特集

人とトキが共生する米づくり
カントリーエレベーター品質事故防止強化月間(8月15日〜10月15日)

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「事故防止に向け、過剰荷受とオペレーターの人員配置への対策を」 カントリーエレベーター現地ルポJA佐渡(新潟県)

生産段階から管理し消費者の期待に応える

 今年もまた日本の食糧を支える米の収穫時期が近づいてきた。米の生産・流通・販売の拠点施設であるカントリーエレベーター(CE)では、荷受けに向けた準備が着々と進められている。トキの舞う島・佐渡島のJA佐渡では、生きものを育む農法を拡大することで、消費者の支持も拡大しているという。そのためのほ場審査から荷受・貯蔵まで、CEの仕事を取材した。

「事故防止に向け過剰荷受けと
オペレーターの人員配置への対策を」

全国農協カントリーエレベーター協議会 野口好啓会長


全国農協カントリーエレベーター協議会 野口好啓会長 わが国のカントリーエレベーター(CE)は、昭和39年に全国3か所にモデルプランとして導入されて始まりました。以降、すでに40年以上が経過し、現在では、本協議会員だけで40道府県、286JA、771施設、貯蔵能力200万トンを超えるまでに発展しています。この間、高品位で均質な米麦の供給ならびにバラ化による流通合理化によって、地域農業振興および米麦の流通合理化・省力化のために、CEは多大な役割を果たしてきました。
 現在、米麦を取り巻く環境は大きく変化しています。米麦の生産・流通の現場では、さらなるコスト削減と「安全・安心」へのニーズが強まっています。米麦の品質向上、物流の合理化、担い手を中心とした効率的な生産体制の構築という従来からの役割に加えて、トレーサビリティー、コンタミ(異品種混入)防止などを確保することがCEに求められています。
 一方で、稼働率向上や、オペレーターの育成・確保・労働条件の整備、施設の老朽化問題など、CE運営上の課題は山積しています。
 また、残念ながら、CEにおける品質事故は毎年発生しています。CEでの品質事故は発生すると被害が甚大であり、数千万円の損害金額になることも珍しくありません。品質事故は経済的な負担だけでなく、生産者から預かっている大事な米麦の品質を損ねることになり、道義的にも大きな問題であり、事故防止はCEにとっての最も大きな課題の1つなのです。
 最近の事故の特徴として、(1)高水分モミの過剰荷受け、(2)新任オペレーターの不慣れに起因するものが多くなっています。
 (1)過剰荷受けへの対策としては、荷受計画の作成や荷受ストップの実施が必要です。生産者の皆様へはご不便をかける場面もあるかもしれませんが、品質事故防止へのご理解とご協力をお願いします。
 (2)新任オペレーターの不慣れへの対策としては、主任オペレーターの人事異動の配慮等、JAでの計画的な人員配置が必要です。JAの経営者が率先して、CEの運営体制の強化を図るようお願いします。
 また、今年度もCE稼動の最盛期となる8月15日から10月15日までを「CE品質事故防止強化月間」に設定し、CEの組織的な運営体制の確立と施設・機械の清掃、点検整備の実施および関係者の連携による計画的な操業と適切な運営・管理の推進を通じて、品質事故の発生防止に万全を期することとしています。全てのCE設置JAにおいて関係者が一丸となり、品質事故防止運動に積極的に取り組むようお願いします。

 

右が第1CE、第2CEと搬送装置で連結している

(写真)右が第1CE、第2CEと搬送装置で連結している

 

◆美しい水田と歴史的文化遺産の島・佐渡


佐渡の中央、国仲平野に広がる水田。遠くに見えるのがCE 新潟港から約60km、日本海に浮かぶ佐渡島は、対馬暖流の影響による海洋性気候で冬でも温暖で降雪量はさほど多くはなく、四季の変化に富んだ美しい島だ。佐渡の植物は、海流の影響で南方系と北方系の双方が見られることが特徴だという。
 島の大きさは、周囲は約247km、面積約854平方キロメートル。伊豆大島の約10倍、東京23区、淡路島の約1.5倍と沖縄本島に次いで日本で2番目に大きな島だ。
 島の地形は、中央の国仲平野をはさんで北に大佐渡山地、南に小佐渡丘陵が縦走。国仲平野は穀倉地帯として水田が広がっているが、標高5m以下の地域はほぼ全域が水田として利用されているという。
 佐渡は国仲平野の水田地帯だけではなく、美しい海岸線や森林、長い時間をかけてつくりあげられてきた田園風景など豊かな自然に恵まれている。そして新潟港からの玄関口である両津港に着くと大きな「能の島・佐渡」というモニュメントがあるように、数多くの能舞台をはじめ相川金銀山など歴史ある文化遺産も数多く残る島でもある。
 そして現在、この島の象徴といえるのは、なんといってもファンクラブまであるトキ(朱鷺)だろう。
 佐渡の農業にもトキは大きな影響を与えている。たとえばJA佐渡の農業ビジョンでは「“人とトキの共生する島”をめざす農業」がまず掲げられている。
 佐渡最大の農産物である米(コシヒカリ)では、後ほど詳しくふれるが、コシヒカリ100%の佐渡米のブランド名として「朱鷺と暮らす郷」と「朱鷺の舞」。これに「佐渡育ち」を加えた3つのブランドがあるが、トキが佐渡米を象徴するイメージとなっている。

