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JA全農の肥料農薬事業

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情勢の変化に柔軟に対応して生産者の期待に応える 「JA全農の肥料農薬事業」

JA全農肥料農薬部 山崎周二部長に聞く
◆3つの柱で肥料高騰に対応
◆肥料価格全体では下がるが需給逼迫の硫安は輸入で対応
◆行政とも連携してPKセーブ推進を徹底

 20年度の肥料・農薬事業は、生産コストの低減が大きな課題となるなか、肥料原料価格の高騰とそれへの対応など変動の大きな年だったといえる。そうしたなか、農薬の大型規格の拡大、肥料の低成分銘柄の開発と土壌診断に基づく施肥抑制など、生産者の期待に応えるべく、柔軟な対応をしてきた。そうした1年を振り返るとともに今後の課題について山崎周二全農肥料農薬部長に聞いた

JA全農肥料農薬部 山崎周二部長に聞く

◆3つの柱で肥料高騰に対応

JA全農肥料農薬部 山崎周二部長 ――昨年度は肥料価格が高騰するなど大変な年だったと思いますが、改めてどのように対応されたのかお聞かせください。
 山崎 肥料原料の価格が高騰しましたが、それに対して3つの柱で対応しようということにしました。
 一つ目の柱は、肥料原料を安定的に確保することです。そのためにベトナムのリン鉱石を新規で長期契約したり、チェニジアからのリン鉱石の輸入にトライするなど、肥料原料の輸入元の多元化をはかりました。
 二つ目の柱は、施肥コスト抑制対策です。これは現場で土壌診断をきちんと実施して、その診断結果に基づいて余分な肥料は施肥しないということです。具体的には、「PKセーブ」という全国共通の低成分銘柄をつくって普及する取り組みをしました。
 これについては、本所だけではなく県本部・経済連にも「施肥コスト抑制対策本部」を設置し、土壌診断などの実施計画を策定して取り組みました。
 三つ目の柱は、物流対策です。具体的には、広域配送拠点を増やしていくことですが、20年度には8か所増えて、現在は113か所となっています。
 ――土壌診断には相当力を入れていますね。
 山崎 地区別に全国9か所に広域土壌分析センターを新たに設置しました。
 ――すべて稼動したのでしょうか。
 山崎 4月1日で全センターが稼動しました。先行して広島と岩手が稼動しましたが、近県を含めてかなりの数の診断要請がありました。

 

肥料価格全体では下がるが
  需給逼迫の硫安は輸入で対応

 ――肥料の原料価格は今年度に入って落ち着いたのでしょうか。
 山崎 尿素、リン安はほぼ高騰前のレベルまで下がってきました。カリとリン鉱石は高止まりです。そして唯一の国産原料で、単肥で生産者が使ったりする硫安(大粒)は非常にタイトになってきています。
 なぜかというと硫安は鉄や化学繊維を製造するときにでてくる副産物ですが、景気後退で鉄も化学繊維も減産しているために、硫安も量がでてこないからです。そのため20年度は緊急に初めて2万トン輸入しましたが、今年もおそらく6万トンくらい輸入しないと足りないと予測しています。そのため大粒の硫安だけは他の肥料のように価格が下がりません。
 ――品目によってまちまちというわけですね。
2704_4_01.jpg 山崎 原料情勢が、カリやリン鉱石は高止まり、尿素やリン安は下がるという別々の動きをしていること、大粒硫安のように特定の品目が需給逼迫していることから、複雑なことになります。しかし、トータルとしては21肥料年度は値下げになると思いますが、生産者のみなさんのために肥料メーカーとの交渉で、がんばっています。
 ――交渉の目途はいつごろですか。
 山崎 6月中旬ごろです。

 

◆行政とも連携してPKセーブ推進を徹底

 ――低成分銘柄肥料の「PKセーブ」の普及状況はどうですか。
 山崎 JA段階で施肥設計や注文書にきちんと「PKセーブ」などの低成分銘柄をいれたところは、まだ全JA4分の1くらいですので、今年度は全JAで施肥設計と注文書に「PKセーブ」を明記してもらうよう徹底しなければいけないと考えています。
 ――普及が遅れている要因は何ですか。
 山崎 都道府県ごとに策定される施肥基準で減肥基準が明確になっているところがまだ28県だからです。農水省も検討会を設置して施肥基準の見直しをしていますから、行政と連携して進めていくことになります。
 土壌診断をきちんと行い、それに基づいて余分な肥料は施肥しないという取り組みを徹底し、農家の生産コストを抑えていく取り組みが重要です。

