。

JA佐久浅間はこれらユニークな取り組みのほかに、男女共同参画づくりや広報誌づくりでも、その活動が評価され優績JAとして表彰されることが多い。
地域住民との共生、地域資源の活用、独自の産品づくりなど、多彩な事業展開を実現している。

(2009.04.21)