(写真)佐渡の中央、国仲平野に広がる水田。遠くに見えるのがCE

 


◆3つの栽培方法がある「環境にやさしい米づくり」

トキが描かれた事務所の前で内海センター長 JA佐渡は、平成5年に島内の羽茂地域を除く5JAが合併して誕生した。現在、組合員は正准合わせて1万3000名強。95億円前後の販売事業の83%が米(19年度)という、米を中心としたJAだ。
 その作付面積は、約5400ha。そのうちコシヒカリが4600haと8割以上を占める。コシヒカリ以外のうるち米として早生品種の「こしいぶき」の作付拡大にも力を入れており、その他に、需要に対応した、酒米やもち米の栽培もされている。
 JA佐渡の米づくりの基本的な考え方は、先ほどもふれた「“人とトキの共生する島”をめざす農業」に基づいた「環境にやさしい佐渡米づくり」だ。
 「環境にやさしい米づくり」とは具体的には、化学農薬・化学肥料を慣行栽培より3割減らした「佐渡育ち」、
5割減らした「朱鷺の舞」。そして5割減減栽培の上に「生きものを育む農法」による佐渡市認証米「朱鷺と暮らす郷」の3つの栽培方法による米づくりのことをいう。
 「朱鷺と暮らす郷」の生きものを育む農法とは、中干し期にも水が枯れないよう田んぼの中の畦畔側に「江」(深み)を設置する。「冬期に湛水状態」を維持する。生き物が田んぼと水路を行き来できるように「魚道」を設置する。減反田などに湛水状態をつくり、ビオトープ(周辺地域から明確に区別できる性質を持った生息環境の地理的最小単位)として管理する、など1年中田んぼにさまざまな生きものが生息できる環境をつくることだ。
 「朱鷺と暮らす郷」は佐渡市認証米として市から一定の助成がされており、行政からほ場の点検などを受けている。

 

(写真)トキが描かれた事務所の前で内海センター長



◆ステップアップしていく生産者

 20年産米についてみると、「環境にやさしい米づくり」「佐渡市認証米」の効果があって、販売契約は早めに全量終了したという。
 そうした効果もあってか、21年産については、表のように5割減減以上の作付面積は1932haとなり、全作付面積の42%と20年産より18ポイントの増となっている。そのうち佐渡市認証米「朱鷺と暮らす郷」は20年産の倍近い782haとなっておりその生産者は450名だという。
 20年産で3割減減栽培した生産者が、5割減減へ、5割減減した生産者が生きものを育む農法を取り入れるなど、それぞれステップアップしていく生産者が多いからだという。
 それも「慣行より8割減減」というような地域の農業に合わない無理な条件設定をせず、5割減減にとどめたうえで、ちょっとした努力で、生きものと共生できる環境づくりをする施策が生産者に受け入れられている結果だともいえる。

環境にやさしい佐渡米づくりの進捗状況

 

◆栽培方法が異なるコシの区分荷受が課題


カントリーエレベーターの管理を行う こうした佐渡米の集荷・販売拠点であるJA佐渡のCEは、国仲平野のほぼ中央、つまり佐渡島の真ん中にある。JA佐渡CEは、平成2年設置の第1CEと平成7-8年設置の第2CEが同じ敷地内にあり、搬送装置で連結し5000t規模の能力を発揮させ、荷受け時間の短縮や籾貯蔵の円滑化をはかっている。
 しかし、すでにみてきたように、作付の圧倒的なものはコシヒカリだ。当然、荷受け期間は10日間くらいの間に集中する。消費者の低価格志向に応えるための「こしいぶき」の作付拡大や平日の荷受けについては利用料金を安くするなどの措置はとっているが、小規模な兼業農家が多いためなかなか効果が発揮できないという。
 しかも同じ佐渡産コシヒカリといっても慣行栽培を含めれば4種類の米がある。20年産米でCEが荷受けしたコシヒカリは3割減減と5割減減の2種だが、21年産米からはこれに「佐渡市認証米」も荷受けする(20年産ではこのほかに五百万石とこしいぶきを荷受け)。
 荷受け後の品質事故防止はもちろん大事だが、これらの米をコンタミせずに荷受けし、貯蔵管理することがCEの最大の課題だと、JA佐渡営農部の内海智誠カントリーエレベーター・有機センター長はいう。