 

◆新たな水稲除草剤を共同開発

 ――農薬についてどうですか。
 山崎 農薬については、14年ぶりに価格が値上がりしました。
 ――担い手に対する対策も大きなテーマになっていましたが…
 山崎 その通りで、一所懸命に取り組みました。肥料では満車直行に取り組み、4万5000トンの実績をあげました。
 農薬では大型規格品の拡大に努めました。大型規格について「行動計画」では60品目となっていましたが、203品目にまで拡大しました。販売量も増えていますので、これをさらに拡大していこうと考えています。
 これらの担い手対策ではTACが定着しはじめて、その効果が出てきている結果だと思います。
 ――品目も量も増やしていこうということですね。
 山崎 そして農薬で今年度大きな話題は、バイエル・北興化学と全農の3者で原体の共同開発をしている水稲除草剤の新剤・AVH301の登録を取得し、平成22農薬年度から供給開始する見通しであるということです。
 ――これはどういう剤ですか。
 山崎 以前に共同開発したMY100はヒエ剤でしたが、今度のAVH301は広葉剤ですから、この二つを組み合わせれば、ほとんどの水田雑草に効果が発揮できることになります。

 

生産資材店舗・直売所を支援するシステム

 ――広域物流の強化も柱になっていますが具体的には…
 山崎 本所の肥料農薬部に担当部署を設置して生産資材店舗への取り組みも強化していきます。
 最近、JA段階では生産資材店舗と直売所が併設されるケースが増えてきているので、そうした店で「誰の作った、どんな品目が、どれだけ売れたか」という実績管理をしたり、店頭から品物がなくなると生産者の携帯電話にメールで補充の要請をする「豊年万作くん」というシステムを開発し普及しています。これについても強化して、資材店舗だけではなく、直売所についても支援していこうと思います。
 また、広域物流実施JAを拡大して、物流コストの削減を図っていきます。広域物流実施JAは、20年度は新たに13JAが増え、累計164JAとなりました。

 

◆年2本価格など新たな肥料供給体系へ移行

 ――先ほど肥料価格は今年は下がるというお話でしたが、長期的に見た場合はどうでしょうか。
 山崎 いまは世界的に経済が冷え込んでいるので肥料も下がっていますが、基本的には世界の食料は増産が必要ですから、肥料は上がっていくと思います。
 そういうことを考えて、「肥料新運動」といっていますが、22年からですが、価格を年間2本体系にして柔軟に対応できるようにすることと、農家予約をきちんと全農につないでもらうことによる一貫事業体系を柱とする新たな肥料供給体制へ移行します。
 ――肥料事業の大改革ですね。
 山崎 これだけの変化がありましたから、変えるべき時期だと思います。今年、三菱化学アグリとチッソ旭肥料が事業統合することを発表しましたが、19年は日産化学工業と三井東圧肥料が統合してサンアグロが誕生し、昨年は宇部興産農材など三菱商事系5社が合併しています。
 今年は初めて系統メーカーで大型合併がでるなど、メーカーも再編していかないと持たない状況になってきています。再編はこれで終わりではなくて今後も進めて欲しいと思います。
 なぜなら1社ごとの合理化はもう限界ですから、合併してもう1段合理化してもらってコストを下げて欲しいからです。そして、強い会社になってもらわないと、新しい商品の開発も難しいからです。

 

◆日本農業に寄与できる強い肥料・農薬業界へ

 ――そうするとBB工場の再編も必要ですか。
 山崎 BB工場も同じように再編が必要だと認識しています。ブロック単位で安定供給できる体制ができればいいなと思います。
 ――農薬についても同じことがいえますか。
 山崎 農薬メーカーについては、生産の合理化が必要です。
 世界的には巨大メーカーに集約され、そこは開発力があり新剤を開発しています。これ以外で新剤を開発しているのは日本のメーカーだけです。それだけ日本の農薬会社は技術力があるということですが、さらに日本のメーカーが強くなってもらうためには、業界再編が必要だと思います。肥料と同様に再編して強いメーカーになって、より良い品質のものを、コストを下げて供給してもらいたいと思います。
 ――今日はありがとございました。

※山崎周二部長の「崎」の字は、正式には旧字体です。

(2009.06.11)