特集

農協運動の仲間達が贈る 第31回農協人文化賞

一覧に戻る

15氏の輝かしい足跡讃えて 第31回農協人文化賞表彰式・記念シンポジウム

農協運動に輝かしい足跡
6部門15氏を表彰

 多年にわたり農協運動の発展のために献身的に寄与した功績者に贈る「農協運動の仲間達が贈る第31回農協人文化賞」の表彰式は7月3日都内の東京會館(アーバンネット大手町ビル21階)で開き、選考委員会の今村奈良臣委員長(東京大学名誉教授)から15氏に賞牌などを贈り、その栄誉を讃えた。式の後、受賞者全員をパネリストとして「組合員のための協同組合をどう再構築するか」をテーマに記念シンポジウムを開き、引き続いて受賞記念パーティを催した。

第31回農協人文化賞受賞者と選考委員メンバー(写真)第31回農協人文化賞受賞者と選考委員メンバー

表彰式

◆記念シンポジウムで熱っぽく議論


今村委員長より表彰状が授与された 同賞は(社)農協協会と農業協同組合新聞の表彰事業として行われてきたが、創設30周年を迎えた昨年からは「農協運動の仲間たちが贈る」という趣旨の賞にチェンジ。
 受賞候補者推薦の裾野を大きく広げ、農協全国組織などからの推薦にとどまらず、農協関連の団体や個人など「仲間たち」からの推薦も募ることにし、今年に引き継いだ。
 表彰部門も拡充し、昨年はそれまでの4部門に厚生福祉を加えて5部門としたが、今年は経済事業部門を営農事業と経済事業に分けて6部門とし、表彰対象者を増やした。
 今年の第31回受賞者は一般文化部門特別賞1氏信用事業部門2氏共済同2氏経済同2氏営農同3氏厚生福祉同1氏一般文化4氏の計15氏。
 今年は表彰式の前に受賞者同士の交流会を設け、農協協会の中川敞行会長があいさつ。
 次いで本紙前号に載った受賞者それぞれの『私の体験と抱負』の読後感について今村委員長は「これからの農協と地域のあり方や、今なにをやるべきかなどの議論が展開されており、大変な迫力を感じた」と語った。
 受賞者は座右銘などを書いた色紙を持ち寄ったが、交流会ではそれを示しながら、それぞれ発言。その一言一句には、いずれも農協運動にかけた熱い思いがこめられていた。
 表彰式では今村委員長から15氏に賞牌などが手渡され、輝かしい功績を讃える拍手が長く続いた。
 来賓祝辞ではJA全中の土屋博常務が「受賞者各位のご功績が農協人文化賞として歴史に刻まれることに心から敬意を表する」とお祝いを贈り、情勢については「市場原理主義の行き過ぎを見直す動きが強まっている中で協同組合理念に基づいた事業活動が再評価される環境が醸成されつつあるのではないか」とした。

              選考委員会 今村委員長農協協会 中川会長JA全中 土屋常務

(写真)左:選考委員会 今村委員長  
     中央:農協協会 中川会長  
     右:JA全中 土屋常務

 

シンポジウム

「組合員のための協同組合をどう再構築するか」
をテーマに記念シンポジウム

 

受賞者によるシンポジウム 「組合員のための協同組合をどう再構築するか」をテーマに表彰式のあと「第31回農協人文化賞記念シンポジウム」を7月3日、都内の東京會舘(アーバンネット)で開いた。
 約60人が参加し、同賞選考委の今村委員長をコーディネーター、三重大学の石田正昭教授をコメンテーターととし、受賞者をパネリストとして全員が発言した。
 受賞者の発言内容は農協新聞に載った『私の体験と抱負』を基に各事業部門全般にわたった。
一般文化部門受賞のJAにじ 足立組合長 その中で「待ちの医療から、出かける医療へ」「治す医療から、寄り添う医療へ」を強調した色平哲郎氏(医師)の発言は農協の事業全般に示唆を与える考え方としてインパクトを与えた。
一般文化部門受賞の大蔵氏 また戦争中に戦災に遭い、疎開先でも食糧難でひもじい体験をしたことが「私と農業を結びつけた原点です」と語った受賞者の中の紅一点大蔵浜恵さんの発言も平和と農協理念の関わりで示唆を与えるものだった。
 さらに映画会、納涼祭、フラダンス、お月見読書会など盛りだくさんな文化行事で“幸せづくり”の農協運動を進める足立武敏組合長(JAにじ)の発言も注目を集めた。


