◆営農経済をコアに総合事業として地域社会とどう関わっていくか
――計画生産をするなかで農家組合員が結集している農協がどう役割を果たしていくか、指導力を発揮するかが問われることになる思います。
しかし、全国のJAをまわってみると、広域合併していますから、単一の地域農業ではなく異なった構造を持つ地域農業を抱え込んでいます。そのことをきちんと意識した上でそれぞれの地域農業の展開方向について明確な振興計画をもっているかどうか。わが農協は組合員とこういう農業をやりたい、地域の食はこうやって保障したいという明確な指針をもっているかどうかが問われています。
安田 JAの役員は、一時期、経営が苦しいこともあって、単年度の収支でどれだけ当期剰余をあげていくかなどの経営課題を追求せざるを得なかったために、JAの基礎である組合員や地域の特性に応えうる体制になっていないかもしれません。
いまは、農業協同組合のコアの部分である営農経済を強化し、地域コミュニティーへの参加を通じて、信用・共済も含めて一体化した総合事業としてどう関わっていくかが問われていると思います。つまり、農協運動の原点にたって見直すことが、大事な時期だと思います。
◆多様な農業者と地元の消費者が地域農業を支えていく
――大会議案を読むと「多様な農業者による新たな協同の輪」とか「多様な農業者」という表現がでてきますが、これは初めてのことですか。
安田 組織内の議論ではありましたが、こうした文書では初めてかもしれません。
国は担い手に集約して4haとか20haとかいいますが、実際に担い手に集約されている面積は30%程度です。それで集落の用水とか農道とか守れるのか、地域の農業が守れるのかといえば守れません。1haでもいいから意欲ある人は担い手ですし、それはお年寄りでもいいんです。
――JAグループは担い手問題では集落営農ということでがんばりました。そして今回の大会議案では、小規模農家・自給的農家・青年農業者・新規就農者・定年後帰農者を含めて「多様な農業者」を明確にしたことの意味は大きいと思います。
安田 いまの農業の実態からいえば、生産者だけが農業者ということではないと思います。地域の農業ということで考えると、多様な農業者と地域の消費者も含めたみなさんが地域の農業を守るという立場に立っていただくことが大事です。
そして、地域で採れたものは地域で消費する地産地消で地域農業を守り、地域社会を活性化する運動を国民全体でどう取り組んでいくかです。
――地域の農業は都市近郊の農地をしっかり守らなければ、まともな都市にならないという運動があります。例えばイタリアのスローフード運動や、アメリカの全国いたるところにCSA(コミュニティー・サポート・アグリカルチャー)とか、市民農協とでもいいますか、シビックファーミングというものです。
安田 都市は何で都市として機能し栄えているかといえば、中山間地がきちんと治水や環境を守っているからです。中山間地が荒れていたら都市機能は麻痺してしまいます。
――大会議案の中には「総合性の発揮による地域貢献」という項があり、「組合員、地域住民の生活の総合的支援」という表現がありますが、共済事業を含めた地域貢献についてどうお考えですか。
安田 言葉だけなら簡単ですが、地域に活力を与えられるかどうかですが、その地域によってやることが違います。
特産品を含めて営農経済活動をどう活発化するかと考えると、生産だけでは難しいので、一定のロットを確保して加工・販売まで付加価値をつけて生産者に還元していかないといけません。そういうときには異業種とも提携しなければいけませんし、信用・共済がどういう機能を発揮しうるかです。信用事業は経済の血液としての役割があります。
◆農家経営を守るために農産物対象の共済を検討
――共済事業については…。
安田 共済については、農産物の安全・安心を含めて加工・流通についてJA共済として仕組提供できないかと考えています。これは、安全・安心についてはポジティブリスト制度などで意図しないリスクがあり、万が一の事が起こると経営自体が崩壊する危険性がありますので、相互扶助精神でそういうリスクからどう守っていけるかということです。
――6次産業といわれるように、加工食品など付加価値をつけていくわけですから、これは大事なことですね。
安田 農産物の加工・流通分野だけでなく農家民宿の経営など、農業や農家に関連するリスク保障の市場は広いと思っていますが、一気にはいかないので少しずつでもカバーできればいいと思っています。
――量販店の価格政策をどう突破していくか。そのために付加価値をどうつけるかが勝負ですから…
安田 全国どこへいっても地場のマーケットはみなやられ、大型スーパーに総合商社がついて低価格路線を走っています。それで本当に食の安全・安心は守れるのですかといいたいですね。安全・安心のためにはコストがかかりますから、これを生産者・流通・消費者の三者で負担しあうという考えがもたれないと、先ほど申し上げた地域社会の活性化は実現しないと思います。
――量販店支配が強まる中で、まず魚屋・果物屋・八百屋といった小売商が壊滅し、ここにきてローカルなスーパーが苦しくなってきています。そのためローカルなスーパーが仕入れていた地方卸売市場が存亡の危機に陥っています。
安田 これも規制をどんどん緩和した結果です。以前は、卸売市場で1〜2割しか先取りできなかったのに、いまは8割以上が相対など先取りで、セリにかかるのは15%程度です。これで本当に需要と供給のバランスの中に市場価格があるのかどうか疑問です。
卸売市場法が改訂されて手数料が自由化されました。優良な産地の手数料は安くし、たまに持ってくる産地は高くするとか…。こういう市場原理主義による流れが地域自体の活力を失っていく要因でもあると思います。
◆JA共済がいかに地域に貢献できるかを考え行動を
――最後にJA共済事業に取り組んでいるJAの役職員の方々へのメッセージをお願いいたします。
安田 金融・経済危機とそれが実体経済へ大きな影響を及ぼしており、JA共済事業にとっても厳しい環境だといえます。このような環境下だからこそ、JA共済としては契約者やJAに貢献するために、割戻しや配当を昨年度同様の水準に維持したいと考えています。
また、この3か年計画で総合事業の一環として取り組んできました「3Q訪問活動」(全戸訪問活動)を内容のあるものにすることが必要だと考えます。
この活動は、JAが総合事業である以上、これからも継続していかなければいけない取り組みであり、今年度は3か年の最終年度という大きな節目ととらえ、ぜひともこの運動にしっかり取り組んでいただきたいと思います。
そしてそのことで、組合員・利用者や地域の人たちの信頼を深めることで、JA共済へのニーズをどんどん発掘していけると私は考えています。
発掘されたニーズに的確に応えて、商品の仕組みや制度を変えていくなど、地域に貢献する視点からお互いに共同責任者としてしっかりした取り組みを進めたいと考えています。
――若いJA職員にとって、「3Q訪問活動」はお客さんを訪問してとにかく説明をしなければいけないわけですから、自己研鑽・自己陶冶の訓練の場として大変いい場ではないかと思いますね。
安田 基礎的な知識を持っていても、その応用ができないとなかなか対応しきれないわけです。そういう意味で、インストラクターによる人材育成などに現場でスピード感をもって対応してもらいたいと考えています。
――総合農協の総合性を発揮することで地域に貢献するという非常に重要なことですね。
安田 安全・安心だけではなく量とか価格とかいろんな形で農業を営むには様々なリスクがつきまといます。そういうリスクに共済事業としてどうセーフティーネットが張れるのか、展開の仕方によっては大きな拠所になれるし、ニーズも高いと考えています。
――今日はありがとうございました。
インタビューを終えて |