 


◆ほ場審査や色分けした帳票で事故を防止

 

 そのためにJA佐渡では、一筆ごとに品種・栽培方法を記入する「CE利用対象圃場明細書(兼圃場審査確認台帳)」を提出してもらう。また各ほ場には、地番・面積、水田耕作者の住所・氏名、作付品種を記入した「利用対象圃場確認票」を設置してもらう。
 そして8月下旬から9月初旬にかけて「圃場審査」が行われる。この審査は、JA職員を中心に班編成された「圃場審査員」によって、(1)混種・混植の有無、(2)倒伏の程度、(3)病害虫の発生程度、(4)雑草(クサネム)の有無が審査され、問題がないことが確認された米だけがCEで荷受けされる。
 今年から佐渡市認証米も荷受けすることになったので、荷受け時に黄色の荷受票箋と白地の生籾荷受票の「3割減減コシヒカリ」、緑色の荷受票箋と生籾荷受票の「5割減減コシヒカリ」、ともにオレンジ色の「佐渡認証米コシヒカリ」と色分けした3種類の帳票を作成し、これを添付することで生産者とCE側がきちんと確認して荷受けすることにした。
 内海センター長は、今年の全国農協CE協議会総会で優秀オペレーターとして表彰されているように、荷受け後の品質事故防止には実績がある。しかし、「炎天下の審査はきつい」けれど、トキをシンボルに「環境にやさしい佐渡米」として消費者からも期待されていることに応えるため、生産段階から「品質管理」に取り組んでいる。
 それが米の生産・流通・販売の拠点施設としての責任でもあるといえる。
 今年もトキの放鳥が計画されている。「多くのトキが佐渡に定着してくれて、いつでも田んぼで逢えるようになるといいな」と別れ際に内海さんが風になびく緑の田んぼをみながらつぶやいた。その日が来るのはそう遠くはないような気がする。

       朱鷺の舞コシヒカリ佐渡育ち朱鷺と暮らす郷


平成21年度CE品質事故防止
強化月間の取り組みについて (要旨)


趣  旨

CE品質事故防止を呼びかけるポスター(1)カントリーエレベーターにおける米の品質事故は、過剰荷受けによる乾燥処理の遅れや不適切な乾燥作業等に起因して発生したものが多い。このため、稼働期間中は、乾燥能力に応じた計画的な荷受けと基本の運転操作を行うことが重要である。
(2)また、最近では気候の温暖化によって、乾燥時の外気温が高く、高穀温のまま半乾貯留や貯蔵に入るケースが増え、その後の穀温管理やローテーション操作等が適切に行われなかったために品質事故となる事例も増えている。
(3)品質事故防止は、施設が健全かつ適切に運営されることが、先ず基本である。オペレーター等、現場従事者だけでなく、経営者や施設管理者、そして利用組合等の生産者組織も含めた、三者が施設業務を十分に理解のうえ、常に一体となって進めることにより、はじめて品質事故を防ぐことができるものである。
(4)このため、施設稼働の最盛期であるこの月間を通じて、従来の施設運営や運転操作を再検討し、必要な個所は見直して、本年の取り組みに備える。
(5)なお、CEでは近年、乾燥機の火災事故や怪我・人命に関わるような人身事故も発生していることから、併せてその防止対策にも取り組むものとする。

カントリーエレベータでの米麦事故を防ぐポスター
期  間

平成21年8月15日から10月15日までの2カ月間

目  標

(1)品質事故の防止
(2)火災・人身事故防止等、安全な施設運営

 