(写真)上:受賞者によるシンポジウム
     中:JAにじ 足立組合長
     下:JA女性組織協議会元会長 大蔵氏

 


◆総合農協論で議論白熱

テーマである「組合員のための協同組合をどう再構築するか」について熱く語られた。 フロアからの発言では、信用・共済事業を総合農協から分離すべきだという外部の議論に対する反対論が出て討論はこの問題に集中した。
 分離反対論の主なものは経済事業でかなり赤字を出しているが、金融事業の利益で埋めている。分離されたら農協は存続できない生活・文化・福祉事業は利益を伴い難いから、金融・共済事業でかせいで、総合的に組合員の“幸せづくり”をやっていくことが大切▽教育や指導の事業から手を引くとJAは消滅してしまう経営の透明性を高めるというが、部門別採算でコスト計算を厳格にやれば総合農協は吹っ飛んでしまう――などだ。
JA宮崎中央 森永組合長 また経済事業への依存度が57%で残りが信用・共済だ。販売・購買と合わせた4本柱をがっちり確立しているので分離論とは徹底的に闘う例えば全職員による共済推進実績を還元する電算システムを、みんなの合意でつくるなど独立採算を進めており、分離論には断固反対――などの報告もあった。
 これに対して、経済事業に依存しているが、未合併の小さな農協だから、今後の合併相手が金融依存型なら、現JAの意思が通じにくい。今の総合事業をよく考え直さないといけない――との疑問も出た。


(写真)上:テーマである「組合員のための協同組合をどう再構築するか」について熱く語られた。
     下:JA宮崎中央 森永組合長

 

◆石田三重大教授の総括

  三重大学 石田教授最後に石田教授はシンポジウムを次のように総括した。
                 ◇  ◇
 今回の受賞者の特徴を挙げると、第1に農協運動に対する献身性が高いということ。自分の一生を農協運動に捧げられた方々が選ばれている。
 第2には“幸せづくり”をキーワードにしている方々であることだ。営農だけで農協づくりができるとは考えないで、暮らしも地域のことも含めて幸せづくりをするんだという考え方をされている。
 第3は女性や青年の組織、生産部会を含めて組織づくりと、人間関係を大切にしている方々が選ばれている。 というわけで事業論が前に出るような考え方をされていないということが断言できる。
 もう1つ、コメ中心ではないJAの方々が選ばれており、そこにJAづくりを主体的に進めるキーワードがあるのではないかと私は考えている。
 今日のシンポジウムのテーマについて今春協同組合経営研究所から重要な出版物が出たと思う。一楽照男さんの「暗夜に種を蒔く如く」の復刻版だ。
 それは農協運動の原点復帰を提案している書だと私は理解する。
 そこにある運動論は組合員のための協同組合づくりをうたっており、今秋のJA全国大会議案とは対極をなすものだと思う。
 議案には「新たな協同の創造」とか「大転換期」など運動論が語られているが、中身は経営改革ではないか。
 連合組織・中央会のためのJAづくりであり、「組合員のための再構築」とは全く正反対の議案になっているのではないか。
 総合農協論だが、現実はすでに分解しているのではないか。勘定だけは総合でやっているが、実態はタテ割り事業だ。例えば信用・共済事業にどう横串を刺すのか。
 それぞれの事業を考えるだけでは刺さらない。ライフプランから信用や共済をどう利用するのかという発想を持たないと刺さらない。
 組合員の立場で考えないと総合事業は成り立たないが、今の連合会単位の発想で総合JA論ができるのかというのが私の問題点だ。
 本当はタテ割農協の実態をどうするのかを議論しないといけないのではないかと思う。


(写真)三重大学 石田教授

 

