--今回の研究会立ち上げの背景は?
全農は子会社や県本部の不祥事発生で改善命令を受け、行政としてはその改善計画の進捗状況を監視してきたわけですが、この4月で一定の改善がみられました。そこで今後は全農の改善措置の実施だけでなく、もっと前向きな事業改革を考えていこうというのが立ち上げの理由です。
農業は厳しい状況が続いていますが、一方で集落営農や法人が増加し新たな担い手が出てきている。農産物の需要も加工向けや中食、外食需要が増えて、単に家庭向けの規格、品質では適合しないという面もあります。
こうした変化に対応した農協の取り組みはこれまで弱かったのではないか。今後、農協が地域の農業者にどう貢献するかを考えると経済事業のあり方をもう一度検討すべきだろうということです。
もうひとつ考慮しなければならないのは農地法の改正です。 農地法のあり方が、所有から利用を中心とした体系に変わり多様な担い手が参加できる仕組みになった、農協自身も農業経営ができるようになった。こうした変化に農協がどう対応していくかも研究会の課題です。
--農協が農業経営できるようになったことの意味は?
地域農業を支援するための選択肢が増えたということです。
農業者のために最大限のメリットを発揮するのが農協の使命ですから、農業者の経営を邪魔するのはおかしい。その発想は変わりません。ただ、中山間地域や耕作放棄地が発生している地域では、もはや農業者自身が手に負えなくなってしまった状況もある。
貴重な農地を荒らしてしまうのなら農協が代わりに耕作することが地域のため、ひいては組合員のためになるという観点から農業経営を認めたものです。
このため、農業経営で黒字を出すことは簡単ではないと思いますが、農協の総合力を活かして、運営していって欲しいと思います。
一方、黒字部門に頼ってしまうと効率的な経営ができないとの指摘もあります。その場合は現在、取り組んでいるようなJA出資型法人のかたちで独立採算をめざす方法もある、と思います。
--改めて部門別収支など農協経営の考え方は?
部門別にすべてを黒字に、というところまでを農協に求めてきたわけではありません。しかし、何が収益を上げ何が赤字かについてはきちんと組合員に示す必要があります。
たとえば赤字であっても、これは組合員にとって必要不可欠な事業である、と組合員全体の意志として確認してもらえば、続けていい。そのためにもきちんと部門別の収支を明らかにすることが重要なのです。赤字部門はすべて切り捨てろと言っているのではありません。
農業経営についても赤字だからやめなさいとはならないが、農協の経営や周辺の農業者に与える影響を考慮する必要がある。だから今回の農協法改正でも農協の農業経営については特別議決で3分の2以上の同意が必要としたわけです。
--第2回会合では新たな事業像構築のためには人材育成の大切さも指摘されました。
我が国の農業は担い手不足が懸念されており農業生産に携わる人を増やすことは重要なことですが、一歩先のことを考えると、作ったものをいかに売るか、あるいは需要があるものをいかに作るかということがもっと大きな課題となります。
そのためには需要を見つけてくる人が大事になる。外食やスーパーなどが何を求めているかについてつねにアンテナが高く、かつそれを自分の地域の生産者にこう作ればうまくいくと説得できる人を増やしていかないと日本の農業はうまくいかないと思います。
今はいちばん付加価値が高いところを川下にとられてしまっているから、それを取り戻すような人材を農協で育てることができれば、販売力は強化される。そのためには、営業・販売担当の仕事の目的を明確にして、川下側のニーズと生産現場を結びつけていくシステムを構築していく必要があると思います。
--第25回全国大会への期待を。
今、農業に対する国民の関心はかなり高く、21世紀の成長産業だという見方もある。
今回は「新たな協同の創造」を掲げているのだから、従来型の協同運動とは違うかたちを考えていって欲しいと思います。それは都会に住んでいる人たちも納得するような事業・活動であるべきです。
担い手が多様化し、農村の構成員も多様化してきている中で、大会議案では農業への復権に力を入れると同時に一方で地域住民とのつながりや生活、くらしの活動の充実も掲げています。しかし、やはり農業協同組合なのだから農業の発展を目指すという点は必ず押さえていただきたい。その上で、地域ごとのニーズの違いにより、その他の事業の実施方法を考えていくことが重要だと思います。
「これからは農業が大事だ」、と思っている国民の前で農業をないがしろにするような行動は農協としてとるべきではないと思っています。