具体的な実施内容・取り組み事項


(1)全国農協カントリーエレベーター協議会、全農本所、(財)農業倉庫基金
ア.
県本部・県農協・県連(以下県本部・県連等という)のカントリーエレベーター担当者(指導員含む;以下、担当者という)を対象にした研修会を行う。
イ.「カントリーエレベーター品質事故防止マニュアル」(以下「品質事故防止マニュアル」という)の見直し作成を行い、施設設置JA、県本部・県連等に配布する。
.「カントリーエレベーター品質事故防止カレンダー」(以下「CE業務カレンダー」という)を作成し、配布する。
エ.半乾貯留や貯蔵(保管)時の穀温チェックを徹底するため、「カントリーエレベーターサイロ保管管理日誌」を作成し、配布する。
オ.系統機関誌等を利用して、品質事故等の防止を広報する。

(2)県カントリーエレベーター協議会、県本部・県連等
ア.
カントリーエレベーター担当者は、この月間中、重点的に巡回指導を行う。
イ.品質事故防止の徹底を期するため、適宜、研修会を行う。
また、「品質事故防止マニュアル」をJAに配布し、その冊子内の「自己点検表」のとりまとめを行うとともに、問題点を把握してJAを指導する。
ウ.情報誌等を活用して運動の広報を行う。
エ.JAに対し、施設別の「運営管理マニュアル」を、CE品質事故防止対策を含めた内容で作成・整備または見直しするよう指導する。また、CEの運営管理状況を取りまとめて、今後の管内施設運営の向上を図る。

(3)JA
カントリーエレベーター設置JAは、期間中、次の事項に取り組み品質事故防止等の徹底をはかる。
ア.組織的な運営体制の確立
施設の円滑な運営をはかるため、JA主導のもとに、利用組合組織、オペレーター等現場従事者ならびに施設管理者・JA役職員が一体となった組織的な運営体制を確立する。
イ.環境美化、施設・機械の清掃・点検整備の実施
施設の稼動に先立ち、施設内外について徹底した清掃を行う。また、メーカーの協力のもと乾燥機・ベルトコンベアー・穀温計等の点検・整備を行う。特に乾燥機の、燃焼装置の点検整備は専門メーカーに依頼する。
ウ.施設の計画的な操業と適切な運営・管理の遂行、および作業安全の確保
(ア)施設の乾燥能力に応じた荷受けを徹底するため、事前に日別の荷受計画を定めて、関係者に周知しこれを遵守する。
(イ)稼動期間中は、必ず荷受休止日を設け、乾燥作業の調整を行う。また、運営委員会などにおいて事前に荷受中止の判断を行う責任者を定める。
(ウ)従来の運転操作の再確認と見直しを行う。
(エ)施設の稼働中、次の事項を適宜確認し、円滑な操業を行う。
(1)毎朝、点呼と作業内容の確認および安全作業の励行
(2)乾燥能力に応じた適正な荷受けの実施
(3)荷受け時の品質チェックと自主検定の実施
(4)籾水分と外気温に応じた効率乾燥の実施
(5)基本技術と適正な作業による安全運転の励行
(6)迅速かつ確実な仕上げ乾燥と冷却パス(穀温低下)による貯蔵の実施
(7)乾燥機運転中の随時点検見回りの実施
(8)半乾貯留時および貯蔵時の穀温監視と適切なローテーションの実施
(オ)経営者および施設管理者は労働災害の防止に努め、オペレーター等現場従事者の安全を図るため災害防止措置をとる。またオペレーター等現場従事者は、災害防止措置に協力して自己の安全を図る。
 特に、危険が予測されるような作業においては、作業マニュアルを作成し、事故防止につとめる。
エ.施設管理者は、稼動前に運営委員、生産組織等関係者を集め、「品質事故防止マニュアル」等を活用し、業務検討会・研修会を開催する。
オ.自己点検は、事故防止の基本であるので、主任オペレーターが「品質事故防止マニュアル」冊子内の「自己点検表」に点検結果を記入し、稼動前に必ず施設管理者の閲覧・点検を受け、速やかに県本部・県連等に送付する。
カ.経営者および施設管理者は、オペレーターが期間中過重労働にならないよう労務管理に細心の注意を払う。
キ.施設管理者は、随時荷受状況や乾燥状況を把握し、適切な指示を行う。
ク.施設の運営について、JAだより、集落会合などを利用し、生産者の理解と協力を求める。また、「CE業務カレンダー」や「新聞掲載記事(かべ新聞)」を掲示し、品質事故防止意識の徹底をはかる。
ケ.経営者および施設管理者は、各施設の主任オペレーター等と協議して、施設毎に「運営管理マニュアル」を作成または見直しを行い、県本部・県連等に送付する。
オペレーター等現場従事者は、この「運営管理マニュアル」に沿った作業を実施する。

(2009.08.13)