記念パーティー

農協運動の発展を願って
記念パーティーも盛況


◆受賞者の足跡を学び農協のさらなる発展を


祝辞を述べる農協協会中川会長 表彰式、シンポジウム終了後には同所で記念パーティが開かれ、200人以上が集まる大盛況だった。選考委員会の今村奈良臣委員長が講評を述べたほか、多数の来賓が祝辞を贈った。
中川敞行・農協協会会長
「農協運動は死んでいるのか生きているのかわからない。皆さんの力でそういう評価を払拭するよう、がんばってほしい」
冨士重夫・JA全中専務理事
「受賞者の皆様には仕事を通じてさまざまなご指導を頂いた。後輩として尊敬すべき方々の受賞で大変嬉しい」
加藤一郎・JA全農代表理事専務
「JAは協同組合という意識で仕事をしている。先達の受賞者に倣って、全農はこれからも一生懸命経済事業に取り組んでいきたい」
松本浩志・農林中央金庫専務理事
「農村部で貯金を増やすなど素晴らしい実績の方々が受賞した。これからも地域特性を活かした農協金融をすすめてほしい」
中村純誠・JA共済連常務理事
「草創期からリーダーシップを発揮し農協運動と地域活性化に貢献した人が受賞された。今後も諸先輩の努力を引き継いでいきたい」
下川正志・家の光協会常務理事
「シンポジウムでは永年の農協運動への尽力、理念、熱い思いを感じた。その想いを肝に銘じて、農協運動にまい進したい」
記念パーティーのようす山田としお・自民党参議院議員
「率直に言うと、私もこの賞をもらいたい。活動の原点は大事な農協をどんな風に強くしていくかということ。受賞者の足跡を全国の皆さんが学び、農協を発展させてほしい」
梶井功・東京農工大学名誉教授
「今日一番印象的だったのは佐久総合病院の誰でも入れる気軽さだ。全国のJAが、組合員が気楽に入っていけるJAになってほしい」
吉田俊幸高崎経済大学学長
「教育現場では協同組合論を教える講座があまりない。協同組合は21世紀に向けて新しい活力を持っているものだろう。協同組合の理念をより広めていきたい」


(写真)上:祝辞を述べる農協協会中川会長
     下:記念パーティーのようす

 


     JA全中 冨士専務JA全農 加藤専務JA共済連 中村常務農林中金 松本専務
      参議院 山田議員家の光協会 下川常務東京農工大 梶井名誉教授高崎経済大 吉田学長

(写真)
上段左より:JA全中 冨士専務・JA全農 加藤専務・JA共済連 中村常務・農林中金 松本専務
下段左より:参議院 山田議員・家の光協会 下川常務・東京農工大 梶井名誉教授・高崎経済大 吉田学長

 


◇農協人文化賞受賞者一覧◇

 一般文化部門特別賞
JA宮城中央会
(宮城県)元会長
駒口 盛氏
信用事業部門
JA帯広かわにし
(北海道)
代表理事会長
有塚 利宣氏
JA宮崎中央(宮崎県)
代表理事組合長
森永 利幸氏

共済事業部門
JAつくば市谷田部
(茨城県)
代表理事会長
鈴木 國勇氏
JAさが(佐賀県)
代表理事組合長
野口 好啓氏

経済事業部門
JA兵庫西(兵庫県)
代表理事組合長
中村 益夫氏
JA信州うえだ
(長野県)
前代表理事副組合長
堀 常夫氏

営農事業部門
JA士幌町(北海道)
元専務理事
太田 助氏
JA富里市(千葉県)
常務理事
仲野 隆三氏
JA糸島(福岡県)
代表理事組合長
松尾 照和氏

厚生福祉事業部門
JA長野厚生連
(長野県)
佐久総合病院地域医療部地域ケア科医長
色平 哲郎氏

一般文化部門
JAにじ(福岡県)
代表理事組合長
足立 武敏氏
JA全国女性組織
協議会元会長
大蔵 浜恵氏
JA新ふくしま
(福島県)
前代表理事組合長
大宮 勝博氏
JA鹿児島いずみ
(鹿児島県)
元常務理事
房村 守雄氏

 

(2009.07.13)